冒険野郎ども。

月芝

文字の大きさ
29 / 210

029 護衛依頼

しおりを挟む
 
 万一の用心のため、ジーンにギルド内部の様子を見て来てもらう。
 俺だとアトラがいたら面倒なことになるし、キリクは眠り姫のお守りで忙しい。
 最寄りの建物の陰で待っていたら、じきにジーンが駆け足で戻って来た。

「朗報だ。受付の職員に声をかけたら、ちょうど依頼書を張り出すところだったらしい。依頼人もいるそうだから、すぐに引き渡せるぞ」

 それを聞いて俺たちはギルドの中へ。
 受付で応対してくれたのは愛想のいい女性職員。すでにジーンからある程度の事情を聞いていたらしく、「ご苦労さまでした」と笑顔にて眠り姫の身柄を受け取るべく手をのばす。
 するとそこでパチリと目を覚ました赤髪の幼女。
 円らな瞳がゆっくりと動く。ギルド内部、女性職員、俺、ジーンへと向かい、最後に自分を抱いているキリクを見つめた。
 目が合ったところでキリクが話しかける。

「おっ、ようやくお目覚めか。ところで自分が置かれている状況をどこまでわかっている?」

 コクンとうなづく幼女。

「ええ、街を歩いていたら急に路地裏に引き込まれ、甘い匂いのするハンカチを嗅がされたわ。とたんに気が遠くなったから、あれは眠り薬の類。おそらく誘拐だったのね。でも冒険者ギルドにいるってことは大事になる前に助け出された。ということは貴方が私を助け出してくれた王子さまなのかしら?」

 的確な状況判断かつユーモアまで交えた解答。
 幼い見た目に似つかわしくない大人びた物言いに、一同唖然。
 そんな幼女が続けて口にしたのは、自分へと腕をのばしかけていた女性職員について。

「あと悪いんだけれど、あなたの香水のニオイ……。私、あまり好きじゃないの。おおかた男性からの貰い物なんだろうけれども、ヤメた方がいいわよ。安物を高級品のビンに詰め替えて贈るようなせこい男。きっとロクなものじゃないから」

 ピシリと女性職員が固まった。
 香水の良し悪しについては男の俺は門外漢にて、首を傾げるばかり。だが女性職員の引きつった表情からして、かなり的を得ていることだけはおぼろげながらも理解する。
 幼女の発言にてパーティ―「オジキ」の面々が、つい鼻をスンスンさせてしまったから、女性職員の顔が真っ赤に。
「ちょっと失礼。すぐに代わりの者を寄越しますので」と断り、彼女はそのままギルドの奥へと消えてしまった。途中で男の職員の耳をつまんで引っぱっていったから、たぶんアレがそうなのだろう。
 あの調子では本当にすぐに代わりが来るのかも怪しいものだ。

  ◇

 ポツンととり残されたおっさんたち。
 微妙な空気に耐えかねたのか、キリクが口を開く。

「お嬢ちゃんはずいぶんと香水に詳しいんだな。オレはさっぱりだよ。むしろちょっといい匂いとか思ってた」

 褒められた赤髪の幼女は「あれぐらい淑女のたしなみよ。ニオイに鈍感なレディなんてありえないもの」と言った。「それから私はお嬢ちゃんではなくて、カオリ・パッカード。パッカード家の長女よ。この度は危ないところを助けて下さって、どうもありがとう。ちょっと老けた王子さま方」

 これで七歳だというから驚きだ。
 おしゃまな幼女を前にして、おっさんたちはタジタジ。
 するとそこへ近づいてくるドタドタという足音。「おじょうさまー」と叫びながら老執事があたふたと向かってきた。
 突っ込んできそうな勢いを手で制したのはカオリ。

「じいやにも心配をかけてしまったわね。ちょっと散歩でもと宿屋を出たのが失敗だったわ。ごめんなさいね」

 怒られる前に先に謝る。こうすることで機先を制し、矛先をかわすという高等テクニックを披露するカオリ。
 これには「ほぅ」とジーンは感心。キリクは参ったといった表情。俺はただただ目を白黒させるばかり。
 そしてまんまと術中にはまった老執事は、「いいえ、いいえ。すべてはうっかり目を離した自分の不徳の致すところ。面目次第もございません」と泣いている。
 仕える幼女にいいように転がされている老執事は、トレパスと名乗った。
 キリクがトレパスに幼女の身柄を引き渡そうとするも、何故だかカオリが離れようとしない。
 上着を掴んだ小さな手が固く握りしめられたまま。

「お嬢さま、いかがされましたか」
「だって、じいやはクローゼットの虫避け剤のような匂いがするんだもの。だからちょっと。でもキリクはいい感じね。お陽さまを浴びたクッションみたい」

 どうやらカオリはニオイに敏感というか、こだわりが強い幼女?
 妙に気に入られたキリクはすっかり困り顔。しかし面と向かって抱っこを拒否された老執事は泣き崩れている。これは酷い。
 俺とジーンはそれとなく自身のニオイをチェック。さすがに幼女からクサイとか言われたら、しばらく立ち直れそうにないから。
 と、そんなことはどうでもいい。
 すっかり忘れていたが、カオリは誘拐されかけていたのだ。しかも相手は闇ギルドの連中。ということは裏に依頼した者がいるということ。今回はたまたまキリクが気がついて未然に阻止するも、あれで終わりだとは限らない。
 だからそれらについて俺はトレパスに説明する。
 すっかりただの迷子だと思い込んでいた老執事、誘拐未遂の件を知っておおいに驚く。怒り心頭にて、大興奮。
 そして興奮するあまり、グキリと腰をやった。
「不覚」とつぶやき、そのままパタリと倒れ伏した老執事。
 こうなるともう一歩も動けない。陸にあがった魚と化したトレパス。「あとは、お頼み申します」とだけ辛うじて口にする。
 パーティ―「オジキ」困惑。
 えーと、いちおうは護衛依頼ってことでいいのかな。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...