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174 ただいま燃焼中
しおりを挟む中央での連合評議会も終わり、アリエノールとラジール王太子との婚姻も正式に決まった。
コウケイ国とムクラン帝国とは婚姻関係にて、三十九ヶ国中最弱国は最強の後ろ盾を得る。
が、体外的な反響は内地と外地にてかなり温度差があった。
なにせアリエノール自身は優れた女性ながらも、王位継承権は第二十八位という末端も末端。どこの派閥にも属しておらず、強力な後ろ盾もない。
中央五ヶ国の姫君が辺境の小国に降嫁する。
このことは前代未聞にて、コウケイ国の民および辺境の国々はこの快挙に沸き立っている。
とはいえだ。
彼女の姫として価値はさほどではない。王族の血が流れている。ただそれだけだ。もっとも、だからこそ今回の婚姻が認められたのであろうけど……
だから辺境の小国らが興奮するのを尻目に、大国を寄り親としている中位の国々は、「うらやましい」と指をくわえつつも「迎えたら迎えたで気苦労が絶えないだろうし、事実上の乗っ取りになりかねない。ご愁傷様」といった程度にて、口ではお祝いを述べているが、一定の距離を保っての様子見というスタンスである。
大国は大国で腹の内が読めない。
帝国との婚姻をずっと切望していたラグール聖皇国は、小国に先を越されてかなりご立腹であったが、それ以外の大国は静観の構えだ。
ザレックス共和国は利がなければ動かないし、クランコスタは魔法狂いで、ドラゴポリスは魔導具狂いにて、はなから辺境の弱小国には興味がない。
いや、ドラゴポリスがコウケイ国にて貴重な海洋生物の素材が手に入ると知れば、押しかけてくるかもしれないので、そこだけは注意が必要であろう。
もっともエレン姫が新型の飛空艇の建造を達成したら、ドラゴポリスは黙っちゃいないだろうが……
と、まぁ、ここまでが表向き。
その裏では枝垂が第二の聖梅樹を開花させたり、鉱人らの暗躍を阻止したりと協力したもので、ムクラン帝国とコウケイ国との結びつきは、他国が想像しているよりもずっと密接だ。
星クズの勇者として枝垂も何かと関わる機会が増えることであろう。
とはいえ、それはあくまで今後のことだ。
だから枝垂は戻ってきた日常を謳歌していたのだけれども――
ドッカ~ン!
枝垂が第一初等部で管理している畑で、土いじりに精を出していたら、もの凄い爆発音がした。
手拭いで額の汗を拭いつつ、王城の方に顔を向けたら、もうもうと白煙があがっている。
天高く立ち昇る煙、その行方を目で追いながら枝垂は「やれやれ、またか」とため息をついた。
☆
ただいまエレン姫は飛空艇の建造に邁進している。
設計図はすでにある。素材もたんとある。だから船体の方は船大工たちに任せて、自分は動力機関部――エンジンの研究開発に勤しんでいる。
あの景気のいい爆発はその副産物だ。
エレン姫いわく。
「エンジンは爆発だ!」
……より正しくは燃焼らしいのだけれども。
白銀級の輝石を複数用い、地球型の機関部のギミックをも組み込んだ次世代型ハイブリッドエンジンは、小型ながらも従来型より圧倒的なパワーを産み出すという。
ただし、それゆえに制御や出力調整が難しい。
理論上は完璧なのだが、それをいざ実物に落とし込むのはまた別の話だ。
試行錯誤、トライ&エラーの繰り返し。
だったら、まずは無理をせず大きいのを作ってから、じょじょに小型化を目指せばいいものを、エレン姫は「ちんたらやってられない」と首を横に振る。
やるならば最高にして最強を目指す。
エレン姫は本気でギガラニカの航空史を塗り替えるつもりのようだ。
ちなみに爆発は、さっきので九回目を数えている。
あと大事な輝石は、闇魔法が施された特殊なケースにてがっちり保護してあるから、どれだけエンジンが爆ぜたとて大丈夫とのことだが、いい加減にしないとディラ王妃がブチ切れて暴発しそうなので、ロバイス王なんかは戦々恐々としている。
「……っと、いけない。こっちもそろそろスタンバイしないとね」
爆発と白煙により、みんなの注意が城の方へと向いている。
そんな隙をアイツが見逃すわけがない。
――紫黒の雷姫が来るっ!
枝垂は農機具を片付けつつ、迎え討つべく戦闘準備に入った。
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