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117 男と女
しおりを挟む「堅苦しい挨拶は無用。こっちに来てとっとと座れ」
いきなりヴァルトシュタイン王から、同じテーブルにつけと言われた俺たち。
恐縮しつつ従うと、今度はメロード姫が手ずからお茶を淹れはじめたもので、更に驚かされる。
おっさんたちが目をぱちくりしていたら、メロード姫がクスリと笑みを零した。
「いくら王族とてこれぐらいは自分でしますよ。いちいち側仕えを呼んでいたらきりがありませんから」
立場があるので人前でこそ恭しく扱われているが、一歩裏に回ればこんなものと、あっけらかんとした姫。「ガハハ」と豪快に笑う王。
この時点で主導権は完全に向こう側。俺の意気込みは軽くあしらわれて宙を彷徨う。
しばし当たり障りのない話題にて歓談。
ほどよく場が温まったところで、ヴァルトシュタイン王が「そうそう、まずはこいつを返しておこう」と懐より取り出したのは、紅いドラゴンのウロコの一枚。
今回の謁見を実現させるために、俺が事前に証拠として提出していたモノ。
「結論から先に言う。こいつは受け取れない」
王のひと言によって「国宝級の宝物を献上するかわりにラナの助命を願う」という俺の計画はあっさり崩れた。
よもや「いらない」と断られるとは……。これは完全に予想外の展開。
交渉や博打以前の問題。とはいえ、このままおめおめと引き下がるわけにはいかない。
だから俺はなおも喰い下がろうとする。無礼を承知で口を開きかけたのだが、王は「まぁ、まずは話しを聞け」と制した。
「フィレオ、おぬしの願いはわかっている。七渦の回廊にて騒動を起こした金色のグリフォンに所属する、女冒険者の助命であろう」
ドラゴンのウロコを献上したい。
いかにギルド本部経由とはいえ、そんなトンデモナイ話が来た時点で、王は即座に相手の身元調査を命じる。
パーティー「オジキ」に所属するフィレオ、キリク、ジーンの三名について、徹底的に調べ上げていけば、おのずと浮上するのがフィレオとラナの関係。
このタイミングでの申し出とあれば、答えは容易に導き出されるというもの。
だがしかし……。
「たかが女一人のために。それも自分を裏切った相手のために、貴重な宝物を差し出すバカがいるものか! きっと何かよからぬ企みがあるにちがいない! などという意見も多かったのだがなぁ」
王も同じ男として、なんとなくだがフィレオという者の行動を理解できなくもない。
過去の恋愛を引きずり、いつまでも消化しきれないのが男という生き物。ついでにカッコウつけの意地っ張りにて、「昔の女には幸せになってもらいたい」とか考えてしまう。
さりとて天秤にかけるには、両者はあまりにも不釣り合い。
ドラゴンのウロコにはそれほどの価値がある。使い方次第では栄達が思いのままになるシロモノ。
しかしここでフィレオの味方をしたのがアトラ。
ふだんはほとんど自発的に言葉を発しない第一等級冒険者がぽつり。「彼はそういう人だから」
これで風向きがいっきにかわり、今回の謁見の場を設けることになったという。
◇
ここまで王の話を聞いた限りでは、なんら問題はなさそう。
なのにウロコを受け取ってもらえないということは、犯した罪があまりにも重すぎて、とても許すことが出来ないということなのだろうか?
絶望ばかりが膨れ上がって、目の前が暗くなる。
そんな俺に王から差し出されたのは一通の親書。
なんら脈絡のない登場にて、戸惑う俺に王が「いいから読んでみろ」と促す。
言われるままに目を通す。それは獣皇からヴァルトシュタイン王へと宛てた手紙であった。内容はマホロの件に関するもので、俺たちの配慮に対する謝辞がつらつらと述べられてあった。
これが今までの話とどう繋がるのか理解できずに、俺は首を傾げるばかり。
「わからんのか? マホロという希少種の赤子。扱い方を一歩誤れば、獣人との全面対決の火種になっていたかもしれんということだ。結果として、おぬしらは戦禍を未然に防いだことになるのだ」ここでコホンと咳を挟む王。ややもったいぶってから言った。「なのにドラゴンのウロコまで受け取っては、あまりに貰いすぎというもの。だからいまはこれを受け取れぬ」
ドラゴンのウロコの献上話がなくても獣皇の親書の件にて、近々、王族側からパーティー「オジキ」には声がかかっていたはず。
そう聞かされて俺は愕然となる。
すべては手前勝手の徒労だったのか? でも、ということは……。
「では、ラナは!」
前のめりとなった俺に王が苦笑い。
「うむ、だが喜ぶのは早い。さすがにあれだけの大罪に関与した者を無罪放免とはいかんからな。じつはここだけの話、金色のグリフォンの処遇については、意見が割れておってなぁ」
なんでも騒動のおり、ラナはエイサーの暴走を止めようとしていたらしい。
いざ反発が発生したときには、逃亡中に見かけた他の冒険者たちに危険を報せ「すぐに逃げろ」と避難を促していたとの証言も多数。
また金色のグリフォンのメンバー内でも、リーダーの企てに積極的に加担していた者と、しぶしぶ従っていた者とがいて、連帯責任によりまとめて首を落とすのは、いささか乱暴が過ぎるのではとの指摘もあったという。
「まぁ、そんなわけにて、此度の助命嘆願はこちらにとっても都合がよかったのだ。密かに国を救ってくれた恩人であるその方らからの頼みとあっては、無下にもできんからな」
ただし、罪一等を減じ死罪を免れた者は、犯罪奴隷として国預かりの身となり、辺境の復興と発展のために残りの人生を費やすことになる。
これをもって贖罪とするとのヴァルトシュタイン王の言葉。
恩情ではあるが厳しい沙汰でもある。この先、ラナが歩む道はけっして楽なものじゃない。それでも生きてさえいてくれれば……。
嗚咽をこらえきれない俺の背をジーンとキリクが優しく叩く。
あとなぜだか、頭をアトラに「よしよし」と撫でられたのだが、かまわず俺は男泣きに泣いた。
◇
謁見は終わった。
パーティー「オジキ」の面々は、アトラに連れられて辞去。
残されたヴァルトシュタイン王は、一枚の誓紙を前にしてニンマリ。
そこにはドラゴンのウロコについて書かれてある。内容を要約するとフィレオ、キリク、ジーンの三名が亡くなったあかつきには、ウロコを国に寄贈するというもの。
まずラナという女冒険者の処遇についての話しを済ませてから、改めてウロコについて言及した王。
本音を言えばノドから手がでるほど欲しい。国としても、王としても、いち個人としても。
しかし紅いドラゴンが自ら与えたという品を権力で召し上げるようなことは、あまりにも外聞が悪い。たとえ正式に買い取ったとしても、それはしょせん人間の都合。
もしもドラゴンが不快に感じて機嫌でも損ねたりしたら、たいへん!
国が亡ぶ。エイジス王国二千年の歴史があっさり終わる。
が、欲しい。
そういった事情をあえてつまびらかにした王。
するとジーンが「ならば、こうしてはどうか」と提案したのが、この誓紙。
文面だけをみれば、パーティー「オジキ」が結局タダでウロコを譲渡するように見えるが、これにはある種の密約が含まれている。
内訳としては「自分たちのことをそれとなく気にかけてくれたら、うれしいな」である。
つまりパーティー「オジキ」に薄っすらとだが、エイジス王国の後ろ盾がついたということ。
もちろん犯罪をもみ消したりとか、そういう非合法なことには手を貸してくれないが、まっとうなことであれば色々と便宜をはかってもらえる。
一介の冒険者にとっては、これほど心強いことはない。
「まぁ、なんて欲のないこと……。望めば爵位と領地ぐらい得られたでしょうに」テーブルの上を片付けながら、やや呆れた調子のメロード姫。「ですが、アトラちゃんがゾッコンなのも、なんとなくわかった気がします。気持ちの整理に少々時間はかかりそうですが、あの方ならば彼女をお任せしても大丈夫そうですね」
姫の言葉に首をひねる王。「うん? なんの話だ」
「いやですわ、お父さま。アトラちゃんがフィレオさんにですよ。あれだけ熱い眼差しを送っていたのに、気づかなかったのですか」
「!!!」
ほくそ笑んでいた王。娘の言葉に唖然。
まんまとドラゴンのウロコを譲ってもらう約定をとりつけ、ついでに子飼いに使えそうな腕利きの冒険者をも手に入れたと得意になっていたら、いつの間にか、王国屈指の戦力の心を奪われていたからである。こうなると勝ち負けの判定が微妙なところ。
「しまった!」頭を抱える父の姿に、メロード姫は「やれやれ、これだから殿方は」とタメ息ひとつ。
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