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027 ジーンの指輪
しおりを挟む冒険者ギルドを無事に抜け出したパーティ―「オジキ」の面々は、しばらくラタバードの街をそろって散策。
依頼を受けようにもギルドにはアトラ旋風が吹き荒れているので、しばらくは近寄れそうにない。今は焦らず、ほとぼりが冷めるのを待つのみ。冒険者にはときに忍耐も必要。
俺は武器防具を扱う店にて、壊れた盾や剣の代わりを購入。ついでにボロボロになっていた革の鎧も新調した。
といっても、すべて既製品の安物で済ませる。
トワイエに戻るまでの一時しのぎにて、ちょっとしっくりこないが、これでガマンするしかない。
帰ったら若い時分から世話になっている鍛冶職人のガンツに頼むつもりである。だが……。
「きっと『また壊したのか!』って、怒鳴られるんだろうなぁ。いや、それどころかひさしぶりにゲンコツが飛び出すかもしれん」
鉄のハンマーでぶん殴られるかのような一撃を想い出し、俺は思わずぶるると肩をふるわす。
ボヤキを耳にしたジーン、指おり数えて「そういえばいっしょに組んでからこっち、依頼を受けるたびに一式がダメになっているな」
「そのうち『ソードブレイカー』や『シールドクラッシャー』とか異名がついたりして」
キリクが愉快そうにキシシと笑う。
「かんべんしてくれ」
俺は顔をしかめる。ただでさえ「オジキ」とからかわれるのに、そこに武器破壊の悪名なんぞついたら、ますます手に負えなくなってしまう。
食料品店に立ち寄りアトラに喰い尽くされた携帯食を補充。
次はジーンの希望で魔導士御用達の専門店に足を運ぶ。
表の通りから一本奥へ入ったところにある店舗。
薄暗い店内には怪しげな品がゴロゴロ。
前衛職と斥候職には縁がない場所にて、物珍しさからおっさん二人してキョロキョロ。
その間にジーンは店主と呪文めいたやり取りにて、吟味に吟味を重ねつつ、魔具を作るための素材をいろいろ購入。「指輪がダメになったので新調せねばならないからな」との話だったが。
専門店を出てから、そういえばと今更ながらに、いつも彼が身に着けている指輪類の一切が見当たらないことに俺は気がついた。
あったモノが無くなる。すべてに原因と結果がある。
少なくともタクの街に入るまで指輪は確かにあった。なにせ目立つからな。
けれども改めて丹念に記憶を辿れば、タクの街を出た時点で数が減っていたかも。
てっきり戦いの最中に壊れたのかと思っていたが、よくよく考えてみれば防衛戦の時、彼はずっとギルドの結界機具にかかりっきり。ジーンの働きがなかったら結界は満足に発動しなかったとデューサより聞いている。
そして先の紅風との一件。
紅風の斬撃を受けたとき、土壇場でジーンが発現させた「硬化」の付与魔法。ほとんど無詠唱に近い時間で放たれていた。ありえないこと。それが起きた。
いや、あれは明らかに人為的なもの。
すべての点と点が頭の中でつながってゆく。
「ひょっとして、指輪が……」
詠唱短縮の秘密だったのか? という俺の推理が最後まで披露されることはない。
ジーンの手でがっつりと口を塞がれたからである。もがもが。
「しっ、そんな大事を気安く人前でしゃべってくれるな。どこで誰が聞いているのかわかったもんじゃない」
精神集中と詠唱が不可欠の魔法。
無詠唱かつ連続行使を実現したのは、歴史上、三人の勇者だけとされている。
以来二千年以上も数多の魔導士たちが、この難題に取り組んでは敗北してきた。
ジーンの指輪が光明となるのかはわからない。だがその可能性があるというだけでも、彼の身に危険が及ぶのは必定。
「まだまだ欠点だらけにつき、改良の余地だらけなんだ。魔銃の研究といい勝負さ。だからこのことはお前たちの胸にだけしまっておいてくれ」
いつになく真剣な表情のジーン。彼の青い眼差しを受けて、俺とキリクは揃って「「了解」」とお返事。
俺たちだって騒動はごめんだ。最悪、国が乗り出してくる可能性もある。
なによりジーンがメンバーを抜けることになったら、パーティ―「オジキ」は存続の危機。
それだけはなんとしても避けなければならない。
パーティ―「オジキ」が共通の秘密を一つ抱えたところで、次はキリクの要望でまさかの手芸用品も扱っている衣料品店へ。
オシャレを楽しむタイプではないので、てっきり肌着でも買い替えるのかと思えば、キリクが手に取ってしげしげ眺めていたのは、手芸用品の棚に並んだシルクスパイダーの糸玉。
「オレの組み紐はお手製でね。この前の防衛線でけっこう消費しちまったからな。そろそろ補充しておかないと」
キリクの説明を聞いて、俺は妄想した。
毎晩夜なべして、せっせと組み紐を編んでいる枯草色のボサボサ頭のおっさんの姿を。作業に勤しむ背中が哀愁を漂わせている。
とたんに「ブフッ」と俺は噴き出した。
隣のジーンも肩をふるわしている。おそらく同じようなことを想像したのだろう。
一人、わけが分からずにキョトンとしているキリク。
おっさん三人で和気藹々としている姿に、周囲の女性客たちからの視線は冷たかったが、地元じゃないから気にしない。
◇
それぞれの買い物も済ませたところで、最寄りのオープンカフェにて一休み。
三人にて「帰りはどうするか」「海側からの道もいいな」「たまにはうまい魚が食いたい」なんぞと話をしていたら、急にキリクが黙り込む。
伸びた前髪の隙間からのぞく薄い金目が鋭い。
それは冒険の最中にときおり見せる彼の真剣な表情。
「どうかしたのか?」
たずねるよりも先に立ち上がったキリク。
テーブルの上をひらりと越えて、急に駆け出す。
しばし呆気にとられるも、すぐに俺も後を追いかける。
ジーンも続こうとしたが、彼は女性の店員に腕を掴まれた。
「俺がキリクを追う。ジーンは支払いを」と言い残し、前を向いたときには、すでにキリクの背が通りをまたいだ先にある建物と建物の間、細い路地へと飛び込むところ。
速い。本気に近い斥候職の走り。陽の下で目の当たりにすると、これほどとは。
俺も彼に続く。必死に喰らいつこうと手足を動かすが、まばたきするたびに距離が開いて、遠ざかるキリクの背中。
その背中越しにちらりと見えたのは、荷駄袋らしきモノを担いでいる二人組の男たち。
ひょっとしてキリクはアレを追いかけているのか?
でも、どうして……。
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