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185 ティカルの花
しおりを挟むラグメンツさんから依頼を受けて、奇妙な屋敷の見取り図作成に着手したパーティー「オジキ」の面々。
今回、指揮をとるのはキリク。彼が邸内一階をざっと見ている間に、俺とジーンは外回りを調べることになった。内外を比べることによって、より精密な見取り図を完成させるためには必要なこと。
複雑怪奇な内部とはちがって、外部は各種寸法が記された図面も残されてあるので、これを頼りに俺とジーンは屋敷周辺をうろつく。
ときおり計測用の紐を取り出しては、二人で協力し採寸、図面通りであることを確認する作業をくり返す。
「外観はほとんど手を加えられた形跡がないな。キレイなものだ」
言いながら俺は地面にのびた計測用の紐をくるくる手繰り寄せる。
「工事記録に目を通したかぎりでは、外回りでイジったのは柵ぐらいだが……」
手元の用紙に数字を書き込んでいるジーン。
どこか奥歯にモノが挟まったような口ぶり。
「何か気になることでも?」
「ちょっとな。記録によると、もとは屋敷の外壁と同じように厚いレンガ製だったらしい。それをわざわざ鉄柵に変えた意図がわからない」
「風通しを良くするため、あるいは見栄えをよくするためとか。もしくはガタがきて倒壊しかけていたとか」
俺がそれっぽい改築の理由を並べるも、ジーンは「うーん」と顎に手を当てたまま。いまいち納得していない様子であった。
◇
コの字型の大きな屋敷。その敷地は家屋がすっぽり納まるほどもある正方形にて、噴水などがある前庭と、コの字のくぼんだ部分に位置する中庭には温室が設けられてある。
現在の屋敷の持ち主であるラグメンツさんが、定期的に庭師を派遣しているらしく、芝や庭木はキレイに整えられており、花壇も色とりどりの花が咲き誇っている。
けれども中庭の温室には、黒い花が植えられてあるばかりにて色味に乏しい。
「これはティカルだな。香水のいい材料になるのだが、家で育てているのは珍しい」
温室内を埋め尽くしている姿を前にしてジーンが物珍しそう。
ティカルは、欠けた月のような形をした九つの黒い花弁が扇のように重なっているのと、ギザギザの穂先のような葉、細い茎に生えた鋭いトゲが特徴的な花。峡谷の奥深くや谷間の険しい傾斜に群生している。
市場価値はそこそこながらも、朝露が残るうちに採取すると、香り成分が濃くなって、数倍の高値で取引される。
だからそのタイミングを狙う者も多いのだが、夜明け前の薄暗い時間帯と場所が場所なだけに、採集には絶えず危険が伴う。
ときおり死亡事故が起きることから、別名「冥誘花」と呼ばれ、一部の冒険者からは「縁起が悪い」と敬遠されてもいる。
「家で育てることがそんなに珍しいのか?」
大柄な体格のこともあって、ティカルの採取とは縁がなかった俺がたずねると、ジーンは「珍しいというか、育てる意味がないからな」と答えた。
なんでも野生のティカルは高貴な芳香を放つ成分が豊富なのに、人の手で育てられたティカルにはソレがちっとも宿らない。
観賞用とするには華がなく、そのくせ葉のギザギザと茎のトゲが庭師泣かせ。
育てる手間を考えれば、冒険者ギルドに採取依頼を出した方が、よっぽど楽。
そんなモノを植えている。しかもわざわざ専用の温室までしつらえて。
という意味での珍しい。
「屋敷内の改装といい、中庭の温室といい、この家の元の主人はよっぽど酔狂な人物であったらしいな」
ジーンはやや呆れている様子。
俺はその話しを聞きながら、黒い花に鼻先を近づけてスンスン。
ほのかに薫るニオイが鼻孔をくすぐり、くしゃみを一つ。
「うー、けっこうニオイがキツく感じるけど、これでも野生のモノに比べるとぜんぜんなのか」
俺がそう言うと「どれどれ」と自分もニオイを嗅いでみたジーン。片眉をあげて「うん? ヘンだな。まるで野生のモノと遜色ないように思える。それもかなり上等な朝摘みの」と口にする。
もしもジーンの言うことが正しければ、この屋敷の前の主人はティカルの栽培に成功したことになる。
自分で育てるなり、発見した栽培方法を売却するなりすれば、かなりの財が築けたはず。
なのにそれをすることなく、改築狂いの果てに、ついには没落して家屋敷を手放すハメになっている。
どうにも解せぬと首をひねる俺とジーン。
とはいえ、黒い花については今回の依頼とは関係がない。
俺たちの仕事はあくまでこの屋敷の詳細な見取り図の作成。
だから、あとで一応の報告だけはあげておこうと決めて、温室をあとにした。
◇
外をひと通りぐるりとまわった俺とジーンは、屋敷の中へと戻る。
すると壁に向かってわずか四段で途切れている意味のない階段に腰をおろし、頭を抱えているキリクがお出迎え。
「規格も何もあったもんじゃねえ。ここを作ったヤツはとんでもねえぞ。ひと部屋の中にこれでもかってぐらい技術や工夫を詰め込んで、歪みやズレや錯覚を仕込んでいやがる。どこもかしこもそんな調子だ。匠の技のムダ使いにもほどがある!」顔をあげて叫ぶキリク。けれどもすぐにガックリとうなだれ、ぼそり。「長期戦になるかもっていったけど、七日……、いや、十日ぐらいは覚悟してくれ」
キリクの発言を受けて「ここに十日もこもるのか」とジーンはもの凄くイヤそうな顔をした。
俺も似たようなものにて、つくづくこう思った。
「やっぱり冒険者の仕事に楽なものなんてありはしない」と。
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