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030 鉄道の旅
しおりを挟むラタバードから海岸線へと向けて山沿いに通された陸橋が延々と続く。
城壁のごとき威容。その上には線路が整備されており、煙を吐き出しながらひた走るのは、鉄道と呼ばれる大型移動機具。
構造自体は単純。破城槌を彷彿とさせる厳つい形状をした先頭車両。これに搭載された機具を動力源にし、後部に連なる箱型車両を引くばかり。
一度に大量の人や物資を短時間で運べるという利点はあるものの、予め敷かれた線路の上しか移動できないという欠点がある。またモンスターなど外敵の脅威から設備を守るためには、土台部分に堅牢さが不可欠にて、その分、建造費用は莫大。管理運営にかかる費用もばかにならない。
おかげで路線はエイジス王国内でもごく限られており、乗車賃もとんでもなく高いので、庶民には縁のない乗り物。
そんな乗り物にパーティ―「オジキ」の面々が乗車しているのは、カオリの護衛依頼を引き受けた恩恵に他ならない。
ぎっくり腰をやらかしたパッカード家の老執事トレパス。
本来であれば彼がお嬢さまを連れて、鉄道の旅をするはずであったのだが、ピクリとも動けない。挙句になにやら身辺にて不穏な影がちらついている。
回復を待つのも手だが、それよりもさっさと鉄道にのせてしまい、目的地へと送り届けた方が安全だと老執事は考えた。
それもそのはず。鉄道を利用するのは身分のある上客ばかりにつき、走っている間は動く城塞のようなモノ。守りは固い。
そして向かう先は、風光明媚な海沿いの都市にて、王国随一の保養地シナイ。
癒しを求めて高貴な方々が集う場所。その警護体制は王都をもしのぐともっぱらの評判。
これらのことからラタバードの都に留まるよりかは、との判断。
俺たちを雇うことについては、アトラク商会の名前が効いた。パッカード家との間に取引があるらしく「ラグメンツ氏が指名依頼を任せるほどのパーティーならば」と。
かくして俺は生まれて初めて、鉄道というモノに乗っている。
乗合馬車とは比べものにならない豪奢な造りの車内に「おー」
止まることなく流れ続けている車窓の雄大な景色に「おー」
窓を開けたら強風に煽られて、髪の毛をぐちゃぐちゃにして「おー」
ガタンゴトンと揺れるたびに「おー」
ときおり聞こえる「キキーッ」というブレーキ音に「おー」
トンネルへと入っては出るたびに「おー」
初体験の連続に、俺とキリクはずっとこんな感じにて、ワクワクしっぱなし。
未知との遭遇。忘れかけていた冒険心が目を覚ます。
が、いささかはしゃぎ過ぎた。
ついには雇い主であるカオリから「うっとうしい」とお小言を頂戴する。
いい歳をして赤髪の幼女に怒られるおっさん二人。さすがにちょっと反省した。
そんな俺たちを尻目にジーンだけは普段と変わらず。悠然とシートに腰かけ、足を組んで静かにしている。
「その落ち着きぶり、佇まいといい……。あなた、ひょっとして貴族籍なのかしら?」
カオリが首を傾げる。これには「さあな」と曖昧な返事をするジーン。
しばしの沈黙の後、今度はお返しだとばかりに、ジーンからカオリへの問いかけ。
「どうして一人で宿を抜け出した? クローゼットのニオイがどうのという発言も、おそらくはトレパス殿の体を気遣ってのこと。これまでの言動を見ていればわかる。キミは聡明だ。だからこそずっと奇妙だと思っていた。なんの意味もなくあのような行動をとるとは、わたしにはとても思えない」
思わぬ逆襲を受けて、今度はカオリが曖昧な笑みを浮かべる。
しかしすぐにタメ息をついて「さすがに無理があったようね。あんなので騙されてくれるのは、じいやくらいだけか」と観念。ぽつぽつと理由を語りだした。
◇
パッカード家は、質のいい宝石の産地を所領に持ち、多くの腕のいい職人たちを抱え、優れた宝飾品をいくつも世に輩出してきた。
かといって富める者にありがちな驕りとは無縁。身を慎み、利益を独占することなく広く領民に分配し、領土の発展に努める勤勉さをも代々受け継がれている。
その在り方ゆえに王家からの覚えも目出度く、王族の婚姻がある際には必ずといっていいほど、パッカード家が献上品に関わっている。
『エイジス王国に産まれた女ならば、一度は身につけたいパッカードのアクセサリー』
そう云われてひさしい。
そんな名家の長女として産まれたカオリ。
聡明さはかくのごとし。恵まれた立場に甘んじることなく、幼くして家名に恥じぬ貴人であろうとしている。
この度、パッカード家を慶事が訪れる。
弟が産まれたのだ。
保養地シナイへ向かうのは、あちらで出産という大役を果たした母をねぎらい、新たな家族の誕生を祝うため。
当初は父もいっしょに行くはずだったのだが、急な仕事でダメになった。
普段から何かと忙しい父。ひさしぶりに父娘水入らずで旅が出来るかと、ちょっと楽しみにしていたところに、突如として予定の取り消し。
加えて母はこれからも弟にかかりっきりとなるだろう。
いや、おそらくは父の目も家中の者たちもそちらに向かう。
なぜなら弟はパッカード家待望の跡継ぎだからだ。
「ちょっとね……。なんだか自分の人生の先が見えちゃったかなぁ。とか思ったら急に虚しくなっちゃって」
貴族の娘には基本的に自由はない。
奔放に振舞う令嬢もいるが、なんだかんだで最終的には親の決めた相手と結婚。家と家を繋ぐクサリとなった後、期待されるのは子どもを産み育てること。
だったら自分ががんばる意味は?
けっして母のような生き方を否定しているわけではない。でも……。
そんなことを考えながら宿屋の中庭を散策していたら、自然と足が外へと向いていた。
まるで今の自身を取り巻く閉塞感から逃れるかのように。
「日々の生活に困ることもなく、飢えや寒さに怯えることもないというのに。贅沢な悩みよね。われながらちょっと呆れているわ」
そうつぶやいて若干七歳の幼女が、自嘲気味に笑う。
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