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048 絶望の蒼炎
しおりを挟む蒼い閃光が第五層の天井を貫く。
すべてが光に包まれ、轟音に震え、再び闇に染まり、そして訪れる静寂。
目まぐるしく変化する世界。これは本当に現実の出来事なのか?
頭の理解が追いつかず、わたしことジーンは、ただあるがままを眺めていることしかできない。
「やったのか……」
静寂の中でつぶやいたのは、隣にいたキリク。
仲間の声でわたしの停止していた思考が動き出す。無言のまま、前方を睨む。
そこには立ち尽くしたままにて、微動だにしないフィレオの背中。
キリクが呼びかけるも応答はない。
明らかに様子がおかしい。
彼へと近づき肩へと伸ばしかけた手を、キリクはあわてて引っ込める。
その理由を知り、わたしも絶句。
フィレオの首筋から右肩あたりまでの肉が、ごっそりと抉られ失われていた。
血が流れていないのは、傷口が焼け焦げていやなニオイを放っていたから。折れて突き出た鎖骨の白さが際立つ。辛うじて繋がっている右腕は迂闊に触れたら、そのままボトリと落ちてしまいそう。
黒き骸が放ったイカズチをまとったランス。
凄まじい突進を辛くもいなすことに成功したフィレオ。だが凶悪な雷獣の牙のあとには鋭い爪が潜んでいたのだ。
フィレオは黒き骸の一撃をしのいだ。決闘はフィレオの勝ちだ。しかしその代償はあまりにも大き過ぎる……。
意識を失っているのにも関わらず、砕けた盾を手になおも立ち続けるフィレオ。
わたしとキリクはあまりのことに呆然。
その時、「カチャリ」と音がした。
目が勝手に反応して、音の鳴った方を見る。
黒き骸こと首無し騎士の姿、その手には先ほど投擲したはずのランスが握られてあった。
雷鳴と共に彼方へと放った武器が、自動的に持ち主の手元へと戻る。
ありえない現象。これを目の当たりして、わたしの口から零れたのは「神具」という言葉。
人の手により産み出されし魔具や機具とはべつに、このトロワグランデの世界には神具と呼ばれるシロモノがある。
それはいにしえの時代から伝わり、性能は人知を超えたモノ。
かつて勇者がふるった聖剣などがこれに該当する。しかし現存する数は少なく、その大部分が機能を失ってひさしい。
そんな神具を彷彿とさせる武器を持つような相手に、わたしたちは挑んでしまったのか? 大切な仲間を立ち向かわせてしまったのか?
不甲斐ない自身に対する憤り、激しい後悔がわたしの中に渦まく。
だが事態は、わたしたちをいつまでも感傷に浸らせておいてはくれない。
「ドクン」
鼓動がして足下がかすかに揺れた。
いや、壁も天井もすべてが揺れている。
もしや? 先ほどの一撃にて休眠状態にあったダンジョンが目覚めたのか……。
とっさに、わたしはそう考えた。
だが実際にはそんな生易しいものではなかった。
◇
第五層のフロア中央にて、闇の中より蒼い炎が吹き出す。
姿を見せたのは燃えるダンジョンコア。
通常の紅い岩の塊とはちがって青白い。なにより圧倒的な存在感。
強大無比、そんな表現が陳腐に聞こえる。人の知りうるあらゆる言葉が意味をなさない。
ソレを前にして、黒き骸がランスを置いて片膝をつき、臣下の礼をとる。
首無しの騎士、何もないはずの首元に青い炎が灯る。
いつの間にか、同様の炎が第五層の壁面にもずらりと並んでいた。
そのすべてが神具とおぼしきランスを持つ黒き骸。
気づいたときの、わたしとキリクの驚愕たるや。
死を覚悟するのではない。生を諦めるのでもない。
何もかもが塗りつぶされる。黒だの白だの、光だの闇だの、そんな概念は無用。己という個の完全否定。ソレの前ではすべては等しく弱者。いや、路傍の砂粒程度でしかないのか。
わたしとキリクは自然と膝をついて、頭を垂れていた。まるでそうするのが当たり前であるかのように。
ダンジョンコアの蒼い炎がゆらめく。
立ち尽くしたままのフィレオの影が石床にあって、頭を垂れたままのわたしの視界の隅に映った。
得体の知れない圧力にて朦朧とする意識の中、ぼんやり眺めているとフィレオの影の頭上に、新たに何かが現れた。形状からして四角い物体?
くるくると回り出す四角い物体。何をしているのかよくわからない。直接、確かめようとするも体が言うことを聞いてくれず、顔をわずかにあげることさえも出来なかった。
影の世界では、かわらず四角い物体が回り続けている。
そして回るほどにどんどんと縮んでいく。
その回転がふいに止まったと思ったら、ぽとりと落ちた。
落ちた品がわたしの眼前へと床を滑り転がってくる。見ればそれは手の平にちょこんと乗るぐらいの大きさの、黒い立方体だった。
◇
まるでロウソクの灯りを吹き消すかのようにして、ふいに強大な蒼い炎が消えた。
壁面にて並んで灯っていた青い炎も次々と消えていく。
いつしか黒き骸と白骨の馬の姿もいなくなっていた。
第五層はふたたび静寂と薄闇の世界となる。
もしや自分は悪い夢でも見ていたのかとも考えたが、足下に転がる黒い立方体がそうじゃないと告げていた。
わたしはそいつを拾い上げる。
小さな見た目に反してずっしりとしている。同じぐらいの鉄の塊よりもずっと重い。肌に吸いつくような感触にて、ひんやり冷たい。
「これはいったい……、あの恐ろしい存在も」
わからないことだらけにつき、わたしとキリクの動揺はいまだに収まってはいない。
そしてわたしたちをより一層、困惑させたのはフィレオの状態。
致命傷を受けて半死半生だった彼。
肉体に負った傷が跡形もなく消え失せていたのである。
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