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017 女傑
しおりを挟むリーダー不在にてギルド内部が騒然となりかけたとき、コツコツという音が悠然と階段の上から降りてくる。
姿を見せたのは杖を手にした女性。ややクセのある歩き方。おそらくは右が義足。
白髪交じりながらも、年老いてなお眼光鋭く、覇気を漂わせている。
元冒険者であることは明白。それもかなりの実力者。
そんな彼女が手にした杖にて、床を強く打ちつける。「ドン!」と重く鈍い音が鳴った。
「ガタガタわめくな、ヒヨッコども」
けっして声を荒らげたわけでも、張ったわけでもない。
だが、それだけで場を支配するには充分であった。
優れた冒険者、それも大規模なパーティーを率いるリーダーの声には、ふしぎなチカラがあると言われている。
どれほどの乱戦、修羅場の最中であったとしても、指示が的確に相手の耳に届く。それがリーダーの資質ゆえか、絶対の忠誠を誓い心酔するリーダーの声を欠片でも聞き逃すまいとするメンバーらの想いがなせる技なのかはわからない。
だが、この老婆がそれに相当することだけは確か。
俺やジーンだけでなく、いつしかキリクもすっかり真顔となって、彼女を見つめていた。
「あたしの名前はデューサ。ここの元ギルドマスターだ。現役があのザマなんで、ちょいと顔を出させてもらった。それで現状だが森の奥から街へと、多数のモンスターが向かっている。だがスタンピートとはちがう。それほどの規模ではない。おそらくは森の中央、もしくはラタバードの方で異変が起こった煽りかと思われるが、詳細は不明だ」
スタンピートとはモンスターの大氾濫のこと。数千数万単位のいろんなモンスターが津波となって押し寄せる現象。
いろんな条件が重なることで発生する災厄にて、国をあげて対処するような事案。
無闇な乱獲や環境破壊が原因との説がまことしやかに囁かれているが、本当のところはわかっていない。
集った冒険者たちを順繰りに睥睨していくデューサ。
その視線が俺たちのところで止まった。
「そこのデカいのと、枯草のボサボサ頭と、眼鏡の色男。あんたら等級は?」
問われたので素直に「第六等級パーティ―です」と俺が答える。
途端に周囲にいた同業者らの大半は小馬鹿にしたような雰囲気となるも、デューサだけは表情を変えない。
「この状況の中、特に浮足立つこともなく、いつでも殺れる準備を整えている奴らが六等だと。あんたら、いったい何をやらかしたんだい?」
「いや、たんにそれぞれのパーティーが解散してしまっただけで」
俺は正直に理由を口にするも、デューサは胡乱げな視線を向けてくるばかり。
どうやら悪さをして降格処分を喰らったベテランとか思われてしまったようだ。なるほど。そういう見られ方もあるのかと、俺は今更ながらに知った。
「ふん。まぁ、細かいことはいいさ。うちとしては戦力にさえなればいいからね。それでみんなもよくお聞き。今回の戦いは、勝つ必要はない。街と住民たちが生き残るを第一とする」
この街は目の前に大森林を臨み、領境に位置していることから、防衛に固い造りとなっている。こじんまりとした規模の街をぐるりと囲む外壁は高さこそないが、厚みはそこそこにて、石材にも魔法が付与されており強度が増している。
よほどの大型なモンスターでも突っ込んでこない限りは問題ない。
そこで今回は門を閉じ、内部に侵入しようとするモンスターらをひたすら外壁の上で迎撃しつつ、嵐が過ぎるのを待つ。これがデューサの立てた作戦だった。
街の守備隊と冒険者らを合わせても、心許ない戦力。
よって撃って出るのは論外。本来ならば有力パーティーの別動隊にて、背後から挟撃でも仕掛けたいところだが、そのための駒がない。
守るべき者を抱えている以上は、地味だがこれが一番堅実な方法なのだろう。
「それでこの中に魔導士は何人いる? 眼鏡の色男をいれて四人っぽっちか……。まぁ、いい。おまえたちはギルドの屋上へ行きな。そこにいささか草臥れちゃあいるが、結界用の機具があるから、そいつの面倒を頼む。それから隣のデカいの、あんたみたいな腕っぷし自慢は外壁へ。あっちに長物を用意してあるから、そいつで群がる連中を片っ端から叩き潰しな。あとボサボサ頭、あんたみたいに身軽なのは伝令と遊撃でせいぜい駆けな。ほら、わかったらとっとと持ち場につけ。モタモタしている時間なんてないよ」
デューサの指示で振り分けられた先へとぞろぞろ動き始める冒険者たち。
それらを尻目に俺が拳を突き出すと、ジーンとキリクもこれに倣う。
「二人とも死ぬなよ」
「当たり前だ。せっかくパーティーを組んだというのに、即解散とか笑えん」
「だな。まぁ、無理せず、ぼちぼちやるさ」
互いの拳を軽くぶつけ合い別れを済ませ、俺たちはそれぞれの持ち場へと向かった。
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