剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝

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003 帰郷

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 死神の鎌の姿をした魔王のつるぎアン。
 第二の天剣(アマノツルギ)として顕現した彼女が斬り裂いた空間の内部。
 薄闇にて何もない場所。
 足下に一本の光の線がぼんやりと浮かんでいる。
 アンによれば、この光に沿って進んでいけば、空間を繋げた先へと出られるという。
 ちなみにうっかり光の線からそれたが最後、次元の狭間に落ちて未来永劫、常闇の牢獄を彷徨うことになる。
 っぽいとのお話である。
 鎌首をかしげられたこちらとしては反応に困るところだが、実際に試したことがないのでわからないと言われれば、「なるほど」と納得せざるをえない。
 で、アンのこの転移。
 欠点というか制約がここにきて新たに発覚する。
 それは距離と時間の問題。
 たどる光の線の長さは、跳躍移動する現実の距離の影響をモロに受ける。
 部屋の端から端みたいな短距離跳躍ならば、扉を開けて出入りするような気軽な感覚ですむけれども、聖都からポポの里みたいな長距離ともなれば、空間内にてもそれなりに歩くハメになる。そしてそれにともない外部でも時間が経過している。
 つまり向かう場所によっては、パッと行ってサッというわけにはいかない。
 もっともそれでもかなり便利なのにはちがいないのだけどね。

 ミヤビとアンに手伝ってもらい、わたしはお土産の詰まった行李を「うんしょ、うんしょ」と押す。こんなことならば車輪でもつけておけばよかった。

  ◇

 光の線をたどって薄闇を抜けた先は、見慣れた実家の自室であった。
 ほんの数か月ほど離れていただけだというのに、懐かしさが胸に込みあげてくる。
 でも、すぐに引っ込んだ。
 だって部屋の半分が荷物で埋まっているんだもの。
 家を出た子がひさしぶりに帰ってみたら、自分の部屋が物置として使われていたの図。
 いや、べつにかまわないんだけどね。
 空き部屋を遊ばせておくのもなんだし。
 けれどもちょっと切ない。ちがう涙がこみあげてきそうだよ。
 そんなわたしとはちがって、部屋の様子に興味深々なのがアン。
 漆黒の鎌が宙をふよふよ。

「……これが母の部屋。愛と青春の甘酸っぱい日々を過ごした場所。ついでに姉生誕の地」

 いや、愛も青春もまだだから。
 甘酸っぱいのなんて、モンゲエの甘酢漬けかゴウサワンの青リンゴぐらいしか、わたしは知らない。
 窓幕を開けたとたんに、室内が明るくなる。
 差し込む陽射しでホコリの存在が際立つけど、粉雪みたいにキラキラしてちょっとキレイ。
 窓を開けて空気を入れ替えつつ、窓辺にワガハイの鉢植えを置く。
 空を見ればすでに太陽がけっこう高い位置にまできている。
 どうやら現在はお昼間近にて、迎賓館を発ってから半日近く過ぎているみたい。
 辺境のきわきわにあるポポの里から聖都までは、片道三十日以上もかかる。その距離をたったこれだけの時間で移動したという事実が、どうにも実感をともなえない。
 あまりにも浮き世離れしている。
 自分の中の感覚と、実際の距離と時間の流れに生じたズレに、わたしは戸惑っている。
 なんとなく気持ちがざわついて落ち着かない。

「これは愛妹のチカラを借りるしかないね。あの子をギューッとすれば、こんなモヤモヤなんて一発で吹き飛ぶはず」

 というわけで、わたしはさっそく妹カノンの部屋へとお邪魔することにした。

  ◇

 ポポの里では子どもが六歳になると、自室がわりに家の敷地内に小屋を与える風習がある。
 だから七歳のカノンもまた小屋持ち。
 白銀の大剣と漆黒の大鎌を引き連れて、わたしはそちらに突撃。
 室内にいることは姉の直感によりピコンとすぐにわかった。
 だからトントン扉を叩いてから、返事も待たずに勢いよくガチャリ。

「ただいま、カノン! チヨコお姉ちゃんですよー」

 予定ではこののち、ヒシと抱き合い感動の姉妹の再会となるはずであった。
 しかしわたしは見てしまった。
 幼なじみのサンタと妹のカノンが向かい合って、顔を近づけているところを。
 その姿はまるで……。

 怒りが頂点へと達すると、人の髪の毛は焔のごとく逆立つという。
 幸いなことにうちは夫婦仲が良好にてまだ見たことがないけれども、他所さまのところでは、母親がたまに父親相手にこの姿を見せるという。
 通称・鬼の形相。
 もしくは憤怒の極み。
 若干十一歳にて、その面をかぶったわたしは叫ぶ。

「てめぇ、うちの妹に何さらしてくれとんじゃーっ!」

 ビクリと驚いてふり返ったサンタ。あわてて何かを言おうとしたが問答無用。
 ひと息にて踏み込んだわたしは、つま先立ちにてくるんと華麗に横回転。
 かーらーのーっ、上段蹴りを幼女性愛痴漢野郎に向けて放つ。
 遠心力の乗った一撃が首の延髄付近に炸裂!
 これをモロに喰らったサンタ。糸の切れた操り人形のように、その場にてグニャリと崩れ落ちた。
 まったく、ちょっと目を離したとたんにこれだ。
 油断も隙もありゃしないぜ。


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