星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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077 べこ

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 一同が見守る中、カタカタ震える大きな梅壺がパリンと割れた。
 眩い閃光が生じ散らばる破片、ドロドロと吹き出す白い煙、その奥からのぞりとあらわれたものは!

 ……
 …………
 …………………

「え~と、ウシ?」

 枝垂が折れそうなほどに首を傾げたのは、ウシはウシでもただのウシではなかったからである。
 真紅の寸胴かつぽってりボディに黒い斑点模様、短い四肢、なによりも特徴的なのが首が上下にカクンカクン、振り子のように揺れている――それは会津地方の郷土玩具であり、縁起物でもある赤べこであった。
 赤べこは、木型に和紙を重ねて造られるのが一般的ではあるが、木製の品もあれば近代では樹脂を用いる真空成形や3Dプリンターにて製造された品も製造販売されている。
 ちなみに赤べこの、赤い色は魔除けの意味があり、黒い斑点は痘(とう)をあらわし、疱瘡(ほうそう)の病にかかっても重くならないようにとの願いが込められている。

 大型犬ぐらいのサイズもある赤べこが教室に立つ。

 据わらない首をフラフラさせながら、死んだ魚の目のような黒い瞳にて周囲を睥睨していたかとおもったら、やにわに向かったのはシモンの机のところである。
 何をするのかと見ていると、机の横に吊り下げられてあったシモンの鞄をひっくり返しては、中身を漁りむしゃこらと貪り喰らうは、お弁当やらオヤツにと持ち込んだ果物やお菓子など。ちなみに学校にお菓子の持ち込みは禁じられている。先生にバレたら怒られて没収されちゃう。

「アーッ、俺さまの昼飯がーっ、オヤツがーっ! てんめぇ」

 オオカミの獣人さんは激オコにて、怒りのままに赤べこに飛びかからんとするも、それを周囲のクラスメイトたちがどうにかして取り押さえていたのだけれども。
 そうしている間にも、早やシモンの鞄を漁り終えた赤べこは次のターゲットへと移行する。
 狙われたのはテリアの鞄であった。

「きゃーっ、せっかくのパーティーのごちそうがーっ!」

 イヌのケモ耳娘さんの悲痛な叫び。テリアは学業のかたわらで城のメイド見習いに勤しんでおり、腕相撲で枝垂をひと捻りにした子である。何かと忙しく遊ぶ時間とかあまりなくて大変だけど、お城の仕事を手伝っていると、ときおりお裾分けが貰えたりする役得もある。歓迎の宴のあまった料理を折詰にしてもらった特製弁当もそのひとつ。
 それが無惨にも、たったいま目の前で喰い散らかされてしまった。
 だが、悲劇はこれで終わりではなかった。
 赤べこは次々と鞄を漁り、机をひっくり返し、はてには教室のうしろにある個々のロッカーの中までも入念にガサ入れを敢行し、教室内にあった食べ物という食べ物を根こそぎさらってしまう。

 正体不明の相手ゆえに様子をみていたみんなも、事ここに至っては怒り心頭にて。喰い物の恨みは恐ろしい。特に育ち盛りとなればなおのこと。もう、こうなったら袋叩きにでもせねば、とても気がすまないといったところ。
 子どもたちは先生の制止も聞かずに、各々得意な魔法をいつでも放てるようにと構えつつ、じりじりと包囲の輪を狭めていく。

 だが、それをいち早く察したのか、あるいはすべての食べ物を漁り尽くしたがゆえか。
 もうここには用がないとばかりに、赤べこは首をカクカク。いきなり頭から廊下側の窓へと突進しては、これを突き破り外へと踊り出たとおもったら、そのまま猛ダッシュで何処かへと走り去ってしまった。短い足のくせしてフットワークが軽い。
 一瞬のことにて、みんながハッと我に返ったときには、すでに廊下の彼方に赤べこは消えてしまっていた。
 にしても、気のせいであろうか。
 あの赤べこ、ちょっと大きくなっていたような。まさか……ねえ。

「アレはいったい何なの? とりあえず先生は上に報告してきますから、みんなは教室を片付けて自習をしておくように。それからシモンくんと枝垂くんは放課後、職員室にくるように」
「「っ!」」

 生徒たちに言いつけて、マヌカ先生はひとり教室を出て行った。
 いまだに呆気にとられているアリエノールをよそに、子どもたちは渋々掃除を始めたのだけれども、それが終わろうとしていたところで、ビーッ! ビーッ! ビーッ!
 城内にけたたましく鳴り響いたのは警報である。
 続いてこんな館内放送が流れた。

『ただいま謎の侵入者により、城の食料庫が襲撃を受けている。ただちに衛士たちは現場に急行せよ! 繰り返す――』

 旺盛な食欲を誇る赤べこ、子どもたちの弁当を喰い尽くしただけでは飽き足らず、城の食糧庫に突撃した模様。
 何やら大事(おおごと)になりつつあって、枝垂は冷や汗たらたらだ。
 すると遅ればせながら、落ち着きを取り戻したアリエノールが「ふぅ、昨夜のことといい、コウケイ国というのは、いつもこんな感じなのか」とため息を漏らせば、たまたま一番近くにいたチアが「だいたいこんな感じ」とぼそり。


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