それいけ!クダンちゃん

月芝

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036 アンニュイな午後とブルーハワイ

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 午後の国語の授業中。
 窓の外へと目をやれば、シトシトと雨が降り続いています。
 雨の日にはお気に入りの赤い蛇の目傘が差せるのが楽しみなのですけど、ぼんやり眺めていると、ちょっとアンニュイとした気持ちになる。
 つい先日、梅雨期間に入ったのとの発表がありました。

 第13ドーム内の天候は、役所の気象課の管轄にて、あらかじめ決められたプログラム通りに推移していきます。
 ゆえに気象課から発表される天気予報は、はずれようがないはずなのですけど。
 たまに想定外のエラーが起きて、予定が狂うのはご愛敬にて。

 ドームは超大な温室みたいなもの。
 本来ならば季節の移ろいなど関係なさそうですが、そこはそれ折々の情緒を重んじるべく、あえて四季を設けているのです。
 でないと、お正月も、節分の豆まきも、お花見も、ひな祭りも、端午の節句も、氷の朔日ついたちも、七夕も、盆踊りも、花火大会も、十七夜のお月見も、豊穣祭も、紅葉狩りも、クリスマスも、雪祭りも楽しめませんから。

 伝統行事と四季は深いかかわりがあり、どちらも欠かせないもの。
 若い人のなかには「そんなの古臭い。ちっとも合理的じゃないよ」なんぞとうそぶく者もいますが、クダンちゃんはわりと好きですよ。
 おそらくはカカさまの影響なのでしょう。
 与謝野郡家では季節ごとのイベントは全力で楽しむ方針なので。
 古い家ですから、必要な道具類一式が揃っており、行儀作法について記された書が手元に残っているのもポイントが高いかと。

 ですが、そんなクダンちゃんも六月だけはちょっと退屈かも。
 なにせコレといった行事がないのですもの。
 いちおう氷の朔日があります。
 朔日は旧暦の六月一日のことで、氷室ひむろを開く日。
 氷室とは、冬の間に雪や氷を保存しておく場所のことで、日本書紀にも登場するほど昔からあったそうです。

 かつて夏場の氷は貴重品でした。
 だって冷凍庫とかありませんでしたので。
 自然の力を利用して、どうにかわずかに残すのが関の山。
 そんな貴重な氷を食べる『氷室の節会』という行事を、宮中では執り行われていたんだとか。

 貴人らが集まっては仲良く削り氷――いまでいうところの、かき氷を食べたそうですけど、あいにくとシロップは甘葛あまづらの煮汁を冷ましたものぐらいしかなかったそうです。
 昔は氷と同じく甘味もまた貴重品にて。
 甘葛はいにしえの人たち垂涎の甘味だったそうで、宮中の御殿にのぼれる身分の方でも年に数えるほどした食べれなかったんだとか。
 ツタの樹液を煮詰めると作れるらしいのですが、いったいどんな味がするのやら。
 ちなみにクダンちゃんの好きなかき氷の味は、ブルーハワイです。

 あぁ、憧れのハワイ。

 もはや伝説の存在にて、地上から失われてしまった楽園。
 いまや本当にあったのかすらも怪しくて、アトランティス大陸とかムー大陸ばりに都市伝説化しておりますが、クダンちゃんは「きっとあったのにちがいない」と確信しています。
 その証拠がブルーハワイなのです。

 えっ、根拠が弱くない?

 そんなことはありません。クダンちゃんがあると言えばあるのです。
 だってクダンちゃんの勘がそう囁いているんですもの。

 憧れのハワイを感じられる……ような気が底はかとなくする素敵シロップ。
 色はキラキラ、常夏の青い海を彷彿とさせます。
 けれどもお味は……ちょっと表現がむずかしい。

 なにせイチゴやレモンやメロンみたいに「コレ!」という定義がありませんから。
 あるお店ではラムネ味だったり、さるメーカーから販売されているシロップはサイダー味にて、とある行列店ではフルーツ味だったりしますもの。なかにはガラナミックスなんて品もあるんだとか。

「ガラナって何ぞやもし?」

 にてもう何が何やら。
 なんぞとか考えていたら「それじゃあ、次は……与謝野郡、続きを読むように」
 いきなりヨーコ先生から当てられたもので、クダンちゃんはあせあせ。


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