それいけ!クダンちゃん

月芝

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047 恋文狂騒曲 ― オトメン

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 チクタク、チクタク……

 時計の針が刻々と進んでいきます。
 ただいま四限目中で、もうすぐお昼休みです。
 自分で「決着は昼休み」と予言しておいてなんですが、近づくほどにドキドキ。
 そしてついに授業の終わりを告げるチャイムが鳴りました。

 いつもならば食堂や購買部を利用する生徒らが、すぐさま教室から駆け出し、お弁当組は仲のいい子たちと集まっては、歓談しながら食事を楽しむのですけれども、その日ばかりはちがいました。
 誰ひとり席を立とうとしません。
 クラスのみんなが、謎の解明、騒動の決末を見届けようとしているのです。

 外部から聞こえてくる昼休みの喧騒をよそに、じっと息を潜めている一年二組。

 チクタク、チクタク、チクタク……

 五分ほど経過しましたが、待ち人はまだ来ません。
 沈黙の中、黒板の上にある掛け時計の音がやたと響き、ちょいと耳障りにて。
 待ちぼうけは辛いです。
 空腹なのと相まって、みんなちょっとイライラしてきました。
 ですが、さなかに「ぐぅ」と誰かのお腹が盛大に鳴ったもので、おもわずプププッ。
 失礼だとおもいつつも、つい笑ってしまいました。
 するとこれがきっかけとなって、教室に垂れ込めかけていた重たい空気が払拭されました。
 そして――

「きたぞ! あのたわわな胸はまちがいない。大谷先輩だ」

 廊下側の席にて、外の様子を見張っていた男子からの報告。その際にけしからんことを口走ったような気もしますが、まぁ、聞こえなかったことにしてあげましょう。
 報告を受けて一同、背筋をピンと正しては、先輩の来訪を待つことしばし。

 ガラリと戸を開いて、大谷先輩が「ちょいとごめんくださいな。与謝野郡さんはいるかしらん」と声をかけてきました。
 ですが教室に顔を出すなり、一年二組の全員から一斉に視線を向けられたもので、ギョッ! おもわず後ずさり「えっ、な、何なの?」

 大谷先輩はみんなの反応に戸惑う。
 ですがこのままだと驚いて逃げ帰ってしまいかねないので、あわててクダンちゃんは席を立ち「はい!」と返事をしました。緊張のあまりちょっと声が上擦ってしまったのはご愛嬌ということで。

 クダンちゃんの顔をみて、落ちつきを取り戻した大谷先輩は「えー、こほん」と軽く咳払いにて、先輩の威厳と胸を見せつけつつ言いました。

「手紙、読んでくれた? 予定に変更はないから、その通りにお願いね」

 その言葉にクダンちゃんは「ふへ!?」
 ちょっとマヌケな声をあげてしまい、ふたりのやり取りを見守っていたクラスメイトたちも目が点となりました。
 どうやらナゾの便箋の差し出し人は大谷先輩であったらしいです。

 あっさり犯人が明らかとなりました。
 とんだ肩透かしです。
 まるで推理小説を読み始めたら、一ページ目で犯人とトリックが明かにされたかのごとき展開に、誰も彼もが「えー、そりゃないよ~」「せめてもうちょっと引っ張って」とでも云わんばかりの表情です。
 そしてクダンちゃんも遅まきながら「あっ、そういえば………」とあることに気が付きました。

 便箋が投入されていた、二組、三組、五組、九組、十一組に共通していること。
 それってじつは園芸部員の一年生がいるクラスばかり。
 誰が手紙を受け取ったのか、個人まで特定していなかったので、すっかり見落としていました。こいつはとんだうっかりさんです。

 とどのつまり、ナゾの便箋は園芸部からの通達だったのです。
 大山鳴動してネズミ一匹。
 とんだ恋のから騒ぎ。
 にしても、なんてまぎらわしい……
 それならそれで、ちゃんと宛名やら差出人を書いてくれたらいいものを。
 クダンちゃんがクラスのみんなを代表して、やんわり抗議すれば大谷先輩は「えっ、またなの? ったくアイツはしょうがないなぁ」と言いました。

 ――ん? 『また』『アイツ』とはどういう意味なのかしらん。

 大谷先輩によれば、今回の便箋を出したのは先輩ではなくて、園芸部の副部長なんだとか。
 副部長はゴツイ強面の男性にて、見た目は柔道部員とかラグビー部員といったほうがしっくりする方なのですが、じつはオトメンなんだとか。

 オトメンとは乙女男子のことです。
 乙女的な趣味を持つ殿方のことで、家事全般が得意だったり、コスメや可愛い物に目がなかったり……けれどもそれだけではありません。
 ここぞという時には頼りになります。
 乙女心と男らしさを兼ね備えた男性こそがオトメン!
 ただ乙女ちっくなだけでは、その称号を得ることはできないのです。

 初耳です。よもや自分が所属している園芸部の副部長が、オトメンだったなんて……しかもうっかり宛名とかを書き忘れるドジっ子属性の持ち主だったとは。
 クダンちゃんもびっくりです。
 かくして恋文狂騒は、幕を閉じました。
 なおくだんのお手紙には、可愛らしい丸文字にて週末に郊外にある植物園に部でお出かけすることが書かれていました。


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