冒険野郎ども。

月芝

文字の大きさ
164 / 210

164 剣の乙女の会

しおりを挟む
 
 音は聞こえなかったが、かすかに床から伝わる振動。
 何者かが近づいてくる。一人ではない。大勢だ。だが正確な数まではわからない。
 俺はゆっくりと瞼を開けた。
 目隠しの闇が広がるばかり。状況は変わっていない。だが心なしか肌に感じる空気がひんやりとしている。
 鼻をスンとさせると夜の気配を感じた。

 ガチャリと音がして扉が開いたひょうしに、外気がどっと室内に流れ込んでくる。
 思いのほかに温かい。荒ごとにふさわしい路地裏や場末にあるホコリっぽくも野卑た感じは微塵もない。むしろほんのり上品さすら漂うほど。
 耳に意識を集中し、俺はできるかぎりの情報を集める。
 複数の足音に衣擦れの音。カツカツと鳴る金属音は鎧や具足のもの。鍔鳴りもあった。息づかいはまちまちにて、性別や年齢がごっちゃになっているらしい。
 自分がそれらに囲まれたのはすぐにわかった。
 何やら小声で話をしている者もいるが、会話の内容までは聞こえてこない。
 ただヒシヒシと感じるのは視線。
 こちらの様子を伺いながら観察をしている?
 鋭い視線の類は、薄っすらとだが警戒と威圧が込められている。もしもこちらに怪しい動きがあれば、容赦なく得物を抜くとでも言わんばかり。かなりの腕利き揃いらしい。
 しげしげと向けられるのは好奇心の類とおぼしきもの。
 全身をなめ回すように見つめる視線には独特の粘着性がある。毒はないが不快さを伴うので、あまり気持ちのいいものではない。
 他には医師が患者を診察するような、学者が研究対象に向けるような、一定の距離と断絶を感じるひんやりとした冷静な視線もあった。
 かと思えば、イタズラ小僧を見つけたときに村の年寄りが浮かべる、怒気混じりのものなんかもあったりする。
 一瞬、神種の教団の線を疑うも、そういった狂気を孕む危険な気配は微塵もない。
 とにかく向けられる視線の質にばらつきが目立つ。かといって有象無象ではない。なんらかの目的のために結束はしている。でもがっちり統一をしている風でもない。
 少しヘンな例えになるかもしれないが、まるでお祭りの準備に町内の住人らが集まってわちゃわちゃしているような……。
 目隠し越しに伝わる感覚を探るほどに、俺の中では困惑の度合いが深まるばかり。

「なんなんだ……。この集団?」

 内心で俺はつぶやく。
 観察会とでも称せばいいのだろうか。
 なんとも奇妙で居心地の悪い時間がしばし続く。

  ◇

 しばらくしてから声がかかった。

「いささか乱暴な招待になってしまったな、フィレオ殿。ゆえあってこちらの正体は明かせぬが、我らは『剣の乙女の会』という結社のもの。なぁに、そう警戒せずともよい。用向きが済めばすぐに解放する。安心めされよ」

 声は老人のもの。厳かにて落ちついており、圧はないが重みがある。並みの老人とは一線を画す。言葉の端々に漂う風格が相応の地位を持つ者だと、容易に連想させる。
 そのような人物が絡む拉致監禁ということが判明し、俺はますます戸惑うばかり。
 だというのに老人はこちらを無視して「剣の乙女の会とは何か」との説明を始めた。

 剣の乙女の会。
 それは「紅風」の異名を持つ凄腕の女剣士、第一等級冒険者アトラを見守るファンの集い。
 実力は突出しているが、それを鼻にかけることもない素直な性格。年齢こそは二十歳だが見た目は十代半ばの少女にしか見えず、忖度や配慮なんていうムズカシイ言葉は知らない。だがそのおかげで裏表がなく誰にでも素で接する。
 彼女のそんな態度が、中央で権力闘争に明け暮れ穢れきった大人たちにぶっ刺さった。それはもう深々と。
 血のつながった肉親にすらも用心せねばならぬ過酷な人生を歩んできた者たちにとって、アトラの無頓着さから起因する無垢さは、「人間も捨てたもんじゃない」と信じさせてくれるもの。心のオアシス、癒しの泉、闇夜に輝く希望の星。
 いつの間にか絶大な支持を得て、当人も知らぬところで、みんなの孫娘的な地位を確立していたアトラ。
 だがこの孫娘的な乙女は、どうにも危なっかしいところがある。
 なまじ強すぎるがゆえに孤高が過ぎて、世間知らずなところが多々。そのうちヘンな男にダマされやしないかと老婆心にてハラハラしちゃう。
 そんな想いが高じて有志が集い発足されたのが「剣の乙女の会」であった。
 歴史は浅くとも、構成員が実力者揃いにて、エイジス王国に数多ある大小の秘密結社の中でも、群を抜く影響力を保有する。

  ◇

 長々としようもない話を聞かされた挙句に「どうだ?」と得意げに声をかけられても、俺は「へー、すごいですねえ」としか答えようがない。
「正体は明かせない」とか言っていたくせに、自分からペラペラ白状しているのも同じ。
 得られた情報から目隠し越しに推察されるのは以下のこと。
 わらわらと集まっている人たちは、会に所属する者たち。
 剣呑な音をまとっているのは、えらい人たちのお付きの警護。
 そしてこんな大袈裟なマネを仕出かしたのは「うちの孫娘の周囲をちょろちょろしている野郎を、いっちょ品定めしてやろう」といった意図による。
 暇と金と権力を持て余したお年寄りの遊戯。
 なんておそろしい……。
 というか、そもそもの話、根底からして色々と間違っている!
 だがそんな正論に耳を傾けるような方々ならば、こんな阿呆なことはしていない。
 いかに誠実かつ懇切丁寧に俺が誤解を解こうとしたところで、身贔屓で凝り固まって曇った彼らの眼を覚まさせることができるとは、到底思えない。
 はてさて、どうしたものか。

「アトラについてどう考えている」

 という困った質問から始まった、尋問。
 仕事のことから、交友関係、仲間について、好きな食べ物、苦手なこと、冒険者としての目標やら将来のこと、挙句の果てには貯蓄や、第二の人生設計とかまで、根ほり葉ほり。
 俺は問題のない範囲で答えたり、はぐらかしたりして適当にやり過ごそうとする。
 だが敵もさるもの。人生という荒海を長く泳いできただけあって、年寄り連中はしぶとく、しつこく、ねちっこい。おいそれとは引き下がってくれない。
 やくたいのない質疑応答を巡る攻防が続く。
 いい加減にお腹も減ってきたことだし、俺はそろそろ家に帰りたい。


しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...