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035 ビブリオ詭弁論大会 後編
しおりを挟む「ふぅ」
ひと息ついたカエちゃんは、ここであえていったん言葉を止めては、沈黙の間を作りました。
本の続きが気になっているみんなは、そんなカエちゃんにちょっとイライラ。
だがそれこそが狙いにて。
カエちゃんは限られた大切な持ち時間をあえて削り、高等テクニック『焦らしプレイ』をぶち込んできました。詭弁論部員が一時的にしろ口を閉じ、詭弁を封じる。
なんと大胆な!
これには対戦相手も驚愕で目を見張っていました。
そしてまんまと引っかかったクダンちゃんたちも、探検隊がどうなったのかが気になってしょうがないもので、そわそわ。
客席のその様子に手応えを感じたのでしょう。カエちゃんは不敵な笑みを浮かべては「では続きを語りましょう」
そう言って悠然と語りを再開しました。
〇
大瀑布へと飛び込んだヤナグチヒロユキ探検隊一行。
気づけば、川原の浅瀬にてそろって寝転がっていた。
「ここはいったい……うっ、まぶしい」
起き上がったヤナグチヒロユキが、ふと空を見上げればそこには燦然と輝く太陽のような何かがあった。
「バカな!? 我々はたしかに地中深くへと落ちて行ったはずなのに」
そう。
ここは大量の地下水がさらに深くへと注がれた先、地の底の底のはず。
なのに地上と見紛うような空間が広がっている。
これには幾多の冒険を繰り広げてきたヤナグチヒロユキも目を見張るばかり。遅れて目を覚ました隊員らも、驚愕と動揺を隠せず。
さなかにヤナグチヒロユキがつぶやいた。
「……地球空洞説は真実であったのか」と。
地球空洞説。
それは我々の住むこの星は、中身の詰まった球体ではなくて、ゴムボールのように中空であったり、別世界へ繋がっているという考え方のこと。古くから概念として存在しており「アガルタ世界」やこれを題材にした小説「地底旅行」などが有名である。
が、それも大航海時代の到来と科学の発展により、次第に根拠を失い衰退していき、ついには疑似科学の産物との烙印を押されてしまった。
地下にもうひとつの世界があるという話は、世界各地にある神話にて紡がれていた。
ギリシア神話では地下には冥界があるとされている。
キリスト教やユダヤ教では地獄とされており、アメリカの原住民族の間では「自分たちの祖先は地下からやってきた」という言い伝えが残っている。
これらを「しょせんは妄想の産物、おとぎ話だろう」と切って捨てるのは簡単だ。
だが本当にそうなのであろうか?
いまとはちがい、隣の村と連絡をとるのにもひと苦労するような時代にあって、同時多発的に似たような思想、考えが発生している。
えっ、たまたまだろうって?
かもしれない。
だがそうではないのかもしれない。
そして共通して言及し、示唆しているのが「地下に潜む何者か」「地下世界」の存在だ。
これはあくまで例えばだが……
もしも文明が何度も誕生と破壊をくり返しているとしたらどうであろうか。
己が身に危険が迫った時。
地下に安全を求めることは、さしておかしな行動ではない。
シェルターがそのいい例であろう。滅亡の危機を前にして、生き延びるために避難する場所を確保するのは当然の経緯にて。
避難する者の数が増えれば、確保される空間もまた広大になる。それこそ都市が丸ごとおさまる、あるいは島ほどもある大空間に。
ヤナグチヒロユキより説明を受けた隊員らは、いちようにうなずき「さすがは隊長」と、ほとほと感心するばかり。
ですがのんびりと話していられたのは、そこまで。
ザザザ、と砂利を踏みしめる足音がしたとおもったら、あっという間に一行は武装した集団に取り囲まれてしまった。
さりとて島にいた原始的な首狩り族のような者たちとはちがい、まるで軍服のような身形をした者たちにて、動きも統制がとれており、包囲は完璧。アリの這い出る隙間もない。
さしものヤナグチヒロユキも「これはかなわん」と両手をあげては、降参の意を示した。
隊長から「ここはいったんおとなしくして、様子をみよう」と言われて隊員らも、それに倣った。
かくして謎の集団に囚われた探検隊は、すべてが黒く塗られた地下都市へと連行されていき、そこで大長老と呼ばれる者と会い、これまでの常識を覆し、天地が引っくり返るかのような驚愕の真実を知ることに……
〇
「おっと、いけない、いけない。これ以上はネタばれになってしまう」
肝心なところで、カエちゃんは語るのを止めてしまったもので、客席からは「「「えぇー、そんなせっしょうなぁ~」」」と落胆の声が多々。
でもしょうがありません。
だって、これはビブリオ詭弁論大会なのですもの。
どれだけ持ち込んだ本の興味を集めるか、読んでみたいと思わせるのかが、争点なのですから。
とはいえここでお預けは、いささか酷すぎる。
そんな客席へと向けて、カエちゃんは最後にこう言って話をまとめました。
「なおヤマグチヒロユキ氏および探検隊の一行は、誰も帰還しておりません。
ある日のことでした。クッキーの缶が浜辺に打ち上げられていたのです。中には一冊の手帳が入っていました。
それを拾ったのが、出版者の人間だったのはきっと天命だったのでしょう。
綴られた手記に目を通し、こうして探検家の最後の冒険の記録が後世に残されたのですから」
う~ん、ウソくさいですね。
さすがは詭弁論部が主催の大会なだけはある。
クダンちゃんたちは友だちの奮闘ぶりに「ブラボー」「ナイス詭弁」「よっ、言葉の魔術師」などと賛辞を送り、パチパチと手を叩きました。
なお試合の結果はカエちゃんの勝ちです。
初出場での一回戦突破は、十年ぶりの快挙だそう。
ですが二回戦で前回のチャンピオンに当たってしまい……ざんねん。
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