星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン！

163 風と火の輪舞

　
　船の上で……より正しくは、船の中で風と火の複合魔法を使う。
　そのことに枝垂は一抹の不安を拭えない。
　心配が顔に出ていたのであろう、ジャニスが「船での火災が怖いことはわかっている」と言った。どうやらジャニスには何か考えがあるらしい。

　甲板に開いた穴の縁にて、隊員たちはすみやかに配置につく。
　第二船倉では、飛梅さんとアナゴサーンが戦っている。
　長いカラダのアナゴサーンが渦をまくようにして、ギュルギュル回っており、飛梅さんはその中心に取り残されたような格好だ。
　で、そのまま締め上げるのかとおもいきや、さにあらず。

　アナゴサーンは身をよじり背ビレを内側へと向けた。ヒレは横にのびた陣幕のようになっている。支える棒が骨の突起で、背ビレのひらひらは幕に該当するが、これがシャーッと高速で動くことにより、触れればたちまちズバッと身を切る刃と化す。
　そんなものが輪となり襲い来る。
　輪は大きくなったり小さくなったりを繰り返しつつ、ときには高いところから低いところへ、低いところから高いところへと軌道を変える。
　ばかりか、ときには波打ち、囚われた飛梅さんをおおいに惑わせる。

　猛攻、尖刃渦！

　さすがの飛梅さんでも、こうも間断なく攻められては完璧にはかわしきれない。
　いまのところは専用装備のおかげでしのいでいるが、もしも守りのおよばぬ部位に攻撃を喰らったら、たちまち手足が刎ね飛ばされることであろう。

　ぐずぐずしていたら、それこそ首が危うい。
　だからジャニスは枝垂に「飛梅さんに合図をしたら真上に飛んぶよう伝えてくれ」と指示をだし、自身も風魔法を行使すべく配置についた。

　　☆

　尖刃渦が開く間隔を見計らい。

　３……２……１……

　サッとジャニスが手を振り、枝垂が大声で叫ぶ。

「いまだ飛梅さん、上へ！」

　刹那、飛梅さんが船板を踏みしめては、大きく飛び上がった。
　跳躍、からさらに宙を蹴っての跳躍。
　タッ、タッ、タッ、タッと、まるで見えない階段を一段飛ばしにて駆け上るかのように宙を駆ける。
　飛梅さんが尖刃渦より抜け出し、その身がひたすら直上を目指す。
　ついには甲板の大穴から船倉を抜けたところで、サッと脇へと転がった。
　直後に飛梅さんを追ってきたアナゴサーンも穴から飛び出してきた。
　しかし暗い船底から明るい甲板に出てきたアナゴサーンを迎えたのは、燦々と降り注ぐ太陽の光である。
　長大な身ゆえに四つある目もまた大きい。
　それがまともに太陽を見たもので、たまらず目が眩む。
　そのせいで脇へと消えていた飛梅さんの動きを追いきれず。自分だけが、勢いよく穴倉から飛び出すことになった。

　昇り竜、もといタンカーから生えた一本の柱のごときアナゴサーン。
　跳躍と自重により、その身がピンとのび切った頃合いを見計らって、「いまだ！」とジャニスが叫ぶ。

　まず四方より猛風が吹いた。
　放たれた風たちが、アナゴサーンの身を囲む。尾っぽの先からその身を包むようにしては寄り集まり重なり、まるでアナゴサーンを芯にして一本の紐を編むかのようにして、尻尾から胴体、やがては頭付近までをすっぽり覆ってしまった。
　轟々と風が唸る。これにより生じたのは竜巻である。
　飛び跳ねたところで、竜巻に囚われたアナゴサーンの身がふわり、甲板を離れタンカー上空へと浮かんだ。

「よし捕らえたぞ。いまだ、火を放てーっ！」

　ジャニスの指示により、第二波の火属性の魔法が放たれる。
　真っ赤な豪炎が竜巻に吸い込まれたとおもったら、たちまち全体が紅蓮に染まった。
　とたんに熱波が吹き荒れ、焔が天を突く。
　なんと凄まじい攻撃か、複合魔法おそるべし。
　さながら火災旋風のごとき光景に、枝垂は絶句する。

　たまらないのは、生きながらに焼かれるハメになったアナゴサーンだ。
　パリパリ皮が乾き焦げ、ジュワジュワと肉が焼ける音がし、食欲をまったくそそらない臭気がプ～ンと漂いはじめたところで……

「グギャアァァァァァァァアァァァァアァァァッ」

　耳をつんざく絶叫が火の粉と共に降ってきた。