37 / 71
036 アンニュイな午後とブルーハワイ
しおりを挟む午後の国語の授業中。
窓の外へと目をやれば、シトシトと雨が降り続いています。
雨の日にはお気に入りの赤い蛇の目傘が差せるのが楽しみなのですけど、ぼんやり眺めていると、ちょっとアンニュイとした気持ちになる。
つい先日、梅雨期間に入ったのとの発表がありました。
第13ドーム内の天候は、役所の気象課の管轄にて、あらかじめ決められたプログラム通りに推移していきます。
ゆえに気象課から発表される天気予報は、はずれようがないはずなのですけど。
たまに想定外のエラーが起きて、予定が狂うのはご愛敬にて。
ドームは超大な温室みたいなもの。
本来ならば季節の移ろいなど関係なさそうですが、そこはそれ折々の情緒を重んじるべく、あえて四季を設けているのです。
でないと、お正月も、節分の豆まきも、お花見も、ひな祭りも、端午の節句も、氷の朔日も、七夕も、盆踊りも、花火大会も、十七夜のお月見も、豊穣祭も、紅葉狩りも、クリスマスも、雪祭りも楽しめませんから。
伝統行事と四季は深いかかわりがあり、どちらも欠かせないもの。
若い人のなかには「そんなの古臭い。ちっとも合理的じゃないよ」なんぞとうそぶく者もいますが、クダンちゃんはわりと好きですよ。
おそらくはカカさまの影響なのでしょう。
与謝野郡家では季節ごとのイベントは全力で楽しむ方針なので。
古い家ですから、必要な道具類一式が揃っており、行儀作法について記された書が手元に残っているのもポイントが高いかと。
ですが、そんなクダンちゃんも六月だけはちょっと退屈かも。
なにせコレといった行事がないのですもの。
いちおう氷の朔日があります。
朔日は旧暦の六月一日のことで、氷室を開く日。
氷室とは、冬の間に雪や氷を保存しておく場所のことで、日本書紀にも登場するほど昔からあったそうです。
かつて夏場の氷は貴重品でした。
だって冷凍庫とかありませんでしたので。
自然の力を利用して、どうにかわずかに残すのが関の山。
そんな貴重な氷を食べる『氷室の節会』という行事を、宮中では執り行われていたんだとか。
貴人らが集まっては仲良く削り氷――いまでいうところの、かき氷を食べたそうですけど、あいにくとシロップは甘葛の煮汁を冷ましたものぐらいしかなかったそうです。
昔は氷と同じく甘味もまた貴重品にて。
甘葛はいにしえの人たち垂涎の甘味だったそうで、宮中の御殿にのぼれる身分の方でも年に数えるほどした食べれなかったんだとか。
ツタの樹液を煮詰めると作れるらしいのですが、いったいどんな味がするのやら。
ちなみにクダンちゃんの好きなかき氷の味は、ブルーハワイです。
あぁ、憧れのハワイ。
もはや伝説の存在にて、地上から失われてしまった楽園。
いまや本当にあったのかすらも怪しくて、アトランティス大陸とかムー大陸ばりに都市伝説化しておりますが、クダンちゃんは「きっとあったのにちがいない」と確信しています。
その証拠がブルーハワイなのです。
えっ、根拠が弱くない?
そんなことはありません。クダンちゃんがあると言えばあるのです。
だってクダンちゃんの勘がそう囁いているんですもの。
憧れのハワイを感じられる……ような気が底はかとなくする素敵シロップ。
色はキラキラ、常夏の青い海を彷彿とさせます。
けれどもお味は……ちょっと表現がむずかしい。
なにせイチゴやレモンやメロンみたいに「コレ!」という定義がありませんから。
あるお店ではラムネ味だったり、さるメーカーから販売されているシロップはサイダー味にて、とある行列店ではフルーツ味だったりしますもの。なかにはガラナミックスなんて品もあるんだとか。
「ガラナって何ぞやもし?」
にてもう何が何やら。
なんぞとか考えていたら「それじゃあ、次は……与謝野郡、続きを読むように」
いきなりヨーコ先生から当てられたもので、クダンちゃんはあせあせ。
13
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる