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165 埋まる堀
しおりを挟む剣の乙女の会による、わけのわからない尋問の時間がだらだら。
が、そんな時間は唐突に終わりを告げた。
急に表が騒がしくなり、勢いよく開け放たれる扉。
ズカズカと入ってきた人物の手によって、俺の目隠しが外される。
てっきりどこぞの地下室の類にでも監禁されていたのかとおもいきや、さにあらず。我が身が居たのは小ぎれいにて明るい室内。周辺から音が聞こえなかったのは壁が厚く、部屋自体が建物の奥まった場所にあったから。
というか、雰囲気からして最初に訪問したあの豪奢な高級宿屋の敷地内みたい。
しょぼしょぼする視界の中には、藍色の長い髪にて大剣を背負っている乙女。
第一等級冒険者のアトラの登場である。
彼女の足元には緑のスーラがぷにょぷにょしており、そのうしろを見ればジーンとキリクの姿もあった。
◇
トンガリ頭の白いローブ姿。全身をすっぽりと覆い、目元だけが開いている。
そんな怪しげな一団が壁際にて並んで正座。
アトラにめちゃくちゃ睨まれている。
無言の説教にて、しゅんとへこんでいる剣の乙女の会の面々。ぷるぷる震える膝を緑のスーラが小突いて意地悪している。
どうしていいのかわからずに、周囲でおろおろしているお付きの騎士たち。
そんな光景を横目にキリクとジーンが俺の拘束をほどいてくれた。
二人の話しによると、ホームのリビングでゴロゴロしていたら、いきなりアトラが押しかけてきたらしい。
で、告げられたのが「フィレオが危ない!」ということ。
面喰らっているジーンとキリクにアトラが懸命に説明をするのだが、いまいち要領を得ない。なにせ元から口数が極端に少なく、お世辞にも弁が立つ方でもないゆえに。
それでもかろうじて分かったのは「なにやら秘密結社が動いているらしい」ということ。
話を聞いた直後、二人はてっきり神種の教団どもの意趣返しかと考えたという。
すわ、一大事とギルドへ行き、支部長のダグザから指名依頼のことを聞き出し、駆けつけた次第。
でも途中から「あれ?」となり、ことここに至っては「想像していたのとずいぶんちがう」
久しぶりに拘束を解かれて、俺は大きく「うーん」と大きく背伸び。凝り固まったあちこちの筋肉をほぐす。
で、アトラに声をかけた。
「そのへんでかんべんしてやれ」
「でも……」
「気持ちはありがたいが、お年寄りたちに正座はキツイ。いいかげんに膝を壊してしまうぞ」
「……わかった。フィレオがそう言うんだったら、許す」
アトラがうなづき、これによって現場の緊張感がようやく緩和。
正座の刑より解放された剣の乙女の会の面々は、とたんに足を投げ出し「イタタタタ」「つった」「しびれる」「ヒー」と床で悶絶。
周囲にいたお付きの騎士たちも、露骨にほっとした表情を見せた。
◇
床で「ひーひー」言っている連中に近づき、俺が「ところでどうしてこのようなマネを?」とたずねれば、一人が指差したのはアトラの手元。
左手の薬指にはめられた指輪。小さな緑色の宝石のついた品にて、以前にパーティー「オジキ」とダンジョン「百面相」に潜ったときに手に入れたモノ。冒険の記念にと俺があげた指輪。
「これまで装飾品になんぞまるで興味のなかったあの子が、安物の指輪をつけてよろこんでいる。ひと目みてピンときたわい」
「それでどこぞのヤツの仕業にて、いかような意図があってのことかを調べるために、我ら剣の乙女の会は行動を起こしたのじゃ」
「そうじゃそうじゃ。忙しい合間に時間をやりくりするのに苦労したわい」
「で、どんな相手かと思えば、ドラゴンの小僧ではないか。おのれ、油断も隙もありゃしない」
「ひと回りも歳のちがう小娘に手を出すとは、とんだ鬼畜野郎め」
「あら? でもわたしにはむしろアトラちゃんの方がお熱を上げているように見えるけど」
「いやはや、惚れた方が悪いのか、惚れた相手が悪いのか」
「きさま、その気にさせるだけさせておいて、遊びでしたでは済まさんからな! もしも不義理なことをしようものならば、一族郎党に目にもの見せてくれるわ!」
「断じて認めん! せめて第二等級になってから出直せ。甲斐性なしの未熟者めがっ」
「ちくしょうめ。おい若造、これで勝ったと思うなよ」
理由をたずねたのに、わけのわからないことを口にする剣の乙女の会の面々。
なにやら誤解があるみたいなので、俺が訂正しようとするもいきなり背後からジーンに羽交い絞めにされ、口をキリクに塞がれた。モゴモゴ。
「まぁまぁ。いいじゃないか。こうして無事だったわけだし」とキリク。
「だな。今後のことを考えると不用意な接触は避けるべきだろう」とはジーン。
うっかり剣の乙女の会の面々の覆面の奥にある素顔が露見すれば、のちのち面倒なことになりかねないと、もっともらしいことを言う二人。そのわりには顔がニヤけているのは何故だ?
◇
アトラに追い立てられるようにして、剣の乙女の会はすみやかに撤収。
そして彼女もまた緑のスーラを従えて王都へと帰っていった。
なにやら釈然としないままに幕を閉じた今回の騒動。
いちおうは指名依頼は達成したことになるらしく、報酬は支払われるとのこと。だから後日、確かめにギルド支部へと足を運ぶ。
口座を調べて俺はギョッ!
けっこうな額にて明らかに多すぎる。たとえ口止め料込みと考えてもだ。
俺が狼狽していると、ひょいと覗き込んだキリクとジーン。
「キシシシ、埋められてるねえ」
「あぁ、着々と埋められてる」
何やら楽しげにそんなことを口にする二人。
「いったい、何の話だ?」
俺がたずねたら、彼らはそろって「「お堀」」と言った。
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