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084 飛竜騎士
しおりを挟む表へ出てみれば、飛行船の周囲を飛び回る飛竜と防衛側による攻防の真っ最中。備えつけられた連弩弓にて、襲撃者を撃ち落そうと激しく応戦。
甲板上でも内部へ侵入しようとする側と、それをさせじと守る側にて、ちょっとした乱戦状態。
どうやら先に船内で遭遇した連中は、混乱に乗じてまんまと潜り込むことに成功した一部だったらしい。
防衛側は数では優勢。だが実力ではやはり賊の方が上なのか、おもいのほかに戦局が拮抗している。
だから俺たちもすぐに加勢しようとしたのだが……。
◇
急に日差しが陰った。
頭上に何者かの気配を感じ、俺たち三人はすかさず散開。
直後にさっきまで居た場所を抉ったのは、飛竜の黒いカギ爪。
上空からの強襲をかわすことに成功。
と思ったら、横合いから圧力が迫る。更に後方へ跳ぶことで辛うじて直撃は避けるものの、かすっただけで吹き飛ばされた。
着地から長い尾による薙ぎ。飛竜の連撃。
薄く軽いながらも丈夫な深緑色のウロコを持ち、その下には長時間の飛行に耐えうる強靭な肉体を保有する飛竜。
全身が筋肉の塊にて、一撃が強力。まともに入ればただではすむまい。
しかし問題はそこではない。この飛竜が滑らかな連撃を放ったということこそが脅威。それを成すだけの技量を持つ操者がいるということ。
俺の視線は自然と、飛竜の背にまたがる存在に吸い寄せられていた。
他の襲撃者たちは覆面に黒装束という格好だったのに、こいつだけはちがう。黒い甲冑を着込んでおり、全身をがっちり防護している。
「赤子連れの冒険者三人組……。自ら穴倉から出てきてくれるとはありがたい。探す手間が省けた」
黒い甲冑男のくぐもった声。
おとなしく子を寄越せとも、例の指輪を渡せとも口にしない。
それはこちらを始末して、勝手に奪うという無言の意志表明。
だったら俺たちも武でもって応えるだけのこと。
俺がキリクとジーンに目配せすると、二人も小さくうなづく。
冒険者心得。
対飛竜戦というか、ツバサを持つ相手は基本的に地上に引きずり下ろすことが大前提。相手の得意とする舞台で戦うなんて論外。
ツバサを攻撃するなり、足などを網や紐で絡めとって身動きを封じてから、チクチク攻める。そして弱ったところでトドメを刺す。
いささか地味だがしようがあるまい。
第一等級のバケモノならば、飛竜のウロコなんぞものともせずに、一刀にて首を斬り落とすことも可能だろうが、俺の技量では無理。キリクの斬紐でも厳しいはずだ。ジーンの魔法にいたってはのんびり詠唱をさせてくれるはずもなく、相手に飛び回られたら当てることも困難。
俺は現在、懐にマホロを抱えているのであまり無茶はできない。
だからせめて敵の注意を引きつけ、隙を誘発することに努める。
キリクは飛竜にまたがった黒甲冑の右斜め後方へとゆっくり移動。合わせてジーンも左側面に動く。
俺たち三人にて黒甲冑を包囲。
人間の視野の広さはたかが知れている。
だからこそ複数と戦う場合には、できるかぎり一度に多くの敵を目視できる立ち位置を確保することに苦心する。
三対一の数の利を活かして、俺たちは死角を産み出し、そこを突く。
わざとカカトにチカラを込めて大きな足音を鳴らし、俺が敵の意識をこちらへと向けさせる。
音を合図に動いたのはキリク。腰のポーチより取り出した鉄ペン三本を投擲。狙ったのは飛竜の羽のつけ根部分。可動部位ゆえに守りの薄い箇所。
一本を黒甲冑への牽制、残り二本を飛竜に飛ばすという抜け目がない攻撃。
これに呼応してジーンの弓も鳴った。風を切り、矢が向かうのは飛竜の右目。
ほぼ死角となる位置からの、同時攻撃。
これにより敵が混乱したひょうしに懐へと飛び込むべく、俺は腰の剣に手をのばす。
しかし、踏み込むことは出来なかった。
黒甲冑が手綱を軽くピシャリ。たったそれだけの指示により、飛竜のツバサが腕のように動き、いともたやすく鉄ペンと矢をはじいてしまう。
簡単そうに見えて、これはとんでもないこと。
人竜一体の妙技っ!
俺はおもわずゴクリとツバを呑み込む。
キリクとジーンの表情にも、少なからず驚きの色が浮かんでいた。
どうやら俺たちは見誤っていたらしい。
この男はたんなる優れた飛竜乗りなんかじゃない。飛竜を駆る騎士だったのだ。
奴にとっては飛竜は愛騎ではなくカラダの一部。凶悪な牙も、足のカギ爪も、両翼も、長い尾も、すべてが自在にふるえる武器。
地上に降りたからとて、脅威度がちっとも下がっていない。
それどころかこうやって対峙していると、まるで難攻不落の要塞を前にしているような気分になってくる。
考えれば考えるほどに、勝利が遠のく。
とはいえどうにか切り抜けないと、俺たちに先はない。
さて、どうしたものか……。
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