冒険野郎ども。

月芝

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093 断罪の儀式

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 指輪に収録されてあった音声は、ロインが母子を逃がしたところで途切れていたという。
 当然だ。彼の手から指輪が離れたのだから。
 その後、マホロを連れたケリーは追尾の手を逃れるようにして各地を転々。
 一刻も早くドランシエグ島へと渡りたかったのであろうがままならず、エイジス王国の辺境都市トワイエに流れついて、今後のことを考えているうちに奇禍に見舞われてしまった。

 説明を終えた第三王女アリーシャは、「ふぅ」と深いタメ息を一つ。「ケリーさんの最期については、フィレオさまのお仲間たちから聞きました。正直、負けたと思いました」
「負けた?」

 俺の疑問の声に、アリーシャ王女は「ええ」と小さく頷く。

「わたしとてロインさまの事件があった後、絶対におかしいと考えて自分なりに調査をさせたのです。ですが疑惑は疑惑のままに、なんら証拠を掴むこともできず……。むしろ掘り下げれば掘り下げるほどに不利な証言や証拠が出て疑惑を深めるばかり。挙句の果てに、のうのうと今日まで悪漢をのさばらせてしまいました。きっとあの男はこんなわたしを陰で嘲笑っていたのでしょうね。なんと不甲斐ないことでしょうか。だというのにその間、ケリーさんはたった一人で強大な敵に立ち向かっておられたのです。この子の秘密を抱えたままで」

 そこでいったん言葉を切ったアリーシャ王女。
 しばし抱いているマホロの姿を見つめてから、こう続けた。

「女としても、戦士としても、わたしの負けです。でも、そんな素敵な女性だからこそ、きっとあの方も惹かれたのでしょうね。悔しいけれども完敗です」

 妙にサバサバした調子にて、言い方は悪いが自分の婚約者を寝取った相手を褒めるアリーシャ王女。
 見栄か矜持か、はたまた本心なのか。
 複雑な女心なんて、武骨なおっさんにはうかがい知ることは出来ない。
 ただ、そんな風に言い切れる彼女もまた、充分に素敵な女性だと俺には思えた。
 割り切っているようで、心の奥底でぶすぶす過去がいつまでもくすぶっている情けない自分とは大違いである。

「マホロちゃんに関しては心配いりません。わたしの娘として……、と言いたかったのですが、それは父である獣皇にダメだと言われたので。かわりにわたしの妹として育てることにしましたから。神種の教団でしたっけ? そんな阿呆どもには二度とちょっかいを出させませんから、どうかご安心ください」

 獣人たちを率いる獣皇の一族が守り育ててくれるという確約。
 やれやれ、これにてどうにかケリーの依頼を完遂できたな。
 気が緩んだとたんに俺の瞼が重くなる。

「戦士にもときには休息が必要です。いまはお休みください。次に目覚めたときには、きっと面白いモノをご覧にいれますから」

 眠りへと落ちていく最中に、アリーシャ王女が意味深なことをささやく。
 はて? 面白いモノとはいったい……。

  ◇

 王女との会合のあと、再び眠りにつくこと丸一日。
 目覚めた俺は自分の体の異変に気がつく。

「あれ、痛みが消えてる。節々が固いのは筋肉がこわばっているせいだろうが、それにしてもヘンだな……」

 何か所か骨がイカれていた自覚もあったというのに。 
 すでに傷口もあらかた塞がっている。普通ならばあり得ない回復速度。
 だからてっきり獣皇のお抱え医師による手厚い看護のおかげかと感謝していたら、目を覚ました俺を診察した医師が「はて?」と小首をかしげたもので、俺も理由がわからず、そろって首をひねる。
 そこに顔を出したのは第三王女アリーシャ。

「その分では、もう心配はなさそうですね。ちょうどよかったです。これから面白い見世物があるのですが、ご一緒にいかがですか」

 言葉こそはやんわり丁寧だが、王族からのお誘いの時点でこちらに拒否権はない。
 俺の身は寝台から車イスへと移されて、アリーシャ王女の手によって、いずこかへと連れ出されてしまう。
 廊下を進みがてら、俺は彼女にずっと気になっていたことを訊ねる。

「武闘会はどうなりましたか? 自分が粘ったせいで、随分と進行に迷惑をかけたはずですが」

 詫びを入れつつ恐縮していたら、アリーシャ王女は「心配はいりません。事情は聞き及んでいますから。それで大会の方ですが、ガレウス兄さまが優勝しました」

 俺からロインの指輪を受け取り血相を変えたガレウス。
 すぐさま貴人用の観覧席にいた父である獣皇の下へ向かったという。
 で、録音されていた内容を知り激怒。大会そっちのけで、奸賊どもを成敗してくれんと飛び出そうとするも、獣皇にピシャリとたしなめられる。

「優勝候補筆頭のその方が抜けては騒ぎになろう。必然的に情報が洩れることになる。そんなことになれば敵に利するだけだ。まずはとっとと勝ってこい。その間に、こちらは準備を整えておくとしよう」

 怒りは怒りとして、まずは目の前の仕事を片付けろと言われ、ガレウスはしぶしぶ従うことに。
 が、ここからがすごかった。
 まさかのオール一本勝ちにて、圧巻の強さを示す。
 猛り狂った獣神のごとき迫力とあまりの勝ちっぷりに、会場中が静まり返ったらしい。
 その時のことを愉快そうに話すアリーシャ王女。

「おかげでフィレオさまの評判も上々ですよ。なにせ今大会において唯一人、ガレウス兄さまを相手に善戦をなされたのですから」

 並みいる強豪らを一撃にて屠るガレウスの槍。
 そんなシロモノを数えきれないほど喰らい、なおも立ち続け、ついには絶技を引き出した無名の冒険者。
 ガレウスの勇名が突出すればするほどに、比例して俺の存在が注目を集め、人々の口の端にのぼっているとか。
 とんでもない過大評価である。ちょっと勘弁してほしい。

 俺からの訴えを受け、獣皇の手の者たちはすぐに動いた。
 一つは、逆恨みから兄を罠にハメて破滅させ、のうのうと世間を欺いていた弟のコズンと、陰謀に加担した一派の拘束。
 一つは、皇都フラムケルヒおよびドランシエグ島内に巣食う、神種の教団の炙り出し。
 前者はわりとすぐに完了するも、後者は難航。
 皇都にあったアジトを特定し踏み込むも、しばしの抵抗ののちに全員が毒を飲み自決。残された資料などから人や金の流れを探ったり、他の隠れ家についての洗い出しを続けているものの時間がかかる。残念ながら残りの連中が証拠を消して、領内より脱出する方が早いだろうとのこと。

  ◇

 アリーシャ王女に連れられて行った先は、練武場の客席。
 マホロを抱いたガレウスがお出迎え。
 希少種の赤ちゃんを「高い高い」とあやしている獣人の勇士。
 デレデレの彼の様子に俺が唖然としていると、アリーシャ王女がクスクス笑いながらこっそり耳打ち。「ガレウス兄さまったら、はじめは『この子は自分の娘として立派に育てる』とか言ってたんですよ。もちろん父に却下されましたけれども」
 なにやらどこぞで聞いたような台詞にて、俺も口角が緩む。
 ひさしぶりに俺の腕の中へと収まったマホロが「あーいー」と胸元にしがみついてくる。よじ登らんばかりにて、お姫さまは今日も元気ハツラツだ。
 マホロを囲んでほっこりとする俺たち。
 しかしその一方で、階下では殺伐とした雰囲気が漂っていた。
 練武場中央にはキリクとジーンの二人に、彼らと対峙する獣人の剣士が一人。
 役者が全員そろったところで、ガレウスが表情を一変。真剣なものとなり声高に宣言する。

「では、これより断罪の儀式を始める」


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