とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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41 ブルタス先生

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 中央塔の最上階に陣取る、私こと沢良宜花蓮のもとを客人が訊ねて参りました。
 長いお髭が足元まで伸びた美髭公なお爺様。以前にリースさんとの話の中で登場した、魔法の大家の偉い学者先生のブルタスさんです。忙しい合間をぬってわざわざ足を運んで下さったようで、申し訳ありませんでした。
 無駄話を好まないお爺ちゃんで、早速、創成魔法にて文房具を出して見せると、怖いぐらいに迫られました、よほど興味を惹いたようです。根掘り葉掘りと質されましたが、自分でもよくわかっていないことを正直に話すと、「ふむ」と考え込んでしまいました。
 こうなると長いらしくて、私とリースさんは先生をほったらかして、横で談笑に耽っておりました。

 しばらくして熟考より戻ってきた先生は、「明日また来る」と言って帰ってしまいました。
 そして翌日になると再び姿を見せました。
 今度は助手を数名連れて、なにやらごちゃごちゃした機械を携えての来訪です。

「ブルタス先生、これは?」
「これは花蓮殿の魔力を測定する機械じゃ」

 大きなアタッシュケースみたいなのを広げると、管がわさわさした嘘くさい機械に早変わりしたそれは、携帯式の魔力測定器だったようです。どうやら昨日の質疑応答の際に「いくら創っても疲れない」と私が口にしたのが原因みたいで、お爺ちゃんによると私は相当の魔力を保有しているに違いないとの話でした。創成魔法以外、まったく使えませんけどね。

「それじゃあ、コレを腕にハメて、あとはじっとしておれ、すぐに結果が出る」

 血圧計の腕輪みたいなのを渡されてので装着しました。
 ピコンピコンと針が激しく振られ、機械が微かに震えています。
 爆発とかしないですよね、コレ?
 しばらくするとチーンという音が鳴って、測定が終了しました。

「ほうほう、これはなかなかの数字じゃな」

 機械を覗き込んでいたブルタス先生が言いました。
 どうやら無茶苦茶というワケではなさそうです。

「数値的には魔族でも中の上といったところじゃ。ただし人間に当てはめたら、十分に規格外の化け物じゃろうがな」
「まぁ、いくら魔力があっても文房具しか出せませんので」
「それも不思議な話なんじゃがなぁ、普通はこれだけ魔力があれば、一通りの魔法が使えるハズなんじゃがのお」小首を傾げるお爺ちゃん、私も一緒になって小首を傾げておきました。
「……それで私の創世魔法については、何かわかったのでしょうか?」
「うむ。とりあえず『わからん』ということがわかったかの」
「えーと、それは結局、何もわからなかったということでしょうか?」
「いや、そうではない。少なくともこの世界に存在する、いかなる魔法にも当てはまらない、ということがわかったという意味じゃ。通常の魔法というものは、無から有を産み出しておるように見えて、発動にちゃんと原理原則が存在しておる。氷の弾を出すには周囲の水気を集める必要があるし、炎もまたしかり。花蓮殿のように材料も何もないのに、ポコポコ物質を造り出すなんぞ、本来ならばありえんのじゃ。これはつまり創成魔法が、この世の理を大きく逸脱していることを現しておる」

 そう言えばゴリマッチョなオジ神様も、この能力はチートだって言ってましたっけ。これがそういうことなのかもしれません。ちなみにいくら使っても大して疲れを感じないのは、創成魔法の消費魔力が、異常なほどに少ないせいではないか、とのブルタス先生の推察です。詳細は今後の検証で詰めて行こうということになりました。どうやら自然の流れにて、私の実験動物化は確定してしまったようです。
 近いうちにまた時間を見つけては訊ねてくると言って、先生たちは帰っていきました。
 なお先生や助手の方々に、お近づきの印にと文房具一式をプレゼントしたら、大層喜ばれました。

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