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201 開戦
しおりを挟む山があり森があり、湖や河があり、草原があり荒野がある第三大陸。
表面上はとても豊かな大地のように見える。
しかし飛行船にて乗り合わせた獣人(ケモノビト)や昆虫人(ムシビト)の戦士らは、上空から第三大陸をひと目見るなり、こんな感想を口にした。
「気持ち悪い。いやな場所だ」と。
彼らは人間種よりも一部の感覚が鋭敏ゆえに、この場所の異常性にいち早く気がついたのだろう。
かく言う俺たちは似たような場所を見知っていたので、違和感の正体にすぐに思い当たった。
ここの雰囲気は、あの浮遊島にとてもよく似ている。
調和のとれた美しい自然環境。
けれども、いかに草木が生い茂げろうとも、生命の息吹が一切感じられない。器だけにて中身が空っぽ。精巧な舞台装置のようで、どこか造り物めいている。眺めているだけで寒々としてくる。魂なき地。
道や遺跡らしきものは皆無。
かつてこの地で翼を持つ者たちが繁栄を極めたとは、にわかに信じられないほどに痕跡がない。
唯一の残滓は、見晴らしのいい荒地中央、小高い丘の上にそびえる異界へと通じる巨大な門のみ。
門柱は太い植物の蔓がいくつも絡まったかのような形状をしており、門扉は歪な格子にてトゲがあり、どことなくイバラの繁みを連想させる。
小高い丘を囲むようにして門を守るのは、四体の災厄たち。
北方面にてふらついているのは、第一の災厄・女型の巨人。
妙に男の劣情を刺激する生々しい造形。いささか下品な言い方をすれば、おもわずむしゃぶりつきたくなるようなカラダ。
ただし、首から下に限る。なにせ首から上は独立し、長い髪を振り乱しながらカラダの周囲を飛んでいたのだから。しかも青紫色に変色した顔に目鼻はなく、黒い歯がのぞく不気味な口があるばかり。
南方面にて蠢いていたのは、第二の災厄・大きな赤子らしきモノ。
やたらと頭が大きい。重度のヤケドのごとく全身の肌が赤くただれており、動くたびに表面の水疱が破れては、ドロリとした黄土色の体液を垂れ流している。
痛ましい姿にて、ときおり「オギャア」と声をあげるが、金属と金属をこすり合わせたような音にて、とても不快であった。
東方面には、第三の災厄・肉の壁にしか見えない怪。
むき出しの筋肉に幾筋も太い血管が浮き上がっている。
微動だにすることなく、ただじっとしたまま脈打つばかり。
西方面では、第四の災厄・大きな片輪が徘徊していた。
黒い車輪が回るたびに「ギィギィ」と軋んだ音がする。
車軸を通す箇所には、切れ長の瞳がひとつ。やたらとまつ毛が長い。車輪の表面には凶悪そうな突起が多数あって、あれで獲物を挽き肉のようにぐちゃぐちゃにしてしまうのだろう。
対するこちらは、部隊を分けて四方からの包囲殲滅戦を仕掛ける。
けれどもこれはあくまで「門を閉じる」という目標を達成するための布陣。
あえて戦力分散の危険を冒すのは、敵の注意を引きつけるため。
交戦しつつ四体の災厄たちを、なるべく丘より引き離したところで、上空よりグリペン号にて強襲。俺たち冒険者が門を制圧。閉門作業を行う手筈となっている。
◇
指揮官の号令一下、進軍を開始。
すぐに各方面にて戦闘が始まる。
次々と寄せられる戦況報告は予断を許さないものの、グリペン号内にて自分たちの出番が来るのをじっと待つ。
さすがは一流どころの名立たる冒険者ぞろい。誰れひとり浮足立つこともなく、じつに落ち着いたもの。けれどもどことなく控室内の空気がピンと張り詰めている。みな己の内にて戦いの気運を静かに高めているのだろう。
会報誌の一面を何度も飾るようなスゴイ連中に混じっているパーティー「オジキ」の面々。
キリクが背負っている落下傘の位置を微調整しながら、「けっきょくまた落っこちることになるのか」とボヤく。
俺も自分の装備を確認しつつ「何げにちょいちょい落ちてるよなぁ」と指折り数えてみる。脳裏によみがえるのは、空にまつわるロクでもない思い出ばかり。
すると「この分では今回も怪しいものだ」とジーンが不吉な予言をしたので、俺とキリクは口をへの字にして顔をしかめた。
直後に船内放送が流れる。
「友軍の奮闘により道は開かれた。本船はこれより門へと向かう」
戦場よりずっと後方上空に待機していたグリペン号が動き出す。
搭載されてある大型機具動力が唸りをあげて回転。
グンと加速し、すべての景色を置き去りにして、船が大空を疾走する。
鏡面仕様にて槍の穂先のような形をした飛行船が、東方面より一路、丘の上にある門を目指す。
耳がツンとする。ビリビリと船体が小刻みに震え始めたのは、船がほぼ最高速へと達した証。
この調子ならばすぐに門へと到達できる。
そう思った矢先のこと。
ふいにグリペン号が激しく上下に揺れた。
船内の照明が橙色の常夜灯へと切り替わる。
「本船被弾! 地上東方面の敵より攻撃を受けた模様。推進機具の出力低下」
緊迫した様子の船内放送に混じって、「なんだアレは?」と誰かが叫ぶ。
窓の外を見れば、グリペン号の右舷プロペラ付近にて蠢いている肉片の姿があった。
おそらくは門の東を守っていた、肉の壁にしかみえない第三の災厄から打ち出されたモノ。
張りついた肉片が周囲をみるみる浸蝕しながら肥大化。
これにより船体が大きく右へと傾く。
混乱する船内。このままではマズイ、落ちる……。
誰もがそう考えたとき、船内に堂々とした男の声が響いた。
「あわてるな。なんとしても船はもたせる。だから冒険者諸君は降下の準備を始めよ」
船長であった。
エイジス王国のヴァルトシュタイン王より、世界最速の飛行船を預かる空の男。
誰よりも空を知る男が約束したからには、きっと果たされる。
それを信じて俺たちは斜めとなった船内廊下を進み、甲板を目指す。
◇
グリペン号は約束通りに門の上空付近へと到達。
甲板より飛び出し、降下していく冒険者たち。
次々と落下傘が開き、綿毛のように舞いゆれ落ちていく。
俺、キリク、ジーンもこれに続く。はぐれないようにひと塊となって宙へと身を躍らせた。
落下傘を開く前に、俺は一度だけ遠ざかるグリペン号へと視線を送る。
すっかり肥大化した肉片に半ばまで呑み込まれつつある船体が、傾いだままにて右へとゆっくり旋回を開始。
舳先を向けたのは、東の地にて友軍を苦しめているであろう第三の災厄、肉の壁のところ。
船長が最期に何を狙っているのかなんて一目瞭然であった。
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