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その十二 文
しおりを挟む岩竜の件以降、町奉行所からの仕事が増えた。
なぜだか火付け盗賊改めの方からも、ときおり依頼が舞い込むようになる。
おかげでわたしはけっこう忙しい。
多い日には十人以上も刎ねることがある。
労力はさほどでもないが、なんというか流れ作業のようにて、どうにも情緒がない。
同じ斬るにしたとて、最期ぐらいはゆっくりゆったり逝かせてやりたいし、送ってやりたいというのに。
にしても、ふしぎなのが雨後の竹の子のように尽きぬ罪人どもよ。
刎ねても刎ねてもなくなりやしない。そんなところもまた竹によく似ている。
けれども竹林が荒れるのは、持ち主がきちんと世話をしていないから。
となれば、やはり幕府の不行き届きのせいなのだろうが、肝心のこれを取り締まれる者がいないから、いかんともしがたく。
いちおうは京の都に帝がいるはずなのだけれども、やんごとなき身分の御方は、いったい何をしているのやら。
◇
首を斬れば、刀の研ぎ代として二分(一両の半分)の手当てがでる。
独り身としては数人斬れば楽に暮らせる。ましてやわたしは、家と刑場を往復するばかりにて、楽しみといえばときおり自分へのご褒美として甘味をつつくことぐらい。出費は最低限だから、無駄にたまる一方である。
たまるといえば、扱いに困っているのが届けられる文の山。
相手はわからない。
たいていが差出人不明だ。
つらつらと熱い想いがつづられてある。
誰への?
わたしの男姓姿、山部三成宛てである。
岩竜との首切り対決を、瓦版屋が面白おかしく書きおおいに喧伝した結果、わたしはナゾの絶世の美剣士という、首をかしげる存在に祭りあげられた。
ふだんならば「けしからん」と怒りそうなお上の堅物どもも、「よくやった! 武士の鑑」と浮かれており、止めるどころか逆に煽る始末。
迷惑このうえなし。
おかげでわたしは騒ぎがおさまるまで、うっかり男の格好で街中を歩けなくなってしまった。
特異な環境に育ったがゆえに、わたしは仕事関係以外で他者から文というものをもらったことがない。
だからはじめのうちこそは、その都度丁寧に中身を検めていたのだが、じきに封も切らなくなった。
げにおそろしきは女の情念。
いや、文の中には明らかに男の筆もあったから、人の情念と言うべきか。
想いを歌にのせて、あるいは花を添えてなんぞはかわいらしいもの。
これは素直に好感が持てる。伝えたいことがちらりと見え隠れしているところが、なにやら品がある。
一方的な想いを延々と書きつらねているのも、まだ序の口。
ひどいのだと巻物で届いたりもする。まぁ、うっとうしいが熱意と努力は認めよう。受け入れる気はさらさらないが……。
面倒なのが、手紙といっしょに品物を送りつけてくる輩。
食べ物なんぞは、何が中に入っているのかわかったものではないので、とても口をつけられない。
なまじ高価な書画骨董、茶器、調度品などは扱いに困るし、場所もとる。
もっと困るのは、明らかに使用感のある腰布や、内側に紅の跡が残る頭巾に襟巻なんぞ。へんな染みのあるふんどしやサラシ、ほのかに薫る足袋なんてのもあった。
いったいこれをわたしにどうしろと?
どうにも理解に苦しみ、頭を抱えるばかり。
もっともっと困るのは、切断した小指。
遊女が意中の相手に、想いを込めて愛の契りとして渡す風習があるのを、真似たものだろうが、悪趣味極まりない。
まぁ、実際に自分の指を落とす者は稀にて、たいていが死体からとったものか、模造品にて代用しているそうだが、どのみち気色悪いのは同じこと。
こんなものを送られてのぼせあがる男がいるということが、理解できない。
むしろ百年の恋も冷めそうなものなのに……。
世の中、奇妙奇天烈なことがまかり通っているものである。
ようやく世間の騒ぎがひと段落し、みんなの興味が関八州を暴れまわり、ついには江戸にも出没しはじめたという女凶賊のことへと移る頃。
わたしは牢屋奉行の山脇正行(やまわきまさつら)さまから、刀の目利きを頼まれたので出向いたのを幸いに、処理に困っている荷物について相談することにした。
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