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013 森へ行こう
しおりを挟むコウケイ国は小さな島国である。
国際的な知名度はいまひとつだ。紫イモの産地として名前は知っていても、いざ地図を広げてすぐに「ここ!」と指差せる者は少ない。
大陸の隅っこにある離島、僻地にて平野部は限られるけれども、自然は豊か。
地形も起伏に富んでおり、山あり谷あり森あり湖あり。
小さいながらもギュギュっと生活に必要なもの一式が詰め込まれている。
☆
現在、枝垂はクラスの男子たちに誘われて森へと来ていた。
目的は探検と狩りと採集である。
男の子ってば探検とか冒険が好きだよねえ。
でもって、狩りと採集は小遣い稼ぎだ。
物によっては買い取って貰えるらしい。コウケイ国の子どもたちは商魂たくましく、遊ぶお金は自分で稼ぐのが一般的なんだとさ。
親の脛をかじることしか知らない枝垂には耳が痛い話である。現在進行形で王城のごやっかいになっている、いいご身分だし。
とはいえ本音を言えば参加したくなかった。
だって虚弱体質なんだもの!
七才のケモミミっ子に腕相撲でひとひねりにされ、駆けっこをすればぶっち切られて後塵を拝し、初等部のクラスメイトとのハイタッチにて両肩を脱臼する男、それが柳川枝垂である。星クズの勇者は伊達じゃない。
そんな枝垂にとって異世界の森は魔境そのもの。
大きな口をあーん、間抜けな獲物がホイホイ入ってくるのを待っているようにしか見えない。
……なんだろう。とっても嫌な予感しかしやしない。これはマジで死ぬのではなかろうか。
だがしかし、新参者に拒否権なんぞはない。
それに男には男の付き合いがある。
枝垂はビビりで頼りないけれども、ちゃんと空気が読める男なのである。
ここは北部にある島一番の大きな森で、名前を「ジェホホウダンの森」という。
旺盛な植生で緑が濃い。天に向かいギンギンにそそり立つ木々たちが、ご立派。その幹に張りついては樹液をちゅうちゅうしている虫もデカい。
「えー、あのカナブンみたいなの、ふつうに原付バイクぐらいもあるんですけど。うげっ、向こうには大きなゲジゲジが……。にしても、どこかで聞いたような森の名前だね。なにやら獰猛な伝説の獣とか住んでいそう」
枝垂の心の声がついぽろり。
とたんにピクっと反応したのはオオカミさんの耳である。
シモンがニカっとしたひょうしに白い牙がちらり。獣人たちは歯が命、だから日頃からデンタルケアはけっして怠らない。
「おっ、よくわかったな枝垂。実際のところ、ここは奥まで進んだらマジでヤバいんだぜ」
ジェホホウダンの森は三層構造になっており、外縁部の浅い三層目だけが一般に公開されている。
森の中には関所を設けており警備兵が常駐している。二層目から先への立ち入りには許可が必要となる。事前審査により実力を認められた猛者のみが奥へと進める。
なぜなら森の深いところへと潜るほどに、得る恩恵も大きくなるが、危険度が飛躍的に高まるからである。
いかに腕に覚えがあろうとも、単独行動なんぞは論外。
二層目ですらも最低でも三人、できれば五人以上のパーティを組んでの探索が推奨されている。なお三層目の探索にいたっては、国主導の軍事行動のみだ。
じつはギガラニカ大陸の森は、このような階層構造になっているところが多い。
連合軍を仕切っている五ヶ国のひとつ、ラグール聖皇国にある大陸最大のテニウムドート大森林ともなれば、ジェホホウダンの森が丸ごと五十個はすっぽり収まってしまうほどにも広大にて、その階層は二十一にも及ぶ。
星の勇者いわく「えっ、森林型ダンジョン?」とのことだが、恐ろしいことにこの二十一階層というのは、あくまで現時点で判明している領域のみに限ってのこと。
それ以上はあまりにも危険すぎて、調査がまったく進んでいないのだ。
飛空艇を使って森の奥に直接向かうことは可能なのだが、城の尖塔と見まがうような巨大な木々が鬱蒼と生い茂っている大森林、空の上からでは地表の様子はまるでわからない。
過去には五ヶ国中でもっとも強大な軍事力を保有しているムクラン帝国がラグール聖皇国と調査団を組んで、空から降り立ち探索をしようとしたこともあったのだが、結果は無惨なもの。調査団の壊滅にて終わった。
以降、テニウムドート大森林の奥を目指すのは、頭のイカれた冒険野郎か、自殺志願者のみとなっている。
大森林は世界の果ての大瀑布と同じ、興味本位でちょっかいを出してはいけない場所――
つらつらと仲間たちからもたらされる異世界情報。
耳を傾けるほどに顔色が青ざめていく枝垂であったが、シモンはお構いなし。「それじゃあ行くか」と歩き出した。みんなもリーダーに続く。
しょうがないので枝垂も「どうか何事もありませんように」と祈りつつ、おずおずついていく。
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