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192 遺骸
しおりを挟む不幸中の幸いなるかな。
チュチュの群れに拉致された際に向かっていたのが、目的地である英知の塔方面。
期せずしてそこそこ距離が稼げた。
が、ギサの海の中心部は甘くない。
どうにかレセプタルから逃れたと思ったら、今度は数十体もの砂人形に囲まれることに。
「ちっ、お次はマサゴネットかよ」
悪態をつきつつ、キリクがひょいと前かがみとなって避けたのは、砂をギュッと固めたこん棒のような武器。
かわすのと同時に襲ってきた相手に蹴りを放つ。
鳩尾あたりを蹴られた砂人形は、その一撃であっさり砕けた。
しかしすぐに新たな砂人形が出現して、落ちていたこん棒を手にする。
この砂人形たちを操っているのがマサゴネット。
マサゴネット。
二頭身の醜悪な面がまえをした子どものような人型モンスター。夜行性。
狡猾な性質にて自身は姿を隠したまま、砂人形たちを操り獲物を狩る。
砂人形自体は脆く、一体一体のチカラはさほどでもない。けれども延々とつきまとい相手を弱らせる戦法が地味にやっかい。
俺は盾をかまえたままで突進。
前方をふさいでいた数体をまとめて吹き飛ばし進路を確保。先にジーンを逃がす。この手の敵と弓矢との相性は最悪。矢がムダになるだけなので、対マサゴネット戦が始まってから、ジーンは荷袋を運ぶ係に徹している。
背後で奮戦中のキリクに声をかけてから俺も駆け出す。
すぐに追いついたキリク。「えーい、うっとうしい!」と文句たらたら。
「せめて本体の居所がわかればいいんだがな……っと」
俺は後方より飛んできたこん棒を盾で叩き落す。
砂を固めただけの原始的なシロモノだが重量がある。当たり所が悪ければ致命傷になりかねないから、油断できない。
逃げながら敵の集団がバラけたところで立ち止まっては反撃。
俺は盾にて、キリクは体術と短双剣の二刀流、ジーンは荷袋をぶん回し、追いついてきた個体を蹴散らす。
ついでに乱れた呼吸を整えてから、追っ手が集まりだしたところで、ふたたび駆け出す。
夜の砂漠にて、おっさん三人組と砂人形たちとの追いかけっこ。
だが持久戦はあきらかにこちらが不利。
マサゴネットは夜行性なので、朝まで逃げきれればこちらの勝ちだが、夜はまだまだ長い。
やはり何とかして本体を見つけるしかないか。
どうにかおびき出す方法を俺が思案していると、先頭を走るジーンが声をあげた。
「向こうに岩山らしきものが見えるぞ」
前方では砂漠から突き出すように大きな影の塊が、いくつも密集していた。
見張らしいのいい砂漠で集団を相手にし続けるのには限界がある。
俺は即座に決断した。
「このままだとジリ貧だ。あそこで朝まで籠城しよう」
一人分ぐらいの幅の岩の割れ目でもあればシメたもの。
常に一対一の状況に持ち込める。
なくても最悪、背後を気にせず戦えるだけでもありがたい。
パーティー「オジキ」は遠くの影山を目指す。
◇
ずっと月が隠れており、薄闇が続いていた。
ザッ、ザツ、ザッ、と背後から迫る砂を蹴る足音。
追っ手の動向に注意しながら、俺たちは目当ての地点へと到達。
影山のよう見えていたのは、天へと向かってそそり立つ岩柱が何本も密集した場所。
最寄りの一本の物陰へと潜り込んだ俺たち。
乱れた呼吸を整えつつ、敵の追撃に備える。
が、いくら待てども砂人形たちはあらわれない。
訝しんだキリクが岩柱の陰からそっと顔を出し様子をうかがう。
「なんだ? 連中、あんなところで立ち止まってぼんやりしていやがる」
俺とジーンも覗いてみると、少し離れたところから、こちらを遠巻きにしている砂人形たちの姿があった。
てっきり遅れている後続と合流してから、襲撃してくるのかもと考えたが、そういった動きもない。
あきらかに様子がおかしい。
少なくとも俺の目には、連中がこの岩柱の一帯へと足を踏み入れるのを、ためらっているように見えた。
◇
奇妙な膠着状態が発生して、しばらく。
強風が吹き、砂塵が盛大に舞った。
それは地上だけでなく空にても同様だったらしく、雲がごっそりと流れ、ひさしぶりに月光が降り注ぐ。
ギサの海が白銀色に輝く。
いつしかマサゴネットが操る砂人形たちの姿が消えていた。
「朝にはまだ時間があるのに諦めたのか? でもどうして……」
俺は怪しむも、「さぁな。でもおかげで助かったぜ」とキリクがどさりと腰を降ろし、地面にあぐらをかいた。
どうにも解せない俺は、なおも警戒を解かずに、岩陰から外の様子を伺う。
ジーンも立ったままなので、同じなのかと思えば、そうではなかった。
銀髪の偉丈夫は見上げたままの姿勢にて、ずっと周囲の岩柱を凝視していたのだ。
視線をそらすことなくジーンがぽつりと漏らしたのは「これは、ここはいったい何なんだ」という戸惑いの言葉。
岩柱は全部で二十四本。表面が白く見えているのは、てっきり月明かりのせいかとおもっていたが、どうやら岩肌そのものが白っぽいらしい。
よくよく見れば、並びが船体を形作る肋骨状の骨組みに似ている。
俺は星渡りの船の残骸なのかと考えた。
そんな感想を口にするとジーンが首をふる。
「確かに似ている。だからわたしも初めはそう考えた。だがちがう。これは、これではまるで……」そこでいったん口をつぐむジーン。ゴクリとツバを呑み込んでから言った。「まるで人体の肋骨のようだ」と。
人体の肋骨は全部で二十四本。
両側に十二本ずつ左右対称にて、規則的に並んで配置されている。
肺や心臓、肝臓などの大切な臓器をおおってくれており、一本一本の強度はさほどでもなく比較的損傷しやすいものの、互いを支えることによって、全体を守る役割を果たす。
冒険者ならばしょっちゅう折ったり、ヒビが入ったりしている骨。
この一帯がそれに該当しているとジーンは主張。彼の淡々とした語り口が、かえって信憑性を増していた。
改めて周囲をしげしげと眺めてみると、確かにそう見えなくもない。
だが、そうすると、かつて海辺のキャンプルの街で対峙した、あの白いゴーレムのロード級よりも大きなアバラ骨を持つような、とてつもない大きさの巨人が存在していたことになる。
ギサの海にてそのようなものが発見されたという話は、聞いたことがない。
ならば新発見となるのだが、ココロがちっとも躍らない。
むしろ底冷えにも似た寒々としたモノを感じて、気持ちがずんと沈む。
自分たちは現在、とんでもない何かの腹の中にいるのかもしれない。
そうと知って、いつしか誰も口を開かなくなっていた。
俺たちはまんじりともせずに朝を迎える。
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