冒険野郎ども。

月芝

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109 進化の石

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 上段から下段、下段からの横薙ぎ、突きからの切り下げにて片手剣をふるう白い男。
 さっきまでの俺の動きをなぞるかのような剣の軌道。
 盾にて俺が応戦していると、ジーンの声。

「援護をするから、二人ともいったん下がれ」

 言うなり矢が飛んできて、白い男の頭部に直撃。
 だがすでに剣の刃をロクに通さないその身に通じるわけもなく、カツンとはじかれた。
 白い男が足元に落ちた矢に気をとられている隙に、俺とキリクは急いで斜面をのぼり、すり鉢の底から脱出する。

「こっちへ」

 物陰から手招きをするジーン。
 言われるままに俺とキリクもそこに潜り込む。

「戦いの様子を上からずっと観察していた。信じがたいことだが、どうやらアレは進化する石のようだ」

 ジーンがいきなり奇妙なことを言い出したので、俺とキリクはきょとん。
 かまわずジーンは早口にて説明を始める。
 当初は水が氷となり蒸気となったりするように、状況に応じて変化しているだけかと思われた。だが明らかに肉体強度が増しているばかりか、ついには武器をも手にする。
 大きな白いゴーレムのときには、赤子のように町という積木を壊してはしゃいでいた。
 白い女型のときには、殴る蹴るなどの体を使った機敏な動きを見せていた。
 そして白い男型となった時点で、フィレオの戦い方を学習し剣を覚えた。
 これだけでも驚くべきこと。だがしかし、ジーンは「そんなことはどうでもいい。むしろ注視すべきは剣をとり込んだことだ」と強調する。

「攻撃を受け破壊されるほどに、より強靭となる肉体。学習にて戦い方はより洗練されていく。そして吸収することで燃料切れの心配がない。あの分では相当の悪食で好き嫌いもなさそうだしな。言うなれば半永久的に動き続ける自立稼働型の機具。しかも自己再生と進化機能のオマケつきだ。ヤバいぞ、アレは……」

 戦うほどに強くなるモンスター。
 かといって放置すれば、時間を与えた分だけ賢くなり、やはり強くなる。
 あの調子では、いずれ自らの意思で吸収と学習を制御するだろう。
 いつにも増して険しい表情のジーン、「あれは滅びの種子だ」と口にした。
 発芽したが最後、きっと手がつけられなくなる。誰にも止められない。
 おぼろげながら、ようやく俺もことの重大さを理解した。キリクもそうなのだろう。なにせ顔が真っ青になっていたから。
 現在、パーティー「オジキ」は、世界的な危機へと発展しかねない存在と対峙している。
 三十路過ぎの第四等級冒険者には少々荷が重すぎる。
 この理不尽を前にして、俺たち三人にいったい何が出来るというのであろうか。

「深刻な状況なのはよくわかった。だが……」

 俺は言い淀む。
 なにせ最大火力を誇る魔法は打ち止め。剣もすでにほとんど通じない。というか、奪われて喰われた!
 どうにかしたいのは山々だが、打つ手がない。
 ここで足止めをして、その間に救援を頼むのが一番現実的な案だが、エイジス王国はただいま非常事態宣言の真っ最中。辺境の温泉地に戦力を割く余裕はない。
 そしてのんびりと対策を考えさせてくれるほど敵も甘くはない。
 すり鉢状に抉れた地の底から、のそりと姿を見せた白い男。猛然とこちらへ向かって駆け出した。
 見た目がすっかり変わってしまっても、二度も煮え湯を飲まされたことまでは、忘れてくれなかったようだ。

「くっ、とりあえず俺とキリクで時間を稼ぐ。その間にジーンは何か策を考えてくれ」

 言うなり俺は物陰より飛び出し、キリクもあとに続く。
 ジーンがその背に言った。「わかった。あとキリクは斬紐を使うな。アレにそんなモノまで覚えられたら厄介だからな」
 走りながらひらひらと手をふってキリクは応じる。

  ◇

 新しいオモチャを手に入れてはしゃぐ大きな子ども。
 それが剣を手にした白い男と対峙している俺の印象。
 動きこそは上手にマネている。
 が、あくまで格好だけだ。
 剣を放つには滑らかな重心移動や踏み込み、腕の振り、腰の回転、握りの強弱など、わりと細々としたことを同時にこなす必要がある。
 だからこそ素振りをくり返す。手のマメを何度も潰し、皮がぶ厚くなるほどに。一連の動作をひたすら反復し、呼吸するかのごとく自然とこなせるようになるまで延々と続け、体の芯の部分にじっくりと染み込ませ、宿らせる。
 白い男の剣には威力があり、風が轟と唸り、盾でいなすほどにガツンときて肝が冷えるほど。
 けれども積み上げたもののない剣技は、どこか虚ろで、重たいけれども軽い。
 ぶっちゃけ武闘会で戦ったガレウスの槍の方が、俺はよっぽど恐ろしかった。
 そういった意味では、こいつが武器を手にしてくれたのは、かえって運がよかったのかもしれない。なにせわざわざこっちの土俵に上がってくれたのだから。
 しかも現時点で、白い男の手本となったのは俺しかいない。
 これがもしも第一等級冒険者や武芸の達人の類であったら、おそらくこの段階ですでに手がつけられなくなっていたことであろう。
 よりにもよって、一番最初に模倣した相手が一介の冒険者の凡夫だったとはな。
 こいつもとんだ貧乏クジを引いたものである。

 最上段より真っ向に落ちてきた切っ先。
 俺は半身を下げて体さばきのみにてかわす。
 地面につく寸前で刃が返り、こちらのノド元を切り裂くように走る。
 これを盾で受け流しつつ、半歩後退。
 やや間合いが開いたところで、くり出されたのは刺突。
 狙いは腹部。もっとも面積が大きく当たる確率が高い部位。
 俺は大きく後方へと跳躍し、間合いから逃れ突きを回避。
 さらにこちらへと白い男が踏み込もうとしたところで、キリクが小石を投擲、追撃を阻止してくれた。
 こんな調子にて二対一で、どうにか猛攻をしのぎ続けてきたものの、ここにきて奴の動きが良くなってきた。
 一手ごとに否が応でも思い知らされる敵の成長。
 戦いの経過を観察しているジーンはいまだに沈黙したまま。
 額に浮かぶ汗を拭い、俺は「これが進化か……」とつぶやいた。


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