冒険野郎ども。

月芝

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049 神鉄

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「へっくしょん」

 自分のおっさん然としたクシャミに驚いて、俺は目を覚ました。
 身を起こしたひょうしに掛けられてあったマントがズレ落ちる。
 こいつは、たしかキリクの。
 上半身が裸同然にて、着ていたハズの革鎧がなくなっている。無意識のうちに手探りで剣や盾を探すも、何もつかめない。
 意識の覚醒にともない視界が鮮明となっていく。
 フラムタル水晶の群れ……ここは第四層の石室か。でもどうして? 確か俺は黒き骸との決闘に応じて、それから、それから……。
 ところどころが虫喰い状態にて、よく思い出せない。
 戦いの記憶が欠落している。

「まだじっとしていろ。なにしろアレだけの目に合ったんだからな。どのみち朝までは動けないんだから、いまのうちにゆっくり休んでおけ」

 そう言いながら湯気を立てるお茶の入ったカップを差し出したのはジーン。
 俺は受け取り、ひと口すする。
 ダンジョン内での温かな飲食は最高の贅沢。草臥れている心と体に染みる。
 飲みながら黒き骸との決闘のことや、その後のあらましをざっと教わり、俺は驚きを隠せない。
 そこに周囲の様子を探りに行っていたキリクが戻って来た。手には黒き骸から逃げ回るうちに放置したコロコロの姿もあった。

「おっ、ようやく起きたか、フィレオ。その調子だと、どうやら問題はなさそうだな」
「すまん、心配をかけた。少しばかり体は重いが異常は見当たらない。とはいえ帰ったら一度、専門家に診てもらったほうが良さそうだと、ちょうどジーンと話していたところだ」
「それがいいだろうよ。オレもいまだに自分が悪い夢でも見ていたのかと思うぐらいだからな。だが証拠がある以上は信じるしかあるまい」

 証拠とは手の平サイズの黒い立方体のこと。
 こいつが俺の傷を超回復させたという事実。蒼く燃えるダンジョンコア。神具を持つ大量の黒き骸。
 わからないことだらけにつき、どいつもこいつも一介の冒険者の手に余る。
 素直にギルドに報告して、支部長のダグザやミリダリア女史に丸投げするのがいいだろう。
 俺が相談すると、二人も同意してくれた。
 未知との遭遇は冒険者冥利に尽きるが、限度があるし、真理の究明はまた別。
 それらはお偉い学者や研究者らに任せるのが無難だろう。

「あちこち覗いてきたんだが、壊れていた箇所が修復されていたぞ。床の穴も通行止めもキレイさっぱりだ」

 キリクから荒廃していたダンジョン内の様子が一変しているとの報告を受けて、ジーンはさもありなん。
 俺は気を失っていたので見ていないが、二人が遭遇したという蒼炎のダンジョンコア。
 完全に理解の範疇を超えており、とてつもないチカラを秘めていることだけは辛うじてわかるような存在。ゆえにそれぐらいやっても不思議じゃないとの見解らしい。

「やれやれ、世界は広いな。冒険者生活十八年、それなりに場数を踏んで知ったつもりになっていたが、ぜんぜんだ」

 俺は反省しつつ、大きくタメ息ひとつ。

「ったく、どこのどいつだよ。白骸の逆さ城の難易度を中位に設定したのは」

 キリクはぶつくさ文句の後に「オレは金輪際、ここには近寄らない」と宣言。

「とはいえ貴重な体験だった。アレに接したことで己という存在の矮小さを痛感させられたよ。おかげでこの先、驕って道を踏み外すことだけは絶対にないと断言できる」ジーンは言った。「もっとも今回のように知らない出来事や生きた教訓を得られるからこそ、冒険者稼業は辞められないのだがな」とも。

 そんな三者三様の感想を抱きつつ、陽が昇る時刻を待ちパーティ―「オジキ」は白骸の逆さ城をあとにした。

  ◇

 辺境都市トワイエ冒険者ギルド支部長室にて。
 白骸の逆さ城の採取依頼から戻ったパーティ―「オジキ」より提出された報告書と黒い立方体。
 それらを前にして、ムズカシイ顔をしていたのは支部長のダグザ。
 机を挟んで副支部長のミリダリア女史の姿もある。

「まさか、黒き骸が何体も存在していたとはな……」
「はい。過去に三度、第一等級の手によって討伐されたという記録が残されています。ですが討伐後、すぐに復活していたとも。その話の裏には、このような事情があったのですね」

 ダンジョン内で死んだモンスターは、しばらくするとまた復活する。
 とはいえ、すぐにというわけではない。ある程度の時間がかかる。強力な個体になればなおさら。それを含んでのミリダリア女史の言葉。

「報告書に何度も目を通したが、どれもこれもとんでもねえな。普通ならば酔っ払いの戯言と一蹴しているところだ。だがこんな証拠まで見せられたら信じるしかねえ」

 ダグザは黒い立方体を手にとり、しげしげと眺める。

「黒き骸と遭遇して生き残っただけでなく『神鉄』まで手に入れるとは……。どうやらフィレオさんたちは、つくづく強運のようで。いえ、この場合は凶運というべきでしょうか」

 自身の発した台詞にミリダリア女史の柳眉がかすかに寄る。
 ほとんど表情を変えることのない彼女にそうさせるだけの理由が「神鉄」にはある。
 聖剣、魔剣、龍槍、皇玉……、伝説級の存在である神具。
 そのことごとくが「神鉄」を材料にして造られたモノだと判明している。しかしわかっているのはそれだけ。
 どれだけ高温の炉にくべようが、それこそ火山の中に放り込もうが、ほんのわずかに熱くなることもない。剛力を誇る者らにて昼夜を問わず叩き続けても、わずかなヒビも入らず、形が変わることもない。
 これまで数多の優れた頭脳がこのナゾに挑むも、ロクな成果も出せずに屈するばかり。
 希少なのはまちがいない。
 だけれども人の手にあまる超金属。それが「神鉄」と呼ばれしモノ。
 価値は計り知れない。ただし、市場に一切出回る品ではないので、適正価格がわからないし、つけようがない。よしんば莫大な値をつけて手に入れたところで、いまのところ置物にするぐらいにしか使い道がない。
 他に教会が難色を示すのも、やっかいなこと。
 彼らの立場からすれば「神鉄は、女神よりの賜り物。奇跡の産物。それを俗世の尺度で粗略に扱うとは何ごとか!」との主張。
 国としては権威の箔付けとして囲いたい。商人は巨万の富を産み出す可能性がある以上はおめおめと逃したくない。教会は信仰の対象として崇めたい。
 様々な思惑を刺激し複雑に絡まる。過去にはこれが原因となり大規模な戦争が起きたことも。
 そんなモノがひょっこり姿をあらわしたとなれば、騒動が起こることは必至。

「あとのことは本部の判断に任せるしかねえ。それと白骸の逆さ城は当面封鎖する。その旨を通知しておいてくれ。もともと人気のある場所ではないから、たいした混乱も起きないだろうが」
「了解しました。内部がモロくなって危険とでも理由をつけておけば、問題ないでしょう」
「それで頼む。ったく……、次から次へとよくもまぁ。当面はこれでいいとして、あとはフィレオの体の具合か」
「知り合いのお医者さまを紹介なされたのですよね?」
「あぁ、念のためにな。何も問題がなければいいんだがなぁ」

 ダグザが心配そうにつぶやくのを、ミリダリア女史は黙って見つめていた。


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