とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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42 宰相さん

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 このごろ塔の上のお部屋に来客が増えています。
 ガラシャさんを筆頭にして、ブルタス先生にメイドさんたち、商人さんや、あとはたまに料理長が新作料理を持ってきては私に意見を求めて来ます。
 彼にマヨネーズとタルタルソースを教えたら、二時間後には食堂のメニューに追加されていました。魔族領の卵はどうやら安全安心みたいです。なんだか魔法でピカっとかで、悪いモノが消去されてしまうんだとか。魔族の料理人ならば必須の魔法らしいです。全ての食材を調理前にピカっとしているらしく、魔族領ではほとんど食中毒の心配はなさそうですね。
 料理長に触発されたのか、リースさんの料理の品目もどんどんと増えています。おかげで私の食生活は、かなり元いた世界に近づきつつあります。

 そんなある日の午後、見知らぬダンディが訪ねてきました。
 黒のオールバック、金の鎖のついた片眼鏡をかけた、いかにも切れ者といった感じの中年男性。わりとゴツイ系の方が多い魔族の男性にしては、すらりとして、しゅっとなさっています。
 リースさんが、いつにもまして丁重にお出迎えしていることからも、かなりの高い地位の方なのでしょう。

「はじめまして、花蓮さん。私はブラスト、以後お見知りおきを」

 落ち着いた物腰、大人の色気を帯びた声音、話し方もダンディ。バンパイアという種族だそうで、なんと魔族領の宰相さんなんですって! 実質上のナンバー2の登場です。

「乙女の生き血を吸われるのですか?」と不躾なことを、私がつい口にしてしまったら、「私は妻一筋なので……」と言われてしまいました。こちらの吸血鬼は誰彼かまわず牙を立てるような、ハレンチな真似はしないそうです。どうやらバンパイアにとっての吸血行動は、私たちでいうところのキスに相当するみたい。親しい人以外はノーということなのですね。

「本当はもっと早くにお会いしたかったのですが、ここのところ仕事が立て込んでおりまして、ようやく時間がとれましたので、まずはご挨拶をと」
「それは、それはご丁寧に」

 ぺこりと頭を下げる私。この人にも危機察知能力がビビビと反応しています。ガラシャさん同様に、さぞやお強い方なのでしょう。
 そんな宰相さまが、こちらでの滞在に不便はないか、何か入用な物はないか、とやたらと親身です。これも庇護欲のおかげでしょうか?

「ああ、確かに花蓮さんは守ってあげたくなる素敵な女性ですが、それだけではありません。先日は結構な寄付金を頂いたそうで、おかげで長雨で決壊した河川の堤を修繕することが出来たのです。下流域に住む多くの者たちが救われました」
「寄付金……、それってガラシャさんに丸投げしたお金のことですか」
「はい、そのお金ですね。緊急性があったものの、どうしても予算の都合が付かなくて、頭を悩ましていたところだったのです。つきましては政府より感謝状の授与を予定しております。あとこのことを知った地域の方々が感謝を込めて、花蓮さんの功績を称える石碑と銅像を建てたいとの申し出もあり、本日はその許可も頂きたく」

 なんと! 知らないところで救世主扱いです。これは困りました。

「感謝状はともかく、さすがに石碑や銅像はちょっと」
「そこを何とか、署名嘆願が三万を超えているので、行政側としては無碍にするわけにもいかないのです」
「えー」
「ぜひとも、お願いします」

 ただの元女子高生のなりそこないである私と、百戦錬磨の政治経済モンスターである宰相のブラストさんとでは、端から勝負になりません。結局、石碑のみでなんとか抑えてくれるようにとお願いするのが、私に出来る精一杯の抵抗でした。
 石碑ならば文字だけで済むので、恥ずかしくないと思ったからでしたが、その考えが甘々だったことを知ったのは、後日、石碑の完成披露セレモニーに招待された時のことです。
 巨大な一枚岩の表面には、私の勇ましい立ち姿がデカデカと、精緻に彫り込まれてありました。なおこの石碑の元絵はリースさん作です。石碑の隅に彼女の名が刻まれてありました。

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