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016 号令
しおりを挟む旅を続けること十日目。
俺たち一行はようやくスウェラー家が治める山岳地帯と、その手前に広がる大森林を視界の先に捉える。
この森から奥がスウェラー家の所領。
今夜は手前にあるタクの街にて一泊。ここで準備を整え、明朝より領内へと足を踏み入れる。
森を抜けて山の麓にある都市ラタバードのギルド支部に荷物を届ければ、依頼は完了。
ここまでの道中、特に何も起こらなかった。
怪しい人物の接触もなく、敵とおぼしき相手に荷を襲われることも、モンスターと闘うこともない。
一度だけカウルを見かけるも、こちらを遠目に眺めただけで近寄ることもなく、すぐにどこかへと消えてしまった。
カウルとは額に尖った一本角を持ち、全身が踏み散らかされた雪のような色の毛で覆われており、長い尾を揺らしながら四本脚で大地を駆けるモンスター。
動きは俊敏にて、大きさは三人掛けの長イスほど。獲物の首筋に喰らいつき、牙を立てる姿はおっかないが、根が臆病な性質にて、あまり人前には姿をあらわさない。魔石も採れるが小さく、角のみがギルドで買い取り対象。だがあまり高くはない。よって命懸けで戦っても旨味がない。
旅の間中、尾行や監視の類にも注意をしていたが、その気配もまったくなし。
パーティ―「オジキ」の旅は拍子抜けするほどに平穏続き。
だがそれゆえに俺たちは、いささか疲労を覚えていた。
来るのかどうかもわからない相手を警戒し続けるのは、たいそう骨が折れる。
そして睡魔との激闘は、いくら経験を積んでも、ちっとも慣れないから困りもの。
スウェラー家の領地が誇る大森林の外縁部。
それを臨む位置にて存在するタクの街にて宿を取った俺たち。
敵が狙うとすれば、まずはここだろうとの憶測から、三人共に気合を入れ直す。
いつものように交代で就寝。
クジにて休む順番を決め、今夜は俺からとなった。
早速装備を解き、寝台にて横になって瞼を閉じる。いい感じでウトウトするも、生憎と夢の国へは旅立てない。
「カン! カン! カン! カン!」
夜更けにも関わらず、けたたましい半鐘の音が街中に鳴り響く。
「なんだ?」
驚いた俺は跳ね起き、すぐさま枕元に置いてあった剣に手をのばす。
窓を開けてキリクが外の様子を伺っている。
室内にジーンの姿はない。事情を知るために宿の受付へと向かったそうな。
俺は素早く脱いでいた革鎧を着込み、身支度を整える。
支度を終えたタイミングで戻ってきたジーンが口早やに告げた。
「森に異変が起きたようだ。それで冒険者は残らずギルドに集合せよとのお達しが来たぞ」
ギルドマスター権限による号令。
強制力があり、等級のいかんに関わらず、管理地域に居合わせた全冒険者は、これに従う義務がある。
その気になれば第一等級のバケモノすらをも支配下に置けるチカラ。
ゆえにおいそれとは行使されない。
そんなシロモノが発動されたということは、タクの街にかなりの危機が迫っているということ。
「わかった。俺たちもすぐに向かおう」
宿を一歩出たら、外は祭りのごとき喧騒。ただし悪い意味で、だ。
人混みをかき分けつつ、俺たちは冒険者ギルドへと辿り着く。
フロアには駆けつけた大勢の冒険者たちの姿。だが……。
「うん? 号令がかかったわりには数が少なくないか」
首をひねるキリク。
これには俺も同意見。通常ならば建物に入りきらないほどの、大量の人員が集まるもの。しかし現状、一階フロアの半分が埋まるかどうか。これではむしろ、いつもより少ないぐらいじゃないのか? せいぜい十五か六組ぐらいしかいない。
ジーンがすぐそばにいた同業者を捕まえて、理由をたずねている。
会話に聞き耳を立てれば、いくつかの有力パーティ―が依頼を受けて、街を出たのと前後してしまったせいらしい。しかもそいつらがこの街で看板を背負ってる実力者だというから、まぁ、なんと間の悪い。
つまり現在、この街にいるのは四等級以下ばかりにて、戦力としてはかなり心許ない状況ということ。
そしてそんな状況に巻き込まれた俺たちも、かなりツイていない。
ざわつく中、余所者の俺たちは隅の方に三人で固まり、自分の武器や互いに装備の点検などをしつつ待つ。
じきに職員らを伴い二階から降りてきたのは、痩せぎすの青白い肌をした男。
彼がこの街のギルド支部長トト。
それを見て、キリクとジーンは険しい目つきとなり、俺はますます自分たちの不運を嘆かずにはいられない。
ギルドマスターには主に二種類いる。
元冒険者にして実績や功績から本部に請われて、その立場についた者。
生粋のギルド職員にして、堅実に職務に勤め栄達し、その地位についた者。
どちらも一長一短ながら、今回のような緊急事態、それも明らかに厳しい局面のときには、やはり経験と実力を兼ね備えた前者が望ましい。
いや、見た目だけではわからない。
もしかしたら、ああ見えて、とんでもない実力者なのかも……。
とか俺が考えていたら、青白い肌の男は、その顔を更に青くして「あぁ」とうめくなり、そのままパタリと倒れてしまった。
これには集っていた冒険者一同の目が点となり「えぇっ!」
慌てた職員らに担がれて退場していくギルドマスター。
その姿を呆然と見送るしかない冒険者たち。
フロア内が微妙な空気となる。外から聞こえてくる半鐘の音が、あいかわらずやかましい。
「ふむ。どうやらせっかく号令をかけたというのに、あまりの集まりのショボさにショックを受けて倒れてしまったようだな」
いち早く淡々と事態を受け入れたジーン。さすがだ。
キリクはツボに入ったらしい。しかしこの場でゲラゲラ笑うわけにもいかないから、自分の口元を手で押さえて、必死にこらえている。
俺? 俺は「まぁ、こういうこともあるかな」程度である。
長いこと冒険者生活を続けていれば、ままならない目に合うことも多い。
個人的には突然のパーティー解散よりも、よっぽど気が楽。
なにせ最悪でも冒険者として生き、そして死ねるのだから。
冒険者冥利に尽きるというもの。
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