剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝

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050 かくし芸

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 女王ザフィアをはじめとするお歴々の前で「剣の母を信じて」とか、勢いで啖呵を切ってしまったわたしは内心で頭を抱える。
 いや、ない知恵を絞って、どうにか「これだ!」という秘策は考えたよ。
 でも必ず成功するという保証はないもの。
 もしも失敗して誰かが傷つくことになったら……。
 そう考えるとわたしは膝のふるえが止まらない。

  ◇

 会議室へと通じる廊下を封鎖している兵士らの合間をぬって、ひとり前へと出たわたしは、大きく深呼吸をしてから扉の向こうへと声をかける。

「ウルレンちゃん、聞こえる? 獅族(シゾク)の里の館で会った、剣の母であるチヨコです。わたしがここに居る意味、賢いウルレンちゃんならわかっているよね。それを踏まえてのお願いなんだけど、わたしと少しお話しできないかな」

 内部がざわつく気配が扉越しに伝わってきたものの、じきにピタリと止む。
 しばしの沈黙ののちに、「わかった。でも天剣(アマノツルギ)はダメ」との返事。
 わたしは帯革よりすちゃっと白銀のスコップと漆黒の草刈り鎌を抜く。
 宙へと放ったのと同時に、ピカッと強い光が放たれ、輝きの中から姿をあらわしたのは、白銀の大剣となった勇者のつるぎミヤビ、漆黒の大鎌となった魔王のつるぎアン。
 その威容を前にして、周辺から「おぉ」「あれが」「なんと」というどよめきが起こった。
 わたしはミヤビとアンに「そのままで」と待機を命じ、背負い袋をおろすと中から鉢植えだけを取り出す。

「これだけ持ち込んでもいいかな? どうしても必要なものなの」

 わたしの考えた秘策を実施するには必要不可欠なのが、コレ。
 だからもしも断られたら、ポポの里の里長モゾさん直伝の土下座でもって、涙ながらに懇願する覚悟であった。
 が、幸いなことにあっさり許可が下りる。
 なにせ内部には五十人からの武装した大人たちがひしめいている。
 天剣のない小娘なんぞ、いざともなればどうとでもということなのであろう。
 あるいはウルレンちゃんがそれだけわたしを信用してくれているのかも。
 だとしたらチヨコお姉ちゃん、けっこううれしいんだけど。

  ◇

 入室の許可がおり、ひとり扉をくぐったとたんに、左右からのびてきた刃がピタリとわたしの首筋に当てられた。
 室内の空気はよどんでおり、それでいてイヤな緊張感が張り詰めている。
 それを目にした瞬間、わたしにもわかってしまった。
 あー、彼らってば、とっくに今回のたくらみの失敗を悟っているんだ。それでも意地やら誇りやらしがらみやらで、がんじがらめになって動けなくなってしまっている。
 かつてわたしが初めてこの部屋を訪れたとき、女王が座っていた場所。
 そこにディッカ姫が座らされており、すぐ隣には短刀を手にしたウルレンちゃんの姿もあった。
 ギテさんは部屋の壁際にて椅子に座らされている。
 彼女の膝の上には、ぐるぐる巻きに縛られたコツメカワウソの禍獣アイアイもいた。ご丁寧にもさるぐつわにて口までふさがれているから、達者なおしゃべりでよほどザクザク口撃したのにちがいあるまい。
 この配置、誰かがふざけたマネをしたらという算段なのだろう。
 女子供を縛っていない点は評価するけれども、いちいちやり口が姑息だ。
 これもフーグの入れ知恵なのかもしれない。

 わたしは勧められるままに、ディッカ姫の対面へと座らされる。
 とはいえ大きな円卓を挟んでいるから、実質、一番遠い場所。これもまた万一への用心なのだろう。
 わたしは鉢植えを円卓の上にそっと置いてから、奥へと向かって声をかける。

「元気そうね……、って言うのもおかしいか。でも、なんとか間に合ってよかったよ。ディッカちゃんもウルレンちゃんも無事で本当によかった」

 瞳をうるうるさせて、いまにも泣き出しそうなディッカ姫とは対照的に、どこまでも冷めた表情のままのウルレンちゃん。「……で、話しって何?」と素っ気ない。
 どうやら無駄話に興じるつもりはないようだ。
 そこでわたしもさっそく本題に入る。

「剣の母であるこのわたしが地の神トホテの神託を受けて、火の山へと出向いていたことは知っていたはずだよね? きっとウルレンちゃんの育ての親であるフーグから聞かされていたはずだから。
 でもわたしはいまここにいる。
 残念ながらあっちでのたくらみは失敗したよ。フーグは逃亡し、サガンもシルラさんに討たれた」

 そこでわたしはいったん言葉を切った。
 自分たちを扇動し導き、今回の一件をお膳立てした首謀者たちの敗退に、動揺を隠せない室内の面々。
 ざわつく彼らがある程度、事実を呑み込むのを待ってから、わたしは言った。

「その際に判明したことがいくつもあるの。それを知ったうえで、みんなには各々で判断してもらいたい。この先、どうすればいいのかを」

 わたしが鉢植えをコンコンと叩くと、土が盛り上がって、中からにょきにょき姿を見せたのは単子葉植物の禍獣ワガハイ。
 自在に成長を操り、種と花の間を行ったり来たりできる特殊能力を保有する。他にはやたらと難解な言葉を多用しておしゃべりをしたり、グチを聞いたり、ゆらゆら踊ったりもできる。
 が、今回、ワガハイが披露するのは、近頃ますます磨きがかかってきた声マネの宴会芸である。
 ワガハイが声マネを得意としていることを知っているのは、この場ではわたしとディッカ姫とアイアイぐらい。
 アイアイはあんな調子なので問題なし。
 ディッカ姫には目で合図を送り「黙っておくように」と伝えたところで、わたしはしれっとこう言った。

「この子には『聞いた音をそっくりそのまま記録し再生することができるチカラ』があるの」と。

 もちろんウソである。
 ワガハイにそんなチカラはない。
 正しくは「声マネにて耳にした会話なんぞを再現できる」である。
 しかしこれだと、どこまでいっても宴会芸の域を出ず、しかも捏造し放題なので、信憑性は皆無。
 だから、あえてこういうインチキ設定にさせてもらった。
 さぁ、ワガハイよ。
 いまこそムダに磨かれたかくし芸を存分に披露するとき!


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