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07 悪い女
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「キャアァーッ!」女神が絶叫をあげた。
それも無理からぬこと、五十回もの転移魔法陣から逃げ切った、最強の獲物を仕留めるために、集団転移という禁忌を犯したというのに、またしても逃げられたのだから。一人を捕まえるために三十九人をも巻き込んだというのに、その肝心の一人だけが逃げて、どうでもいいのを三十九人も捕まえてしまった、本末転倒とはこのことである。
上司の叫び声を聞いて、驚いた侍従の男性が駆けつけると、彼もまた「ぎゃあー」と絶叫をあげた。自分の上司がとんでもないことを仕出かしたのに、気がついたからである。
「ちょっと、アンタ何してんすか! こんなに沢山、呼んじゃって。これはマズイですよ。あー、すでに世界の改変が起こっています。もう揉み消しも出来ないですよ」
「うっさいわね! そんなのはわかってるわよ。チッ、とりあえず連中をさっさと片づけて向こうに放り込む。それで文句ないでしょ」
「……それはそうですけど、大丈夫かなぁ。こんなに一度に送っちゃって、しらふで送れないからスキルや適性を付与するにしたって、限度があります。この人数をお一人で処理しきれるんですか?」
「面倒だから適性は適当で、スキルも一個ずつ与えりゃ十分でしょ。さぁ、人数が多いんだから、ちゃっちゃと片づけるわよ」
スタスタと歩いて行く女神さま、その背を慌てて追いかける侍従。
彼女たちが向かったのは、集団転移にて運ばれてきた三十九人の生徒たちが待つ部屋である。歩きながらコンパクトを取り出し、手早く身だしなみを整える女神さま。ちゃんとした格好をして、澄ましていれば美人さんなのだ。
突然、教室から知らない場所に運ばれて混乱している生徒らに、殊勝な顔を見せる女神さま。
「勇者の皆様、どうか貴方がたのお力で、世界を救ってください」
彼女のこの言葉に戸惑う者が半分、喜色を浮かべる者が半分といったところであった。
侍従の男は上司の側に控えながら、その様子を観察していたのだが、あることに気がつく。肝心の少女の姿がどこにも見当たらないのである。もしやと上司を睨むと、さっと目を逸らされた。
生徒らに適性とスキルが付与されることを説明し、半ば強引に話を持っていく女神さま。年頃の男子なんてバインバインな金髪美人の敵ではない。ちょっと胸を強調して甘い声で囁くだけで、赤面して唯々諾々。女子にしたって、自分よりも圧倒的な美貌を誇る大人の女性を前にしては、すっかり萎縮してしまい、普段の生意気さなんて欠片も発揮されなかった。こうして狡猾な大人の女性に騙されて、その気になって異世界へと旅立った生徒たち。
「不憫な若者たちだ……」思わず呟いた侍従に上司がふんっ、と鼻を鳴らす。
「何いってんのよ。路傍の石ころで終わるはずの脇役人生が、私のおかげで勇者さま聖女さま聖戦士さまともてはやされて、ウハウハになるんだから、むしろ感謝して欲しいぐらいよ」
「でも、かなり危ない世界ですよ。人間と魔族が絶えず争っている世界なんですから。しかも魔族の連中、むちゃくちゃ強いですし。あんなへっぽこスキルの一つや二つ、貰ったからって、とても敵いませんよ」
「そんなの知らないわよ。私はただ神官どもがネチネチと『勇者くれ』って五月蠅いから、仕方なく応じてあげただけ、これはお情けなの、女神さまのありがたい慈悲なのよ、それなのに文句を言われちゃたまらないわ」
女神さまは自分の所業は棚にあげて、完全に開き直った。そして開き直った女はとっても大胆になる。
「それじゃあ、ちょっと出かけてくるから、あとよろしくね」
「えっ! ちょっと、どこに行くんですか? アンタ、まさか……」
侍従が制止するのも聞かずに、女神さまの姿は消えてしまった。
「あんのバカ、直接捕獲に行きやがった。集団無差別転移に、強制捕獲、領域侵犯に管轄無視……、これはもうオレの手に負えない」
真っ青な顔をした侍従が部屋を慌てて出ていく。
彼は上司の上司がいる部屋へと急いだ。
それも無理からぬこと、五十回もの転移魔法陣から逃げ切った、最強の獲物を仕留めるために、集団転移という禁忌を犯したというのに、またしても逃げられたのだから。一人を捕まえるために三十九人をも巻き込んだというのに、その肝心の一人だけが逃げて、どうでもいいのを三十九人も捕まえてしまった、本末転倒とはこのことである。
上司の叫び声を聞いて、驚いた侍従の男性が駆けつけると、彼もまた「ぎゃあー」と絶叫をあげた。自分の上司がとんでもないことを仕出かしたのに、気がついたからである。
「ちょっと、アンタ何してんすか! こんなに沢山、呼んじゃって。これはマズイですよ。あー、すでに世界の改変が起こっています。もう揉み消しも出来ないですよ」
「うっさいわね! そんなのはわかってるわよ。チッ、とりあえず連中をさっさと片づけて向こうに放り込む。それで文句ないでしょ」
「……それはそうですけど、大丈夫かなぁ。こんなに一度に送っちゃって、しらふで送れないからスキルや適性を付与するにしたって、限度があります。この人数をお一人で処理しきれるんですか?」
「面倒だから適性は適当で、スキルも一個ずつ与えりゃ十分でしょ。さぁ、人数が多いんだから、ちゃっちゃと片づけるわよ」
スタスタと歩いて行く女神さま、その背を慌てて追いかける侍従。
彼女たちが向かったのは、集団転移にて運ばれてきた三十九人の生徒たちが待つ部屋である。歩きながらコンパクトを取り出し、手早く身だしなみを整える女神さま。ちゃんとした格好をして、澄ましていれば美人さんなのだ。
突然、教室から知らない場所に運ばれて混乱している生徒らに、殊勝な顔を見せる女神さま。
「勇者の皆様、どうか貴方がたのお力で、世界を救ってください」
彼女のこの言葉に戸惑う者が半分、喜色を浮かべる者が半分といったところであった。
侍従の男は上司の側に控えながら、その様子を観察していたのだが、あることに気がつく。肝心の少女の姿がどこにも見当たらないのである。もしやと上司を睨むと、さっと目を逸らされた。
生徒らに適性とスキルが付与されることを説明し、半ば強引に話を持っていく女神さま。年頃の男子なんてバインバインな金髪美人の敵ではない。ちょっと胸を強調して甘い声で囁くだけで、赤面して唯々諾々。女子にしたって、自分よりも圧倒的な美貌を誇る大人の女性を前にしては、すっかり萎縮してしまい、普段の生意気さなんて欠片も発揮されなかった。こうして狡猾な大人の女性に騙されて、その気になって異世界へと旅立った生徒たち。
「不憫な若者たちだ……」思わず呟いた侍従に上司がふんっ、と鼻を鳴らす。
「何いってんのよ。路傍の石ころで終わるはずの脇役人生が、私のおかげで勇者さま聖女さま聖戦士さまともてはやされて、ウハウハになるんだから、むしろ感謝して欲しいぐらいよ」
「でも、かなり危ない世界ですよ。人間と魔族が絶えず争っている世界なんですから。しかも魔族の連中、むちゃくちゃ強いですし。あんなへっぽこスキルの一つや二つ、貰ったからって、とても敵いませんよ」
「そんなの知らないわよ。私はただ神官どもがネチネチと『勇者くれ』って五月蠅いから、仕方なく応じてあげただけ、これはお情けなの、女神さまのありがたい慈悲なのよ、それなのに文句を言われちゃたまらないわ」
女神さまは自分の所業は棚にあげて、完全に開き直った。そして開き直った女はとっても大胆になる。
「それじゃあ、ちょっと出かけてくるから、あとよろしくね」
「えっ! ちょっと、どこに行くんですか? アンタ、まさか……」
侍従が制止するのも聞かずに、女神さまの姿は消えてしまった。
「あんのバカ、直接捕獲に行きやがった。集団無差別転移に、強制捕獲、領域侵犯に管轄無視……、これはもうオレの手に負えない」
真っ青な顔をした侍従が部屋を慌てて出ていく。
彼は上司の上司がいる部屋へと急いだ。
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