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116 謁見
しおりを挟む俺が辺境都市トワイエの冒険者ギルド支部長ダグザから本部を経由して、エイジス王国の国王への謁見を申し込んだところ、トントン拍子に話が進む。
ふつうならばあり得ないこと。
それを可能にしたのは、とあるアイテム。
紅いドラゴンのウロコ。
国宝級の品にて、それを三枚も献上したいとの申し出を受ければ、誰だって無下には扱えまい。
ドラゴンのウロコと引き換えにラナの助命を願い出るという単純な作戦。
一介の冒険者が国王に直訴なんて、無茶苦茶な話。
だからはじめは自分だけで行うつもりであった。
しかしいざ作戦を実行すると必然的に入手経路にも話が及び、キリクとジーンとマホロも同様の品を持つことが露見する。
そうなるとマホロはともかく二人には迷惑がかかると考え、俺は作戦決行にあたって、まずは仲間たちに自分の想いと考えを打ち開けることから始めた。
するとキリクとジーンは「だったらオレのも使え」「わたしのもスキにしてかまわない」と言い出した。
売れば一生どころか数代が余裕で遊んで暮らせるほどの宝物。
それをあっさり手放し、個人的なワガママのために役立てろと言ってのける二人に、俺は開いた口が塞がらない。
「さすがにこれは受け取れない」と俺が断れば、「一度出したモノを引っ込められるか」とキリクが頑として譲らず、「すでにひと通り調べたから、もういらん」とジーンがソッポを向く。
結局その日は夜を通しての押し問答となり、明け方近くまで喧々囂々。
二対一にてついに根負けした俺が押し切られる格好となった。
◇
指定された日時に、王都グランシャリオにある冒険者ギルド本部にて。
おっさん三人がソワソワしながら待っていると、城より迎えの馬車がやってきた。
それに乗り込み案内されたのは、王城内の一角にある庭園。
公式の謁見ではなく、あくまで私的な面会という体裁をとっているのは、こちらからの要望である。
格式ばった場にて、厳かな雰囲気の中、やんごとなき人々に囲まれつつ、「おそれながら」なんぞと言い出せるほど、俺の心臓は強くない。だから少しばかり小細工を弄させてもらった。戦いをより有利に運べる場を整えるのもまた冒険者のやり方。
が、案内されるまま現場に到着した俺は、すぐに己の浅はかさを痛感する。
なにせ城内に数ある庭園の一つにすぎないというのに、俺が知るいかなる貴族や豪商の屋敷や庭よりも、ずっと洗練されていたからだ。
鮮やかな緑と、柔らかな光、やさしい風、心地よい静謐……。
絵本の中から飛び出したかのような幻想的な風景。
王族に仕える一流の庭師が代々守ってきた空間。人知と自然の融合。色彩の調和。
そこに満ちるは、まごうことなき気品。
脈々と受け継がれてきた仕事に圧倒される。
立ち尽くす俺たちを、更に困惑させたのは出迎えてくれた意外すぎる相手。
なぜだかアトラが「ひさしぶり、フィレオ」とニコリ。
第一等級冒険者にして、紅風の異名を持つ女剣士。とある事件にて関わることになって以来の再会。
「どうしてキミがここに?」
俺の問いにアトラは「ふだんは王族の警護をしているから」と答える。
その言葉を聞いて、彼女が国お抱えの冒険者であったことを遅まきながら思い出す。
「こっち……、ついてきて」
俺の手をとり歩きだしたアトラ。
自分よりもずっと小柄だというのに、大剣を目にもとまらぬ速さでぶん回す彼女。その身に秘められた膂力は、常人を遥かに凌駕しており人外の領域にて、抗うことはかなわない。だが手の平から伝わる感触が、けっしてそれだけではないことを物語っている。天性の才に溺れた者ではない剣士の手が、そこにはあった。
背後からキリクとジーンもついてくる。
体格差の関係で彼女の歩みに自然と俺が合わせることになるのだが、それにしてもやたらとゆっくり歩くアトラ。
どうしたのかとちらりと見れば、開ききった黒目がじーっと俺を凝視していた。
まばたきを一切しない魚のような瞳にて、あいかわらずちょっと怖い。
◇
庭木の間に通された小径を抜けると、原っぱのような場所に出る。
中央に白い丸テーブルとイスが設けられており、そこにいたのは父娘とおぼしき黒髪の二人組。
この国の民ならば誰もが知る有名人。
濃青色の地に金糸刺繍が施された雅な衣装。その端々から覇気が見え隠れしている男が、現王ヴァルトシュタイン・エイジス。
艶やかな夜の漆黒を厳選し寄り集めたかのような豊かな黒髪にて、月光のごとき神秘的な輝きを持つ娘が「月夜の君」と名高き美姫、第二王女メロード・エイジス。
「来たか、待っていたぞ」
まるで親しい友人でも迎えるような気安い王の態度。
それでも声をかけられた俺たちは、ごく自然な動きにて片膝をつき、首を垂れていた。
自主的にそうさせるだけの威厳がヴァルトシュタイン・エイジスという男には備わっていたからである。
今回の「七渦の回廊」で発生した大反発。これを迅速に鎮圧した手腕は、伊達ではないということ。
たまたま高貴な家柄に生まれ、王位を継承しただけのお飾りではない。
その座に着くべくして着いた男。
そんな人物を相手に、これから俺は一世一代の大博打をうつ。
かつて経験したことのない類の緊張に体が震えるのを懸命に抑えつつ、俺は静かに戦闘準備を整えていく。
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