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029 護衛依頼
しおりを挟む万一の用心のため、ジーンにギルド内部の様子を見て来てもらう。
俺だとアトラがいたら面倒なことになるし、キリクは眠り姫のお守りで忙しい。
最寄りの建物の陰で待っていたら、じきにジーンが駆け足で戻って来た。
「朗報だ。受付の職員に声をかけたら、ちょうど依頼書を張り出すところだったらしい。依頼人もいるそうだから、すぐに引き渡せるぞ」
それを聞いて俺たちはギルドの中へ。
受付で応対してくれたのは愛想のいい女性職員。すでにジーンからある程度の事情を聞いていたらしく、「ご苦労さまでした」と笑顔にて眠り姫の身柄を受け取るべく手をのばす。
するとそこでパチリと目を覚ました赤髪の幼女。
円らな瞳がゆっくりと動く。ギルド内部、女性職員、俺、ジーンへと向かい、最後に自分を抱いているキリクを見つめた。
目が合ったところでキリクが話しかける。
「おっ、ようやくお目覚めか。ところで自分が置かれている状況をどこまでわかっている?」
コクンとうなづく幼女。
「ええ、街を歩いていたら急に路地裏に引き込まれ、甘い匂いのするハンカチを嗅がされたわ。とたんに気が遠くなったから、あれは眠り薬の類。おそらく誘拐だったのね。でも冒険者ギルドにいるってことは大事になる前に助け出された。ということは貴方が私を助け出してくれた王子さまなのかしら?」
的確な状況判断かつユーモアまで交えた解答。
幼い見た目に似つかわしくない大人びた物言いに、一同唖然。
そんな幼女が続けて口にしたのは、自分へと腕をのばしかけていた女性職員について。
「あと悪いんだけれど、あなたの香水のニオイ……。私、あまり好きじゃないの。おおかた男性からの貰い物なんだろうけれども、ヤメた方がいいわよ。安物を高級品のビンに詰め替えて贈るようなせこい男。きっとロクなものじゃないから」
ピシリと女性職員が固まった。
香水の良し悪しについては男の俺は門外漢にて、首を傾げるばかり。だが女性職員の引きつった表情からして、かなり的を得ていることだけはおぼろげながらも理解する。
幼女の発言にてパーティ―「オジキ」の面々が、つい鼻をスンスンさせてしまったから、女性職員の顔が真っ赤に。
「ちょっと失礼。すぐに代わりの者を寄越しますので」と断り、彼女はそのままギルドの奥へと消えてしまった。途中で男の職員の耳をつまんで引っぱっていったから、たぶんアレがそうなのだろう。
あの調子では本当にすぐに代わりが来るのかも怪しいものだ。
◇
ポツンととり残されたおっさんたち。
微妙な空気に耐えかねたのか、キリクが口を開く。
「お嬢ちゃんはずいぶんと香水に詳しいんだな。オレはさっぱりだよ。むしろちょっといい匂いとか思ってた」
褒められた赤髪の幼女は「あれぐらい淑女のたしなみよ。ニオイに鈍感なレディなんてありえないもの」と言った。「それから私はお嬢ちゃんではなくて、カオリ・パッカード。パッカード家の長女よ。この度は危ないところを助けて下さって、どうもありがとう。ちょっと老けた王子さま方」
これで七歳だというから驚きだ。
おしゃまな幼女を前にして、おっさんたちはタジタジ。
するとそこへ近づいてくるドタドタという足音。「おじょうさまー」と叫びながら老執事があたふたと向かってきた。
突っ込んできそうな勢いを手で制したのはカオリ。
「じいやにも心配をかけてしまったわね。ちょっと散歩でもと宿屋を出たのが失敗だったわ。ごめんなさいね」
怒られる前に先に謝る。こうすることで機先を制し、矛先をかわすという高等テクニックを披露するカオリ。
これには「ほぅ」とジーンは感心。キリクは参ったといった表情。俺はただただ目を白黒させるばかり。
そしてまんまと術中にはまった老執事は、「いいえ、いいえ。すべてはうっかり目を離した自分の不徳の致すところ。面目次第もございません」と泣いている。
仕える幼女にいいように転がされている老執事は、トレパスと名乗った。
キリクがトレパスに幼女の身柄を引き渡そうとするも、何故だかカオリが離れようとしない。
上着を掴んだ小さな手が固く握りしめられたまま。
「お嬢さま、いかがされましたか」
「だって、じいやはクローゼットの虫避け剤のような匂いがするんだもの。だからちょっと。でもキリクはいい感じね。お陽さまを浴びたクッションみたい」
どうやらカオリはニオイに敏感というか、こだわりが強い幼女?
妙に気に入られたキリクはすっかり困り顔。しかし面と向かって抱っこを拒否された老執事は泣き崩れている。これは酷い。
俺とジーンはそれとなく自身のニオイをチェック。さすがに幼女からクサイとか言われたら、しばらく立ち直れそうにないから。
と、そんなことはどうでもいい。
すっかり忘れていたが、カオリは誘拐されかけていたのだ。しかも相手は闇ギルドの連中。ということは裏に依頼した者がいるということ。今回はたまたまキリクが気がついて未然に阻止するも、あれで終わりだとは限らない。
だからそれらについて俺はトレパスに説明する。
すっかりただの迷子だと思い込んでいた老執事、誘拐未遂の件を知っておおいに驚く。怒り心頭にて、大興奮。
そして興奮するあまり、グキリと腰をやった。
「不覚」とつぶやき、そのままパタリと倒れ伏した老執事。
こうなるともう一歩も動けない。陸にあがった魚と化したトレパス。「あとは、お頼み申します」とだけ辛うじて口にする。
パーティ―「オジキ」困惑。
えーと、いちおうは護衛依頼ってことでいいのかな。
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