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008 心得
しおりを挟む燃えるモノがなくなれば、次第に火勢も落ち着いてくる。
ついには焦げ臭いニオイを漂わせ、炭と化し動かなくなったロード級。
あとは念のために熱が冷めてから死亡を確認するばかり。戦闘が終わったからとて、すぐに気を緩めない。これを残心という。冒険者心得の一つ。
俺たちが距離をとって待機していると、じきに洞窟の入り口の方から歓声が聞こえてきた。
「やれやれ。どうやらあっちも片がついたようだな」
「うぅ、飛んだり跳ねたり、重い荷物を担いだり。こ、腰が」
「あぁ、最後の荷運びは余計だった。おかげでわたしも膝が少々震えている」
キリク、ジーンらと自分たちの散々なデビュー戦について苦笑いを浮かべていたら、俺の目に映ったのは「すげえ」「丸コゲだ」「うわぁ」などと言いながら、ガヤガヤと迂闊にも焼け爛れたロード級へと近づく一団の姿。
すべてを視界に納めたとき、なんとなくイヤな予感がした。
冒険者稼業を長く続けていると、勘のほかにも鼻もずいぶんと効くようになる。死臭というヤツは特に臭うもの。
考えるよりも先に体が動いていた。
「バカ、下がれ! 危ない!」叫びながら俺は駆け出す。
その声に呼応するかのようにして、黒炭の中にギラリと不吉な光が出現。
ロード級が閉じていた瞼を開けたのだ。
重度の火傷によって皮膚が削がれ赤身がむき出しとなった腕が、地表を薙ぎ払うかのようにして振るわれる。
俺は手にしていた斧をチカラの限りぶん投げる。
ロード級の肘にズブリとめり込んだ斧。衝撃で腕の軌道が逸れて、スレスレで近寄っていた一団の頭上を通り過ぎた。
その隙に逃げてくれればよかったのだが、あろうことか一人がつまずきポテンと尻もちをついてしまう。
そこへ振り下ろされる拳の一撃。
俺は両者の間に飛び込み、盾にて拳をいなしつつ、足下の若手を蹴飛ばし救出。
わずかに残った命。こいつが込められた拳。文字通りの死力を尽くしたロード級のソレは非常に重かった。
盾が悲鳴を上げて軋み、へこみが拡大、亀裂が生じる。
とてもさばききれないと判断した俺は相棒を手放すのと同時に、腰の片手剣を抜いた。
伸びきったヤツの腕に添うようにして、回転すること一回半。
一気に間合いを詰めたところで、たっぷりと遠心力の乗った刃をその首筋へと振り抜く。
手の中に伝わる感触が固い。密度の濃い筋肉の壁が激しく抵抗。刃の行く手を阻む。
俺は雄叫びをあげながら、空いている腕にて自身の剣の背に向かい掌底を放つ。
すると刃が肉の壁を抜けて、その奥へと通る。
気合一閃。ロード級の太い首を半ば断ち切ることに成功。
しかし無理な角度にて強引に打ち込んだせいか、刀身が耐えきれずに半ばからボキリと折れてしまった。
あげくに勢いよく噴き出したヤツの返り血で、俺の全身はずぶ濡れ。
ただでさえ臭いモブの血。ロード級ともなればその比ではない。
この分では革の鎧も服もブーツも、もろもろ全部がダメになるだろう。
盾と剣も壊れたから被害甚大。ちょっとした訓練のつもりで足を運んだだけだというのに、とんだ大赤字である。トホホ……。
「いやー、今のは見事な一撃だったなぁ、フィレオ。それにしても、おまえ、なんであれだけ戦えるのに、ずっと三等級止まりだったんだ?」
ホメるわりには数歩下がって、鼻をつまみ近寄ってこないキリク。
「ふむ。今日一日行動を供にした限りでは、わたしも同意見だ。もしかしてパーティーメンバーに恵まれなかったのか?」
これまた微妙に距離を置くジーン。的確に自分に被害が及ばない距離と決して風下に立たない周到さには恐れ入る。
ジーンの言葉で俺の脳裏に浮かんだのは、自分を捨てたラナの顔。
べつにラナに実力がなかったわけじゃない。彼女とてちゃんと日々成長していた。だが八歳差の彼女がパーティーに加入したことで、それを考慮した難易度の依頼を選んでいたのは事実。
が、それを含めてもすべてはリーダーだった自分が決めたこと。
いまさらラナのせいで昇級が遅れていたと言うのも卑怯だろう。だから俺は「さぁな」とだけ答え、曖昧な笑みを浮かべるに留めた。
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