冒険野郎ども。

月芝

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191 砂漠の夜

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 数の暴力で構成されたチュチュの大群。
 毛玉の絨毯が砂漠を疾走する。
 その上に乗せられた俺たち。
 どうすることもできずに、ただ運ばれるのに任せるだけ。ただし、乗り心地はおもいのほかによい。毛の肌触りとほどよい温もりが眠気を誘う。クセになる快適さだ。
 とはいえ、このまま巣へと持ち帰られて、生きながらかじられたのではたまらない。
 どうにかせねばと俺たちが思案していると、「チュ!」という甲高い声が群れの先頭より聞こえてきた。

「うん? これは警戒音か」

 ジーンがつぶやいた直後、毛玉の絨毯が急制動。
 勢いのままに進路を直角に曲げて、あろうことか俺たちをポイっと放り出す。
 たまらずおっさん三人組は、砂地へと頭から突っ込むハメに……。

「ブハッ、ペッ、ペッ、なんてことをしやがる」
「ちくしょう、口の中が砂だらけじゃねえか」
「い痛つっ、いきなりどうしたというのだ」

 悪態をつきながら起き上があった俺たち。
 砂まみれとなったカラダを払いつつ、すたこらと遠ざかるチュチュの群れを見送る。

「しかしヘンだな。砂の怪盗団が人に直接危害を加えたなんて話、耳にしたことがないんだが」

 俺が首をかしげていると、ジーンも「わたしも聞いたことがない」とうなづく。
 ふしぎがっている俺たちの背中を小突いたのはキリク。「あー、オレ、その理由がわかっちゃったかも」と言い出す。
 キリクが顔を引きつらせながら見つめていたのは、チュチュの群れが走り去った方とは逆の方角。
 あいにくの曇り空にて、いまいち視界が悪い。
 斥候職のキリクは夜目が利くが、俺とジーンはそれほどでもない。
 薄闇の砂漠に目を凝らしていると、ちょうどそのとき雲間から月が顔を出す。
 月明かりに照らされたギサの海が大きく波打っていた。それこそ本当の海のように。

「砂山が動いている? はっ! 大きな何かが地中を移動しながらこっちに向かっているのか! マズイ、散らばれっ!」

 俺が叫ぶなり、キリクとジーンが思いおもいの方へと駆けだす。
 自分の装備類のみを引っ掴み、逃げ出すのが精一杯であった。
 地震のごとく真下から突き上げられる。足下がゆれて波打ち、その煽りを受けてカラダが跳ね飛ばされる。
 宙を舞いながら俺が見たのは、地中より飛び出してきた大きな魚の姿。

 ザランド。
 砂漠にすむ中型モンスター。長い尾ビレを持つ魚に鳥の頭をくっつけたかのような容姿にて、クチバシは鋭く、口腔内には螺旋状に生えそろった凶悪な歯を持つ。呑み込まれたが最後、ズタズタに裁断されて喰われてしまう。性格は獰猛で執念深く、一度見つけた獲物を諦めることは極めてまれ。

 どうやらチュチュたちは、いち早くザランドの接近を察して、せっかく手に入れた獲物を放棄し、自分たちの身の安全を図ったらしい。
 つまり俺たちは囮にされたということ。

 すぐに散開したことで難を逃れた俺たち。
 ザランドの性格を考えると交戦を回避するのは不可能。だからすぐさま覚悟を決めて戦闘態勢を整える。
 もの凄い勢いで砂の海を泳ぐザランド。旋回してふたたびこちらへと迫る。
 細かい打ち合わせをしている時間はない。
 俺は盾をかまえつつ、二人に目配せ。ジーンとキリクがうなづいたのを確認して、正面から向かってくるザランドに意識を集中する。
 波打つ砂から薄い背びれが突出している。刃のごとき鋭さをもつそれが、月明かりを浴びてギラリと光る。
 雲が月を隠し、視界が暗転。
 薄闇の中、俺は背びれを見失う。完全に潜ったのか?
 それでも全神経を集中し、前方を警戒。
 命を懸けたギリギリの駆け引きの中、時間の流れがやたらと遅く感じる。
 まだか、まだか、と待つも、ヤツはいっこうに姿をあらわさない。
 ふたたび月が顔を見せ視界が戻り、ほっとして緊張の糸がわずかに緩む。

「右だ! フィレオっ!」

 叫んだのはキリク。
 考えるよりも先に、俺のカラダは反応していた。
 ふり向いたのと同時に、視界が捉えたのはザランドの鋭いクチバシ。
 地中より斜めに突き出された槍のごとき一撃。こちらを貫かんとする。
 闇に紛れての移動から、こちらの気のゆるみを狙ったタイミングでの襲撃。
 クチバシがかざした盾の曲面を削りながら滑っていく。
 身をひねり後方へと受け流しつつ、俺は膝を放つ。
 これがザランドの左目を直撃。
 たまらず傾ぐ魚体。勢いよく走る馬車が石に乗り上げ、バランスを崩し横転するように、地中から飛び出したザランドが俺の膝蹴りにて、砂の上に横倒しとなった。
 さらけ出されたザランドの身へひらりと躍りかかったのはキリク。腰の短双剣の二刃をすかさず突き立てる。
 ジーンは駆けて位置取り。額の急所を狙えるところへと移動してから矢を射た。
 しかし、しぶといザランドは暴れ続ける。
 叩きつけるようにして振られる長い尾びれ。潰されてはたまらないと、俺たちはいったん距離をとる。
 様子を見ていたら、次第に悪足掻きも収まっていき、やれやれとひと息つきかけた時、またもや異変が発生!
 付近の斜面から唐突に巨大な砂の腕が生えた。
 のびた腕がぐったりしているザランドの長い尾びれをむんずと掴む。

「今度はレセプタルか、次から次へと……」

 ジーンがうんざりしたようにつぶやく。

 レセプタル。
 上半身だけの砂の巨人型モンスター。動きは鈍いが、いくら体を破壊しても元に戻ってしまう。変幻自在にて、ときには津波のように覆いかぶさってくることも。倒すには大量の水を叩き込むか、体内の魔石を破壊するしかない。
 なお丸い魔石を二つもつ変わり種。
 これをペアリングに加工したものが、巷の恋人たちに大人気。

「レセプタルが欲しいのはザランドみたいだし、こっちに気づく前にとっとと逃げようぜ」

 キリクの意見に従い、俺たちはすぐさま散らばった荷物を回収。
 急いでその場をあとにした。


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