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200 出征
しおりを挟む結婚してから遠出を控えるようになったパーティー「オジキ」は、支部長のダグザからの要請もあり、依頼をこなしつつ、教官として後進の育成に勤めていた。
第二等級冒険者からじかに指導を受けられるとあって、講義は毎回それなりに盛況である。
◇
辺境都市トワイエの冒険者ギルド支部、裏手にある練武場。
その片隅で俺が若手に接近戦のいろはを叩き込んでいると、近づいてくるミリダリア女史の姿が目に入った。
平素と変わらぬ凛として落ち着いた足取り。しかし身にまとっている薄い緊迫感を前にして、俺はすぐに悟った。
ついにその時が来たことを。
即座に指導を切り上げ、ミリダリア女史とともに支部二階の執務室へ向かう。
執務室にはダグザだけでなく、すでにキリクとジーンの姿もあった。
全員がそろったところで、支部長のダグザより告げられたのは、例の案件ついて。
『浮遊島落つ。ホウライ群島東沖合にて、第三大陸出現!』
急報を受けてエイジス王国は、すぐさま王国所有の飛行船グリペン号にて、百名ばかりで構成された先遣隊となる第一陣を派遣。
目的は現地調査にて、第三大陸の地形の把握および門の所在地の確認。
当初から予定されてあった行動。
だが計画は第一歩から躓いたという。
第三大陸内地にある平原へと着陸したグリペン号。先遣隊を降ろすことには成功するも、肝心の報告があがってこない。
半日経ち、一日経ち、二日目が早や暮れようとするが誰も戻らず。一切の連絡がない。
緊急事態と判断した船長はグリペン号を動かし、緊急離脱。
しかしこのまま手ぶらでは戻れぬと、危険を犯して夜間飛行を敢行。第三大陸の概要の把握に努め、どうにか荒地の小高い丘の上にそそり立つ、巨大な門の所在を特定することに成功し帰還する。
「つまり……、第一陣は全滅したということか」
ダグザの話を聞き終えた俺は目を見開く。
先遣隊に選ばれるほどなのだから、隊員たちの実力については言わずもがな。
そんな連中があっさり殺られてしまった。
尋常ならざる敵がいる。
これすなわち、すでに門が開いてしまっているということ。
「ふむ。わたしたちは少々出遅れてしまったらしい。いや、これは向こうが一枚上手だったということか」
独りごちるジーンに、キリクが「どういう意味だ?」とたずねる。
「どうもこうも、橋頭保となる場所を確保するのならば、相応の戦力を投入するのは、戦略的にも利にかなっているということだ」
門の向こう側から出現するのは、一から百八番目の異界の災厄たち。
詳細は不明ながらも、超古代文明を滅亡寸前にまで追い込んだことから、破壊衝動に突き動かされる無軌道な連中を想定していたのだが、さにあらず。
少なくとも侵略の要となる門の重要性を認識している。
だからこそ出し惜しみをしない。
初手にて割かれた両陣営の戦力にかなりの差があったことが、先遣隊が戻らぬ理由。
多勢を送り出すにあたっては、どうしても慎重にならざるをえない。そんなこちらの事情が完全に裏目に出た。
ジーンの見解では、災厄がすでに複数体、門を抜けてこちら側に来ている可能性が高いとのこと。
しかもそれらは物見の尖兵などではなく、切り込み役と拠点の確保を任せられるような猛者。
門をめぐる攻防はまちがいなく壮絶な死闘となる。
重たくなる室内の空気。心なしか気温も少し下がったような気がする。誰とはなしに、ごくりとノドを鳴らした。
暗鬱とした雰囲気を破ったのはキリク。
彼は「キシシ」と笑い、いつものひょうひょうとした調子にて「まぁ、厳しいのは毎度のことだ。それに今回はあくまで前哨戦、いわば前座だろ? 気張るのは本番に挑む連中に任せて、オレたちはオレたちに出来ることをしようぜ」
なんだかんだでやることはかわらない。
冒険者は冒険者として足掻いて、汗とドロと血にまみれて依頼を達成するのみ。
改めて言われるとその通りにて、俺は気づかぬうちに握りしめていた拳をとき、肩のチカラを抜く。
どうやら「先触れ」だの「起点」だの「標(しるべ)」だなんぞという役目を押しつけられ、分不相応にこなしていくうちに、勘違いをしていたようだ。
俺たちはただの冒険者。
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
間違っても舞台の上どころか、その隅っこにすら立つような存在じゃない。
英雄譚を彩るような華々しい活躍は、後々に登場するであろうメインキャストたちに任せて、おっさんたちはせいぜい草抜きと露払いに専念するとしよう。
第二陣となる本隊は、各国から選抜された精兵六千。これにギルド本部からの招集に応じた第一等級と第二等級の冒険者らが加わる。
グリペン号と新造された大型飛行船八機に分乗し、第三大陸へ向けて出征。
途上にて俺たちを拾ってくれるとのこと。
予定時刻は明朝夜明け前。
「しっかりと準備を整え、カラダを休めておけ。それから絶対に生きて帰れよ。身重の女房たちを悲しませたら承知しねえからな」
差し出されたダグザの手を、俺ことフィレオ、キリク、ジーンの順に握り返す。
別れの挨拶を済ませ、執務室をあとにする。
去り際に「あとのことは任せておいてください」とミリダリア女史が請け負ってくれたことが、何よりの餞別となった。
◇
俺とアトラ、キリクとルクティ、ジーンとマリル。
三組の夫婦は、いつもと同じようにホームにてそろって夕食の卓を囲み、いつものように歓談し、いつものように風呂に入ってから就寝。
翌早朝、いつものように優しい抱擁と口づけ、「いってくる」「いってらっしゃい」との言葉を交わし、俺たち三人は家を出た。
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