223 / 286
223 地の国
しおりを挟むかつて神さまは、自分の六人の娘たちに言いました。
「おまえたち、みんなで協力して、ここに世界を創りなさい」
だから相談をはじめた娘たち。
ですがちっとも話がまとまりません。
ついには各々がおもいおもいに、かってにはじめてしまった創世作業。
好き勝手にパチンパチンと、どこぞより集めてきたお気に入りの色のタイルをはめこんでいく。
タイルはひとつの地域、世界を構成するモノ。
赤のとなりに黄、緑と青にはさまれているのは白、黒ばかりがズラリと集まった箇所もあれば、モザイク画のようにいろんな色がまとまって絵柄をなしている箇所もあったり。
四方八方へと気まぐれにのびては連なるタイル。
そのたびに広がってゆく世界とふえる住民たち。
すべてをつなぎ合わせているので、なんとなく世界っぽくこそはなっていますが、娘たちが自分の好きなモノを好きなように配置したせいで、いろんなモノがごちゃまぜになって存在するように。
神さまを名乗るオジさんから、地の国の創世秘話を教えてもらった水色オオカミのルク。
なんだかスゴイことを聞かされたような気もしますが、まぁ、だからどうしたという気もします。ちょっとぐらいおかしな世界でも、どのみち生きていくしかないのですから。
それにおかしいといえば、水色オオカミだって十分におかしな側に近しい存在ですので。
ルクの考えを聞いた神さま。
「若い人は頭がやわらかくてうらやましいねえ」
それからは奥さんに娘六人の女所帯につき、家に居場所がないだの。ちょっと裸でうろついていただけで娘たちから変態よばわりされるだの。うっかり置いてあったクッキーを食べたら末娘ので、しばらく口をきいてもらえなかっただの。一番風呂に入ろうとしたら怒らたので、一番あとに入ろうとしたらお風呂の栓が抜かれていただの。
なんだか切ないオジさんのくりごとを聞かされるハメになったルク。
そこそこの長い時間、オジさんにつき合っていると、ピクピクと動いたのは竿の先っぽ。
「あっ! 神さま、ひいてるよ」
「おぉ、ようやくかかったか。けっこう時間がかかったな。どれ」
よっこらせと腰をあげたオジさん。
そのままひと息に竿をあげ、これをいっきに引きあげてしまいます。
ざっぱんと海が割れました。
中から姿をあらわしたのは、山が三つも四つもくっついたかのような大きな大きな灰色の魚。
「うわー、大物だよ。神さまってば、じつは釣り名人だったんだねぇ」
ルクが感心して見上げていると、海中から釣りあげられたソレが空中にてピタリととまる。
大きなカラダでもがいているのですが、ふしぎなチカラでおさえられているらしく、どうにもなりません。
「コイツはクジラだよ。魚とはちょっとちがうんだけど、まぁ、似たようなもんだし、どっちでもいいか。この子はちょっとオイタがすぎてね。『自分は海の王さまだ』とか言って、あちこちで暴れていたもんだから。おかげで海の中がメチャクチャさ」
神さまにコイツ呼ばわりされて、ビクリと灰色のクジラがふるえました。
目にはおびえの色がみえます。おそらくはこれまで、そのカラダゆえにだれからもおびやかされることなく過ごしてきたのでしょう。はじめて知る感覚に戸惑っているみたいです。
そんな相手にルクは話しかけます。
「ねえ? 王さまなのに、どうしてみんなをイジメたの」
灰色のクジラはこう答えました。
「オレがいちばんえらいんだから、みんなが従うのはとうぜんだろう。いちばん強いんだからすべてを自由にするのはあたりまえだろう」
この言葉に水色オオカミの子どもは、茜色の円らな瞳にてクジラをまじまじと見つめながら、首をかしげます。
「なんだかボクの知ってる王さまとはぜんぜんちがうんだね。ボクの知ってる王さまは言ってたよ。王は民を餓えさせちゃいけない。王は民を明日へと導かなくちゃいけないって」
かつて旅をともにした黒銀(くろがね)の王のことを思い出し、そう語ったルク。
神さまはウンウンとうなずき、灰色のクジラは「えっ」と目を見開きました。
「王さまって、いちばんえらくて、わがままいって、いばっているだけじゃないのか?」
どうやらクジラはわるい王さまを手本にしてしまったようです。
正しいとおもっていたのが、じつはまちがっていたので、なにげにしょげています。
この様子を見て、神さまはクジラに告げました。
「もし改心して、海の守り手としてキリキリまじめにがんばるのならば、今回だけは大目にみてやろう。どうする?」
てっきりもうダメかとあきらめていたところに、差しのべられた手。
感激した灰色クジラは、もちろん申し出を受け入れました。
ルクと神さまに何度もお礼を言ってから、彼は海の底へとかえっていきました。
これから迷惑をかけたあちこちにおわび行脚です。
「神さま、なんかかっこいいねー」
シッポをぶんぶんふって、ほめる水色オオカミ。
あまりホメられ慣れていないのか、オジさんは「よせやい」とたいそう照れていました。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる