冒険野郎ども。

月芝

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111 点の奇跡

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 再生、学習、進化などという物騒な能力を持つロード級モンスター。
 世界的な脅威になりかねない相手。ジーンいわく「滅びの種子」なるモノ。
 そんな奴と戦うハメになったパーティー「オジキ」の面々。
 けっこうシャレにならない局面。だというのに、おっさん三人にできることといったらガマン比べだというのだから、なんとも情けない。
 存亡を賭けた戦いのわりに華やかさは皆無。
 傍目には地味なドロ試合の様相。
 だがやっている俺たちは必死だった。
 なにせこれまでの冒険者人生で積み上げてきた手札を、慎重かつ的確な順番で切る必要があったのだから。
 対する白い男は、こちらが提示した手札をガツガツ喰らい肥大化するばかり。
 一方的に搾取される展開の中で、俺たちはしぶとく足掻き続ける。

 せっかく剣の扱いを覚えたところに盾を装備したものだから、とたんに体のバランスを崩した白い男。動きが鈍くなった。
 そのタイミングで対峙したキリク。
 素早さが身上の斥候職が、ここぞとばかりに攻め立てる。周囲を駆け抜けざまに短双剣で斬りつけるのは、関節の周辺。いかに体表が刃を通さぬほどに硬化していようとも可動域ばかりはそうはいかない。
 その中でも重点的に狙うのは手の小指や首の付け根あたり。その部位が傷つき再生強化されることで得られる効果は大きい。
 小指の曲げ伸ばしが不自由になることで剣の握りが甘くなる。チカラを込めにくくなり威力も半減。これを補おうと無理をするほどに体への負担が増す。
 首の動きが阻害されることで視野が狭まり死角が拡大。これを補うためには全身を大きく動かす必要があり、やはり体への負担が増える。
 長期戦を見越してのキリクの策であった。

  ◇

 流れてくる風がやや肌に冷たい。
 空と海が茜色に染まる頃、廃墟の町に響いたのは男の苦悶の声。

「ぐわっ」

 白い男から盾の横殴りを受けて、吹き飛ばされたのはキリク。地面に転がり動かなくなる。ダメージもあるのだろうが、どちらかというと疲労の蓄積が原因。
 俺とキリクとジーンの各々、もしくは二人ときに三人で組み戦い続けること、すでに半日近くの時間が経過していた。
 三人ともに己が持つありとあらゆる戦い方を駆使し、知恵を絞り、ときには即席で思いついた手段さえも試し、どうにかここまで粘ったものの、それもついに打ち止め。
 ジーンの矢は尽き、魔力も回復した端から魔法を行使したもので、とうに限界を超えており、もはや立ち上がるチカラも残っていない。
 俺の盾もベコベコにて原型を失った。革の鎧も斬撃にて傷だらけ。どちらもほとんど意味をなさないような状況。もちろん肉体も疲労困憊。
 対する目標は、その形状を大きく変えており、すでに白い男と呼ぶには無理があった。
 まさか、途中で腕を追加で生やすとはな。インチキにもほどがあるっ!
 六本もの腕にて長剣短剣の四刀流、加えて盾が二つの鉄壁な防御。更にはこれを支えるために体全体が大型化して、その辺の家の屋根よりも背が高くなっていやがる。
 しかし体中にはバキバキと亀裂が目立ち、古い廃屋の土壁のよう。体内に宿している歪みがより深刻化しているのは明白。

 もう少し……。

 確信めいた予感がある。
 だが、あと一手が足りない。どうする? どうすればこの局面を乗り超えられる。どうすれば俺たちは生き残れるのか。
 考えながら俺は周囲に視線を彷徨わせる。
 白い六本腕は「もっと楽しませろ」とでも言わんばかりに悠然としていた。
 ジーンは付近の壁際にてもたれるようにして座っているが、目が虚ろ。魔力切れにて意識がもうろうとなっているのだろう。
 俺は倒れているキリクに近づく。
 しゃがみ込んで声をかけるが、返ってきたのは苦しそうなうめき声。にもかかわらず、その手がもぞもぞと動く。腰のポーチを漁り、キリクが差し出したのは組み紐の束。
 鉄のような硬さがあるくせに、女の髪のようなしなやかさを持つ、キリク特製の斬紐。
 敵に学習されたら厄介との理由から、今回の戦いにおいて最後まで使用を控えていた品。
 こいつを受け取り、俺は一人、白い六本腕へと向かって歩き出した。

  ◇

 急激な進化を遂げて、白い武神のごとき凶悪な姿と化した六本腕を前にして、ふしぎと俺の心は落ち着いている。
 なんというか「やるだけやったし、あとはなるようにしかならない」といった心境。諦めではなく、開き直りでもない。まぁ、たんに疲れて頭がぼんやりしているだけなのかもしれないが。
 おかげでこうして何ら気負うことなく、こいつの前に立っていられる。
 頭上より勢いよく迫る長剣。こちらを両断する意図が込められた一撃。
 俺は一歩横へと動き、ゆらりとそれをかわす。
 すぐそばの地面が抉れて、盛大に爆ぜた。
 発生した土煙ごとこちらを撫で斬りにするかのように襲い来る第二撃は、またも長剣。
 盾をかち上げることで、どうにか軌道をそらすも、ここで皇都フラムケルヒで手に入れた盾が悲鳴をあげた。
 むしろいままでよく頑張ってくれた。俺は心の中で感謝を伝え、相棒に最後の役割を与える。

「盾術の授業もこれで最後だっ!」

 叫ぶなり盾を円盤のようにして投げ放つ。狙うは顔面。
 至近距離からの意外な攻撃。一瞬躊躇した白い六本腕。しかしすでにひと通りの体術や技能を習得した奴は、わずかに上体をそらし首を傾げて、あっさりかわしてみせた。
 じつに滑らかな動きによる回避。これに連動し、第一撃目にて大地を抉った長剣の刃が返る。
 疾走する凶刃が股下より迫る。必殺の斬り上げ!
 直撃を受けた俺の身が高らかに宙を舞う。
 だがしかし、六本腕の遥か頭上へと飛ばされた俺は死んでいない。
 真っ二つになってもおかしくない一刀。それを土壇場で防いだのは、手の中にあった紅いドラゴンのウロコ。
 太古より最強の座に君臨する生物と新参者。どうやら軍配は先輩にあがったようだ。
 打ち上げられた俺の体が空中にてピタリと止まる。
 あまりにも不自然な急制動。
 地上からこちらを見上げている白い六本腕が、ふしぎそうに首をかしげた。
 夕陽を受けて、キラリと光ったのは細い線。
 両者の間をつなぐのは一本の組み紐。キリクに託された斬紐である。
 盾を投げつけたのは囮にて、紐を奴の首にかけることこそが本命。キリクの十八番をちょっとマネさせてもらったのだが、思いのほかに上手くいった。
 俺を派手に打ち上げた分だけ、ギチギチと斬紐が白い六本腕の首に喰い込む。
 首周りに細かいヒビが走り、それを修復しようとすぐさま再生が重なる。
 いっそのこと、このまま首が落ちてくれたら助かったのだが、さすがにそこまではいかない。
 やがて宙に浮いていた体が落下を始める。
 俺は残りのチカラをふり絞り、組み紐を持つ腕を思いっきり引く。
 これにより落下速度がグンと加速。互いの距離がいっきに縮まる。
 雄叫びをあげ、俺は勢いのままに白い六本腕の顔面へと蹴りを放つ。
 効くかどうかなんてまるで考えてはいなかった。ただ己のブーツの硬いカカト、その一点にすべてを集約することだけに全神経を注ぐ。
 点と点がつながり線となる。
 俺の中の何かと白い六本腕の中の何かが、カチリとかみ合うのを確かに感じた。
 すべてのチカラが混然一体となって、絡み合い、突き抜け、貫く。
 瞬間、歪みの卵が羽化、殻が割れて中身が溢れ出す。
 急激な進化の果てに待つのは、自壊。
 足の裏にてガラスが砕けるような音がした。
 その正体を見届けることなく、俺の意識は途切れる。


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