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078 ルーツと三大ホニャララ問題
しおりを挟む伝説の神獣、黄金級の禍獣、天狼オウラン。
……の三本ある尻尾のうちの一本、と輝石。それらを枝垂の「梅蔵」にいっしょに放り込んで一晩寝かせれば、あら不思議?
産まれて飛び出てて、ジャジャジャジャーン。
赤べこ、爆誕!
でも、どうしてウシなの?
う~ん、それはたぶん梅好きで有名な天神さんこと、菅原道真との縁のせいかもしれない。
ウシと菅原道真といえば、こんな逸話が残っている。
☆
道真公はまじめにがんばっていただけなのに、その能力の高さと出世っぷりゆえに、周囲から妬まれ嫉まれ足を引っ張られた。挙句に、ついにはいわれのない罪にて都落ち、遠い大宰府の地に左遷されてしまう。
これがよっぽど悔しかったらしく、堪忍袋の緒がついにブチ切れて、没後は立派な祟り神となった。
でもって生前の鬱憤を晴らすかのように、都に雷をドカンドカンと落としまくっては、そりゃあもう盛大に焼人肉祭りを開催したもので、関係者一同どころか、まったく関係のない民草までビビりまくったものである。
これを鎮めるべく「ごめんなさい」と、都でも加持祈祷やら鎮魂祭やらをいろいろやったし、大宰府へと勅使も派遣された。
その勅使の帰路のことである。
辛い長旅もそろそろおしまい。上方を過ぎ、あと少しで京の都というところで、急に牛車が動かなくなってしまった。
「いけず! あと少しなのに、そんなせっしょうな」
押せども引けども、餌を鼻先にチラつかせようともウシは一歩も動かない。
困ってしまった勅使は、「これはきっと何かあるのにちがいあるまい」とにらんで調べてみたら案の定であった。
なんと、この地は菅原道真の祖先である野見宿弥(のみすくね)ゆかりの地であったのだ!
とどのつまり、祟り神のルーツとなる大切な場所ということ。
遠路はるばる九州は大宰府くんだりにまで詫びに行ってきたくせに、帰りは素通り。
「おいおい、それって、ちょっとちがうんでないかい」
と冥途の一族の方々が、たいそうご立腹?
これはマズイと勅使は、この地でも道真公を祀ることによって、事無きを得たという次第。
その土地を高槻といい、建てたのが上宮天満宮であった。
大宰府についで序列第二位という由緒正しい天神さまだ。規模や見てくれはともかく、歴史と格だけならば都の北野天満宮より上……とは言い切れないのが、ちとややこしい。
なぜなら、大宰府天満宮と北野天満宮、双方がともに「うちこそが一番、一万千二百社ある天満宮の頂点に立つのは自分だ!」と声高に主張してはばからないからである。
双方の主張はこうだ。
大宰府天満宮の主張――
なんといっても、道真公の終の棲家だよね。
死んでから十年ちょっとで建立したよ。
三大天神のひとつだぜ、えっへん!
北野天満宮の主張――
道真公が生まれ育った故郷だもの。活躍したのもこっちだし。
くっ、ちょっと出遅れたけど四十年後ぐらいに建立したよ。その分、規模と豪華さが違うぜ。
三大天神のひとつ? そんなの当たり前じゃん。
ちなみにこの三大ホニャララだけれども、自称しているところが各地に点在しており、計十一ヶ所もあるからいっそうややこしい。
そして双方一歩も引き下がらず、現在に至っても平行線のままにてあやふやのまま。
と、いささか話が横道にそれたが、そういった次第でウシと梅はハンバーガーとポテトのセットのごとく、天神さんで扱われるのが定番となっている。
でも、それがどうして会津の縁起物の赤べこに繋がるのかといえば、それは神のみぞ知るところであろう。
☆
「片付けが済んだら、おとなしく自習をしているように」
と、マヌカ先生に云われたけれども、どうしても気になった枝垂は「ちょっとトイレ」とベタな言い訳で教室を抜け出した。
すると飛梅さんだけでなくアリエノールもついてきた。
で、いざ、食糧庫へと近づいたところで、三人はハタと立ち止まる。
食糧庫付近は争乱の坩堝と化していた。
放送を聞いて駆け付けた守備の衛士たちが取り囲んでいたのは、例の赤べこなのだが、大きさがちとおかしい。
ついさっきまではせいぜい大型犬ぐらいだったのに、いまやゾウぐらいにもなっている。
どうやら食べたら食べた分だけ大きくなるタイプのようだ。
でもって、先陣に立って戦っているジャニスやラジール王子が肩で息をしては苦戦している。
たんにデカくなるだけでなく、手強くもなるらしい。
素材となった元が元なだけに、さもありなん。黄金級の禍獣の尻尾と輝石に星クズの勇者のチカラが混ざった存在となるんだもの。
もしかしたら、かつてない脅威を産み出してしまったのかもしれない。
枝垂は飛梅さんに泣きついた。
「ちょっと山まで行って、すぐにオウランさまを呼んできて!」
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