冒険野郎ども。

月芝

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159 闇夜を駆ける

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 風を受けて夜空に広がる大きな布の傘。
 撥水加工が施されており、軽いけれどもとっても丈夫な布。
 野営の時とかに敷物にしたり、日よけや雨よけ、簡易テントにも応用可能な優れモノ。
 いつ何があるかわからないので、冒険者として仕事をするときには、どこへ行くにも最低一枚は丸めて持っていく。
 キリク考案により即席で作ったお手製の落下傘。
 これを用いてパーティー「オジキ」は、ダンジョン「岩壁王」の最上階より脱出。
 遠ざかる「岩壁王」は全体が炎に包まれ、激しく燃えていた。
 もう少し脱出するのが遅れていたらと思うと、ゾッとする。
 しかしその業火のおかげで、周囲の空気が暖められ発生した上昇気流に乗って、俺たちはより高く空へと舞い上がれた。
 ぶっつけ本番のわりには、お手製落下傘はわりと機嫌よく飛んでくれている。
 が……。

「あだだだだだ、腕が、腕がもげるっ」

 大布の端々に括りつけた紐を束ねて握っている俺は悲鳴を上げた。
 目論み通りにちゃんと傘は開いてくれたのだが、谷から吹き上がる風を受けて腕が左右に引っ張られて、めちゃくちゃ痛い! いまにも体が縦に裂けてしまいそう。
 あと前後にしがみついているおっさん二人が汗臭くて、重え!

「自分のカラダに宿る神鉄のチカラを信じろ、フィレオ。なんてったって神さま印の鉄を名乗るぐらいなんだから、きっと大丈夫のはず」なんぞと無責任なことを言うキリク。「そろそろ第二段階に移行するから気合を入れろよー」

 脱出を第一段階とするなら、第二段階は追尾。
 なにせ黒装束の覆面野郎は去り際にこう言っていたからな。「まだ仕事が残っている」と。
 仕事の概要についてはウルリカがキリクに託していた。
 連中が狙うのは、中央の役所関連を仕切っているボーラー・ドラドの首。それからキンザ大橋の破壊。すでに橋げたのあちこちに魔法陣を仕込んでおり、ボーラーの暗殺を狼煙に、作戦が決行される手筈となっているとか。
 橋には大勢の住人たちが寝起きをしている。
 そんな暴挙、断じて許すわけにはいかない!
 阻止するには空を飛び先行する錆びた色の瞳の男に追いつくか、もしくは追い越し危機を報せる必要がある。
 ふつうに考えれば、そんなマネは到底不可能な芸当。
 だがそれを可能にするかもしれないのが、第二段階。
 俺の背面におぶさるような格好でしがみついていたジーン。

「いくぞ。衝撃に備えろ」と告げた。

 ジーンの指輪が次々と砕けていき、五つが消費される。
 詠唱短縮にて放たれたのは風の魔法。
 推進力を得て、空飛ぶおっさんたちは前方へと向けていっきに加速。
 広げた大布がくしゃくしゃにならないギリギリの風力に調整しつつ、これを継続し最高速を維持する。
 おそろしく繊細かつ骨の折れる魔力操作が必要にて、ジーンはそちらにかかりっきり。
 俺は人間落下傘と化し、ひたすら痛みに耐えて仲間たちを支える。
 そして細かい舵取りはキリクに一任。
 おっさん三人がひしと抱き合い夜空を駆ける。

  ◇

 遠くに見えていた灯りが、じょじょに近づいてくる。
 煌々と海峡を横断しているのはキンザ大橋。眠らない大橋は、それ自身が灯台の役割も果たしており、多くの船舶の夜間運航を助けている。
 役所が集まっている中央区、その向こうには港湾区の明かりも見えてきた。
 キリクは中央区へと進路をとる。いきなり俺たちが橋へと押しかけ危険を伝えたとしても、たぶんロクにとりあってはもらえないだろうから。
 だから暗殺を阻止するか、ジーンのオヤジさんに情報を直接伝えるつもり。

「うん? アレは……」前方をにらみながらキリクがにやりと笑う。「ざまぁみやがれ! 追いついてやったぜ!」

 前方に浮かぶ豆粒のような黒。
 人里に近づいたことで、地上から明かりに照らされ、その姿が闇夜に浮き彫りとなる。
 こんな時間に空を飛んでいるヤツがそうそういるとは思えないので、おそらくはアレが錆びた色の瞳の男。

「キシシシ、よもや背後から空を飛んで追いかけてくる者がいるとは、夢にも思うまい。このまま強襲をかけるぞ」

 まともに戦ったら三対一でもヤバい相手。
 だから空の上で仕掛けるとか、キリクが無茶を言い出す。
 いろいろ重なってか、少し様子がおかしくなっていたキリクに、俺とジーンの声は届かない。

  ◇

 マナジントン島中央区。
 のっぽな建築物が目立つ中、一番背の高い建物が商連合の総本山。
 そちらへと向かう錆びた色の瞳をした男。
 後方斜め上空から追う俺たち。
 男が進路を変えるのに合わせて、キリクが舵を微調整。
 推測される行き先は建物の上層階。明かりがもれている大きな窓。
 会議室らしき場所にて、中にはこんな時刻にも関わらず複数の人影。
 錆びた色の瞳をした男は大胆不敵にも、あそこから窓ガラスを破って侵入し、暗殺を強行する気のようである。
 ……どうやらとんでもないことを考えるのは、うちの斥候職だけではないらしい。
 こちらも負けず劣らずの無茶っぷり。
 もしかして暗殺業に関わるような連中は、みんなこんな感じなのだろうか?
 どいつもこいつもイカれてやがる!


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