とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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53 視察

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 本日、私はリースさんと一緒に、魔王城を出て市井の学校にお邪魔しております。
 主に獣人系の子供らが通っている場所です。名目上は視察ということになっていますが、本当は違います。
 ちょっとモフモフとした癒しが欲しいと呟いたところ、リースさんにこちらに案内されました。確かにモフモフではありました。ですが想像していたのと違いました。
 魔族のお子さんたちって、みな発育がいいんですね。低学年の子ですら、私より大きいです。おかげでワシャワシャと戯れるつもりが、逆にみんなから散々に弄ばれてしまいました。
 一緒に遊ぶとかも無理ですね。身体能力が違いすぎる……、しかも子供は大人と違って加減を知りません、油断していると骨がヤバイ。

 ミニカー開発の副産物であるゴムっぽい奴を使って作ったボール、木材を削って作ったフリスビー、創成魔法で出した色鉛筆やノートや折り紙などを、適当に見繕って学校に寄贈したら、責任者の方に凄く感謝されました。子供たちも大喜びです。
 ボールを使ったサッカーやドッジボールの遊びを教えると、もう夢中です。
 おかげで私は命拾いをしました。

 偉い人の相手はリースさんにお任せして、私はひとり静かな校舎内を散策します。
 子供たち? みんな校庭で元気よくボールを追いかけていますよ。
 三階建ての校舎の造りは田舎の小学校といった感じですかね。天井が高いのが魔族領らしいです。こちらは大柄な方が多いですから。教室内には生徒たちの机と椅子が並んでおり、教壇があって黒板もありました。見ているだけで少し懐かしい気分になってきます。異世界にきてから、すでに半年ほど経っていますが、そういえばクラスメイトたちはどうしているでしょうか? すっかり、すっぽり、まるっと忘れておりました。元気ならいいのですが、私としてはどうでも……ゲフンゲフン、いけません、つい本音がポロリと。
 いえいえ、そういえば一人だけ気になる方がいるのです。出来ればあの方だけは早々にこちらに引き込みたいのですが、ちょっと魔王様に相談してみましょうか。魔族領にとっても有益になること間違いなしなので。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていたら、ポツンと寂しそうに一人で外の様子を眺めている金色の毛並みをした女の子がいました。尻尾がフサフサしています、これはキツネ系ですかね。足首に包帯を巻いているところをみると、どうやら怪我のために遊べないようです。放っておくのも気の毒なので声をかけました。
 ほどよく仲良くなったところで、私が鞄から取り出したのは、以前に宰相様より貰った芝居のプラチナチケットを、犬耳青年にあげたお礼に戴いた獣人用の高級ブラシ。なんでも有名な職人の手による逸品らしいのですが、如何せん人間の小娘には使い道がなく、ずっと死蔵していたものです。ですがようやくソレが陽の目をみる機会が訪れました。
 ブラシを使って女の子の髪をすきます。するとみるみるサラサラになって毛艶が増していくではありませんか。これには私だけでなく女の子も吃驚です。ただの金色が眩い黄金色に進化しました。せがまれるままに尻尾にもブラシを通すと、こちらも同様です。
 おかげで蕾が一気に開花してしまいました。私としましてもドサクサに紛れてモフモフをおおいに堪能できて大満足です。だからお礼にこのブラシを差し上げました。すると女の子は大喜び、怪我にさわるので宥めるのに大層苦労しました。

 目的を達した私はリースさんと合流すると、上機嫌にて帰路につきました。


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