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055 ルーシータウン
しおりを挟む門をくぐるとゆるやかな坂が続いている。
よく整えられた石畳の通り沿いに並ぶのは、白い壁に赤い三角屋根をした家たち。
建物の角が丸みを帯びているので、どこかほっこりとした印象を見る者に与える。
軒先や窓際の鉢植えには青や黄などの花々が咲いており、街に色どりを添えて、通行人の目を楽しませてくれる。
通りには大勢の住民たちの姿が行き交っており、街は活気に包まれていた。
もっともその住民ってのは、すべてビスクドールたちではあったが……。
ここはルーシータウン。
ルーシーが自分の亜空間内にこしらえた、人形の、人形による、人形のための街。
多元群体化してポコポコ増えまくっている分体たちのための居場所。
だから右を向いても左を見ても、動いているのは人形たちばかり。
ここでは建物も街のサイズも、なにもかもが彼女たちの身長六十センチに準拠。
だから、わたしにするとちょっと手狭にて、街全体がまるで精巧に再現されたミニチュアみたいに見える。
しゃがみこんで窓から家の中をのぞけば、小さなテーブルに小さなソファー、小さな食器棚には、これまた小さな食器がちょこなんと収まっている。
なにもかもが小さく、まさしく職人技のドールハウス。
子ども向けに売りだしたら、ふつうに人気がでそうだ。
あと特に目を惹くのが通りをトテトテ歩く分体たちの服装。
カントリー風の素朴なデザインから、ひらひらのレースがついたドレス、ピシっと決まったタキシードに、ラフなジーンズとシャツの姿までと、実に多彩。
なんでもルーシーによれば、最近、人形たちの間で手縫いの着せ替え衣装の交換が流行しているらしい。なにせ全員、サイズが寸分たがわず同じなので、着回しし放題にて、うやらやましいかぎり。
おかげでみんなおしゃれさん、ファッション全盛というわけだ。
この頃、ちょっとルーシーさんの行動が暴走気味にて、これを危惧して亜空間査察を敢行したんだけれども、街を見る限りでは、ぶっちゃけリスターナの主都の生活水準よりもズズンと上だね。本音を言えば、わたしもこっちで暮らしたい。
「現在、第二タウンも建造中です。それと平行して二つの街をつなぐ高速道路と地下鉄工事も行われており、どちらも二ヶ月後には開通予定となっております」
感心するばかりの無能な査察官のわたしを案内しながらルーシーが教えてくれた。
高速道路ってことは、すでに自動車っぽいものが完成しているのか? あと電車も?
遊園地とかでたまに見かける、小さな子どもをのせて線路を走る汽車ポッポとかゴーカートとか、あんな風になるのかな。
たずねたら、青い目をしたお人形さんに「フッ」と鼻で笑われた。
郊外にある研究所に行けば完成予定の模型が展示されてあるというので、見せてもらうことにする。
こちらは街とはちがい一転して大きな建物であった。
地下五階地上三階にも及ぶ四角い頑強な建造物にて、とても人形サイズではない。
理由はグランディア・ロードたちがちょくちょく出入りをしているから。
学究肌のセミ人間どもは好奇心旺盛。
というか知識欲の怪物。
そんな彼らにとって、二つの世界のアカシックレコードとのアクセス権限を持つルーシーは垂涎の存在。
つねに新しい刺激と課題を与えてくれる彼女のことを、いまではむちゃくちゃ慕っている。
わたしに対する「なんかスゴイ奴だから、とりあえず従っておこう」といった感じではなくて、「一生ついて行きますぜ、アネゴ」といった感じ。
それをいいことに連中をアゴでこき使うルーシー。
森の賢人とまで称えられたノットガルド屈指の超優良種が、いまではヨレヨレの白衣を着て研究所内をウロウロしている。手にしている小ビンは、もしや栄養ドリンクの類か? それにしてもセミに白衣は似合わないな。
ざっくりと研究所内の地上階部分を視察の後に、最上階へと案内される。
そこには大きな透明のケースに入った模型が展示されてあった。
ほら、鉄道博物館とか市役所なんかに展示されてあるジオラマってあるでしょう? わたしとしては、そんな感じの品を勝手に想像していたわけだ。
でも実物はぜんぜんちがった。
そこには未来の都市をびゅんびゅん動く乗り物の姿があったよ。
なんていうか、音声対応の全自動でギューンと目的地に運んでくれるみたいな感じのヤツね。汽車もポッポなんてせずに、やはりギューンとするタイプ。
二つの世界の科学と魔導が融合して、とっくにわたしの知らない世界への扉が全開だった。
査察は完全に手遅れであったようだね。
これはもはや行き着くところまで行っちゃって、崖からダイブするまできっと止められない止まらない。
それはもとの世界での科学の歴史が証明している。
知識や技術とはそういうモノなのだ。
パンドラの箱のフタを開けたが最後、あとはドバドバと垂れ流されるばかり。欲望に需要が絡み合い、つねに功罪という二面性を秘めての綱渡り。
なお研究所地下の方では、ヤバい系の研究がせっせと進行中らしく「どうされますか」とルーシーにたずねられたけど、わたしは黙って首を横にふった。
もう、おなかいっぱい。
世の中には知らないほうがハッピーに過ごせることがままあるもの。
わたしは面倒事からはとことん目を背けて、のんべんだらりと生きていくことを密かに誓った。
目覚ましい発展を遂げる人形の国。
なお、ここでの成果については亜空間の外の世界に適宜フィードバックされるらしいので、ゆくゆくはリスターナ全土に交通網が配備されることになるのだろう。
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