冒険野郎ども。

月芝

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044 忍び寄る恐怖

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 体を極力丸めて縮こまり、両腕にて頭を庇う。
 投げ出された際の基本防御姿勢。
 十五年以上にも渡る冒険者生活にて、すっかり体に染みついた受け身。そのおかげで俺はわずかなすり傷と打撲程度で、難を逃れることに成功。

 前方をにらみながら、石床に手をつき、ゆっくりと体を起こしていく。
 視線の先にはデカブツの白き骸。どうやらあの突進にてチカラ尽きたのか、ピクリともしないが、俺は注意を怠らない。
 片膝をつき、自分の視界の調子を確認。
 よし、揺れはない。運よく頭の中へのダメージは回避されたようだ。アレを喰らうと、いかに体が平気でもロクに身動きがとれなくなってしまう。
 素早く自身の状態をチェックしてから、俺は立ち上がる。
 そこへ駆け寄ってきたのはキリクとジーン。

「大丈夫なのか、フィレオ? ずいぶんと派手に飛ばされていたが」

 キリクが身を案じて声をかけてくる。

「俺はなんとか……。それよりもジーンの方はどうだ? けっこう腹に紐が喰い込んでいたように見えたが」
「あぁ、こちらもどうにか。しばらく痕が消えそうにないがな」

 上着をめくってみせたジーン。六つに割れた腹筋の表面には、くっきりと紐の痕。少し血がにじんでおり、アザとなっていた。
 俺たちは三人揃ったところでデカブツを検分。しっかり倒したことを確認
 それから胸骨の奥より両手に余るほどもある、大きな魔石を回収する。
 白骸の逆さ城では、まずお目見えすることのない逸品を前にして、おっさん三人はにんまり。

  ◇

 ついに第四層目へと到着。
 やや予定より遅れているが、おおむね順調。
 このフロアにはほとんど白き骸がいない。代わりにトラップが設置されてあるが、ずいぶんと使い古された簡易なモノばかり。
 なので、キリクの手にかかればあっという間に解除されてしまう。
 通路を進み、フラムタル水晶が発生している目当ての場所へと向かうのだが、ここでちょっと回り道を余儀なくされる。
 最短距離の進路にて道が塞がれていた。天井と壁が崩れて、外部からも土砂が流入している。
 これを見て「ヘンだな」とつぶやいたのはジーン。
 ダンジョンは特殊な生命体。
 通常、内部で破損などが生じても、自然と治癒してじきに元通りとなる。しかしここの状況をざっと調べたかぎりでは、昨日今日に荒れたというわけでもないらしい。
 かといってモンスターが湧いている以上は、ダンジョンが死んでいるわけでもない。
 奇妙な現象を前にしてジーンが首をひねる。

「おおかたサボっているだけじゃないのか? 元々ここって、あんまりヤル気がない場所だし」とはキリク。

 実際のところ白骸の逆さ城は、旨味が少なく、そのせいで訪問する者もわずか。
 それすなわちダンジョンにとっては、食糧が乏しいということ。

「ふむ。もしかしたら休眠状態に近いのかもしれんな」

 ジーンはそう結論づけた。

  ◇

 第四層、北の一角にある石室。
 内部では壁やら天井、床から大小のフラムタル水晶がにょきにょき大量に生えている。
 採りに訪れる者も少ないから、増える一方。
 いっそ全部を持ち帰れたら、二度と、ここには来なくて済むのだが……。

「出来るだけ青味がかったヤツがいいんだっけか?」
「あぁ、透明なモノよりも、ちょっと濁っているのがガンツの好みらしい」
「これなんかどうだろう」

 俺たち三人は手分けして採集へと当たる。
 今回はコロコロを用意しているので、少しばかり多めに持って帰れる。
 ちなみにコロコロとは、折りたたみ式のカバンに車輪がついたモノ。畳めばペチャンコになってかさばらず、物を詰めて取っ手を持てば、荷車のように引いて歩ける。重たい荷を担ぐよりもずっと楽なので、冒険者のみならず主婦連からも買い物の相棒として絶大な支持を集めている便利な道具。
 口だけでなく、せっせと手も動かし荷造りに励む。
 最中に耳が微かな異音を拾った。俺はソレに意識を集中する。

「カツン……カツン……カツン……」

 はじめは徘徊している白き骸の足音かと思った。
 だが聞えてくる感じがもっと重々しく、それでいて妙に規則正しい。
 馬の蹄のようだと思い至たり、俺の全身から血の気がサーっと引いていく。
 白骸の逆さ城、このダンジョンで馬にまたがる存在は唯ひとつ。
 音が少しずつこちらへと近づいて来ている。
 キリクとジーンもじきに気がつき、そして俺の様子がおかしいことにも気がついた。

「どうかしたのか?」たずねる二人に俺は「黒き骸だ」と答える。自分の声が震えていた。その名を口にしたとたんに、かつて刻み込まれた恐怖が鮮明に蘇る。膝から下にうまくチカラが入らない。
 それでもどうにか踏ん張って「すぐに壁に張りついて、気配を消せ。息も止めて出来る限り静かにするんだ」との指示を出す。
 三層の主とはわけがちがう。
 闘うという選択肢はない。
 いまは女神さまの慈悲にすがり、どうにかやり過ごす。その後は即時撤退する。
 俺たちが生き残る道はこれしかない。
 しかしなぜ、奴がこの第四層にいる? 五層から上がってきたなんて話、これまで一度たりとも耳にしたことがなかったというのに……。


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