冒険野郎ども。

月芝

文字の大きさ
48 / 210

048 絶望の蒼炎

しおりを挟む
 
 蒼い閃光が第五層の天井を貫く。
 すべてが光に包まれ、轟音に震え、再び闇に染まり、そして訪れる静寂。
 目まぐるしく変化する世界。これは本当に現実の出来事なのか?
 頭の理解が追いつかず、わたしことジーンは、ただあるがままを眺めていることしかできない。

「やったのか……」

 静寂の中でつぶやいたのは、隣にいたキリク。
 仲間の声でわたしの停止していた思考が動き出す。無言のまま、前方を睨む。
 そこには立ち尽くしたままにて、微動だにしないフィレオの背中。
 キリクが呼びかけるも応答はない。
 明らかに様子がおかしい。
 彼へと近づき肩へと伸ばしかけた手を、キリクはあわてて引っ込める。
 その理由を知り、わたしも絶句。
 フィレオの首筋から右肩あたりまでの肉が、ごっそりと抉られ失われていた。
 血が流れていないのは、傷口が焼け焦げていやなニオイを放っていたから。折れて突き出た鎖骨の白さが際立つ。辛うじて繋がっている右腕は迂闊に触れたら、そのままボトリと落ちてしまいそう。
 黒き骸が放ったイカズチをまとったランス。
 凄まじい突進を辛くもいなすことに成功したフィレオ。だが凶悪な雷獣の牙のあとには鋭い爪が潜んでいたのだ。
 フィレオは黒き骸の一撃をしのいだ。決闘はフィレオの勝ちだ。しかしその代償はあまりにも大き過ぎる……。
 意識を失っているのにも関わらず、砕けた盾を手になおも立ち続けるフィレオ。
 わたしとキリクはあまりのことに呆然。
 その時、「カチャリ」と音がした。
 目が勝手に反応して、音の鳴った方を見る。
 黒き骸こと首無し騎士の姿、その手には先ほど投擲したはずのランスが握られてあった。
 雷鳴と共に彼方へと放った武器が、自動的に持ち主の手元へと戻る。
 ありえない現象。これを目の当たりして、わたしの口から零れたのは「神具」という言葉。

 人の手により産み出されし魔具や機具とはべつに、このトロワグランデの世界には神具と呼ばれるシロモノがある。
 それはいにしえの時代から伝わり、性能は人知を超えたモノ。
 かつて勇者がふるった聖剣などがこれに該当する。しかし現存する数は少なく、その大部分が機能を失ってひさしい。
 そんな神具を彷彿とさせる武器を持つような相手に、わたしたちは挑んでしまったのか? 大切な仲間を立ち向かわせてしまったのか?
 不甲斐ない自身に対する憤り、激しい後悔がわたしの中に渦まく。
 だが事態は、わたしたちをいつまでも感傷に浸らせておいてはくれない。

「ドクン」

 鼓動がして足下がかすかに揺れた。
 いや、壁も天井もすべてが揺れている。
 もしや? 先ほどの一撃にて休眠状態にあったダンジョンが目覚めたのか……。
 とっさに、わたしはそう考えた。
 だが実際にはそんな生易しいものではなかった。

  ◇

 第五層のフロア中央にて、闇の中より蒼い炎が吹き出す。
 姿を見せたのは燃えるダンジョンコア。
 通常の紅い岩の塊とはちがって青白い。なにより圧倒的な存在感。
 強大無比、そんな表現が陳腐に聞こえる。人の知りうるあらゆる言葉が意味をなさない。
 ソレを前にして、黒き骸がランスを置いて片膝をつき、臣下の礼をとる。
 首無しの騎士、何もないはずの首元に青い炎が灯る。
 いつの間にか、同様の炎が第五層の壁面にもずらりと並んでいた。
 そのすべてが神具とおぼしきランスを持つ黒き骸。
 気づいたときの、わたしとキリクの驚愕たるや。
 死を覚悟するのではない。生を諦めるのでもない。
 何もかもが塗りつぶされる。黒だの白だの、光だの闇だの、そんな概念は無用。己という個の完全否定。ソレの前ではすべては等しく弱者。いや、路傍の砂粒程度でしかないのか。
 わたしとキリクは自然と膝をついて、頭を垂れていた。まるでそうするのが当たり前であるかのように。

 ダンジョンコアの蒼い炎がゆらめく。
 立ち尽くしたままのフィレオの影が石床にあって、頭を垂れたままのわたしの視界の隅に映った。
 得体の知れない圧力にて朦朧とする意識の中、ぼんやり眺めているとフィレオの影の頭上に、新たに何かが現れた。形状からして四角い物体?
 くるくると回り出す四角い物体。何をしているのかよくわからない。直接、確かめようとするも体が言うことを聞いてくれず、顔をわずかにあげることさえも出来なかった。
 影の世界では、かわらず四角い物体が回り続けている。
 そして回るほどにどんどんと縮んでいく。
 その回転がふいに止まったと思ったら、ぽとりと落ちた。
 落ちた品がわたしの眼前へと床を滑り転がってくる。見ればそれは手の平にちょこんと乗るぐらいの大きさの、黒い立方体だった。

  ◇

 まるでロウソクの灯りを吹き消すかのようにして、ふいに強大な蒼い炎が消えた。
 壁面にて並んで灯っていた青い炎も次々と消えていく。
 いつしか黒き骸と白骨の馬の姿もいなくなっていた。
 第五層はふたたび静寂と薄闇の世界となる。
 もしや自分は悪い夢でも見ていたのかとも考えたが、足下に転がる黒い立方体がそうじゃないと告げていた。
 わたしはそいつを拾い上げる。
 小さな見た目に反してずっしりとしている。同じぐらいの鉄の塊よりもずっと重い。肌に吸いつくような感触にて、ひんやり冷たい。

「これはいったい……、あの恐ろしい存在も」

 わからないことだらけにつき、わたしとキリクの動揺はいまだに収まってはいない。
 そしてわたしたちをより一層、困惑させたのはフィレオの状態。
 致命傷を受けて半死半生だった彼。
 肉体に負った傷が跡形もなく消え失せていたのである。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...