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026 おねだり
しおりを挟む気を失っている敵軍の指揮官。その足首を無造作に掴んではズルズルと引きずるアトラ。これでも一応は今回のお家騒動の首謀格らしく、ジジイのところに持っていくそうな。
アトラに先導される形にて、パーティー「オジキ」はついにラタバードの都入りを果たした。
すでに内部での騒乱も終結しているらしく、街は平穏そのもの。
道行く人たちの表情からして、この分では現当主であるダロン・スウェラー側が勝利したのだろう。
鉱石と木材が豊富に採れる地だけあって、通りには問屋や工芸品などの職人の店が多く軒を連ねており、それを求める人たちで盛況。景気がいいとの話は本当だったようだ。この分だと帰りにも何か美味しい仕事にありつけるかもしれない。
都の造り自体はだいたいどこも同じ。
中央に向かうほどに偉い人と金持ちの区画となっている。そして冒険者ギルドは門にほど近い外縁部の出入りがしやすいところと相場が決まっているので、俺たちは真っ直ぐそちらへと向かう。
背後からズルリズルリと音がする。
アトラがどこまでもついて来る。周囲から向けられる胡乱そうな視線が痛い。
それを耐えて冒険者ギルドの前に到着。
さすがにここでお別れだろうと期待したが甘かった。ついには俺たちに続けて中まで入ってきた。
当然ながら、第一等級冒険者である紅風の登場に、現場は騒然となる。
すぐさま幾重にも人垣ができ、さしものアトラも身動きが取れなくなった。あまり背の高くない彼女はすぐに屈強な冒険者らに囲まれて埋没。
その隙に俺たちは受付へ。
トワイエより運んできた木箱をギルド職員の男性に渡して依頼完了。
作戦の方がどうなったのかとたずねたら、「無事に滞りなく」とだけ。あと俺たちが到着したのは四番手ということも教えてくれた。
アトラク商会専属の輸送部隊や腕利きのパーティーらと同時進行していたことから考えれば、まずまずの成果であろう。
前半のお気楽さが嘘のように、後半が怒涛の展開続き。
正直、おっさんたちは疲れた。
俺とキリクとジーンは揃って人だかりの方をひと目見てから、黙って頷き合う。そのまま人混みを避けて壁際をこそこそと移動。目指すのはもちろんギルドの外。
すでに用件は済んだ。ならばあとはヤバい女と深みにはまる前に、とっととおさらばするのみ。
まずはキリクが先行。音を殺して扉を開け放ち、逃走経路を確保。
次にジーンが続き、最後は俺が背中を丸めて差し足忍び足。
脱出直前にチラリと背後をふり返れば、あいかわらずの盛況ぶりにて、アトラの姿はどこにも見えず。しめしめ、危ないところであったがどうにか切り抜けられた。
そーっと扉を閉める。
扉が閉まる際、ふと耳元で「またね、フィレオ」という声が聞えたような……。
いや、そんなはずはない。きっと気のせい。
◇
ラタバードの都、その中央にそびえるはスウェラー家の居城。
内部では先の騒乱の後始末で役人たちが大わらわ。
それらを尻目に派手な鎧姿の男を引きずっていくのは大剣を背負った女。見た目小娘、実年齢二十歳のアトラ。
第一等級冒険者である彼女が王さまの命令によって、この地に派遣されていたことを城内で知らぬ者はいない。そして彼女がちょっと変わっているのもみんなよく知っている。だから誰に見咎められることもなく我が道を征く。
ついた先は城の中枢である執務室。
ノックもせずに扉を開ける。室内もまた多数の書類が舞うあり様。
その奥にて次々と部下に指示を飛ばしていたのは、かくしゃくとした白髪の老人。彼こそがスウェラー家の現当主ダロン・スウェラー。
仕事に追われて殺伐とした雰囲気。愚か者どもの起こした騒動の尻拭いをさせられているせいで、機嫌がすこぶる悪い。言動の節々がいつにも増してトゲトゲしい。
深い皺を刻み厳しい顔をした老人。それが入ってきた女の顔を見るなり、とたんにふにゃけた。
「おぉ、アトラちゃんか。外の方はもう片付いたようじゃの。すまなんだなぁ、面倒ごとを押しつけてしまい。よもやあれほどの規模の兵を動かすとは思わなんだ。一歩間違えれば国軍を差し向けられてもおかしくないというのに。まさかここまで阿呆じゃったとは……」
「べつにかまわない。それよりもジジイ、コレ」
ポイっと投げ出された男。派手な鎧が石床に当たってガチャンとなる。
大量のタンコブで頭部がやや変形。顔はすり傷だらけで血まみれ。結果的に市中引き回しの刑に処されたことで、顔がパンパンに腫れたお土産を見て、ダロンは「ぷぷっ」と吹き出す。
「ククク、これはなかなか。いい気味じゃわい。とはいえ、とりあえず回復させねばな。誰かわからぬのでは、せっかくの公開処刑が意味をなさぬからの。まったく最後まで手間をかけさせおる」
足下の男をつま先で軽く小突いてから、ダロンが手を鳴らす。
すかさず二人の騎士が姿をあらわし、転がっていた男を地下牢へと運んで行った。
それを見送ることもなく、すぐに視線を目の前の相手に向けた老当主。
「それで今回、いろいろと骨を折ってくれたアトラちゃんに、ワシとしても個人的にお礼をと考えておるんじゃが。何か欲しいモノはないかの? 服でも家でも飛竜でも、なんでも買うてやるぞ」
今回の派遣は王命による。だから報酬もまたそちらから出るのだが、そんなのは関係ないとばかりのダロン。ようは孫娘のごとくアトラを可愛がっているのである。
しばし考え込む仕草を見せたアトラは、ポンと手を叩く。
「だったらフィレオが欲しい」
まさか男の名前だとは思わなかったダロン。てっきりお菓子とか若い娘に流行しているアクセサリーとかを想像。「ほうほう、そうか。わかった。では早速、手配しておくとしようかの」と安請け合いしてしまう。
このことが後々に、けっこうな騒動へと発展することになろうとは知る由もなかった。
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