わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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057 富士丸ハンガー

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 亜空間査察も三回目ともなれば、もう慣れた。
 第一弾のルーシー、第二弾のたまさぶろう、その二つで散々に度肝を抜かれ、呆れ、いろいろ疲れた末に思考を放棄した。
 いまのわたしに死角はない。
 ガハハハッ、度重なる修羅場をくぐりぬけてきて身に着けた「無責任スキル」によって、あらゆる難事をぬるぬるっと回避してくれようとも。
 そんな心持ちにてお出かけした富士丸の亜空間だったけど……。

 乾いた赤い大地に砂塵が舞う。
 見渡す限りの荒野がそこにはあった。
 ポツンと建つは白いドーム状の巨大建造物。
 ゴォウンゴォウンと重低音を響かせながら、ドームの中央に線が走り、そこからパカンと二つにわかれ、ゆっくりと開いていく。
 中から姿をあらわしたのは異形の巨人、富士丸くんである。
 あのドームが富士丸専用のハンガーにて、内部ではビスクドールたちが、たまさぶろうのドック同様に揃いの作業服を着て、整備や施設の運用にあたっているんだとか。
 さながらスーパーロボットの秘密基地みたいなものかな。
 地下にも広がっているって話だし。
 で、この荒野である。
 本当に何もない。ただのだだっ広いだけの場所。
 だがそれでいい、それがいいと富士丸がのぞんだらしい。
 それで彼がこんなところで普段は何をして過ごしているのかというと。

 ガシャコン、ガシャコンとランニング。
 そのあとは腕立て伏せにスクワット。腹筋は体の構造上ちょっとむずかしい。
 腰は横にはぐるぐるいくらでも回るのだが、前傾姿勢のくの字にはなれないので。
 存分に筋トレに励んだあとは、シャドーボクシングにて拳をぶんぶん。
 巨体なのにつま先立ちにて軽快なフットワーク。ムチのようにしなる左ジャブに、音の壁をも粉砕する右のストレート。
 続けて空手の型のような動作を入念にくり返す。
 地味ながら、もっとも効果的な前蹴りの動作を延々と病的に繰り返している姿には、戦慄を禁じ得ない。ヤツは確実かつすみやかにターゲットを殺る気のようだ。
 これにてひと通り、ウォーミングアップが終了。
 富士丸が右手をあげると、これを合図に地面からドドンとバベルの塔っぽい極太な鉄の棒が何本も生えてきた。
 それに向かって素早く近づくなり、拳を放ったり、蹴りを見舞ったり、時には目からビームでバッサリしたり。
 いわゆる居合道の巻き藁、もしくはサンドバック。
 攻撃の的にされた極太な鉄の棒たちがペッキリパッキリ小気味よい音を立て、まるでマッチ棒のようにあっさりへし折られていく。
 裏拳で千切れた一部が、ちょっとこっちに飛んできたときは、心底びびった。
 健康スキルがなかったら確実にチビってるね。

 こんな調子でひと通り体を動かした富士丸くん。
 その近くの地面がシャコンと開いて、地下から飛び出したのは一本の棍棒。
 超巨大サイズにて頭の部分や石突きのところに凶悪なイボイボ。
 いや、あのサイズなら、もうそんなオプションなんていらないよね?
 これを手にとるなり、ブンブンと軽快に宙に弧を描く。
 巻き起こる風が竜巻となって、大地を荒れ狂う嵐のごとし。
 その姿はさながら武芸の達人のよう。ショーで披露したら十分に金がとれる練度にて、勇壮にして華麗。
 が、果たして彼に武器が必要なのだろうか?
 素手で星を砕ける男にイボイボ棒とか、いらないでしょう?
 いや、それよりもまず、これだけは言っておきたい。「ブリキのロボットがいくら筋トレをしたって、ムキムキにはならん。夏の浜辺でみんなの視線を独り占めとかムリだから」

「アレですか? なんとなく気分だそうです。あと、やっぱり決戦兵器たる者、武器のひとつもないと格好がつかないからとせがまれたので用意したんですよ。ちなみに中央をひねるとカチリと音がして二つにわかれる仕様なので、双硬鞭として二刀流も可能ですよ」

 おもわずツッコミの声をあげたわたしに、ルーシーさんのこの解説。
 ちなみに硬鞭とは鉄棒状の武器のことである。

「ほんとうはカッコイイ剣が欲しいとか言われたんですけれども、富士丸が振り回すサイズともなると、強度がもたないんですよ。刀身が自重でひん曲がってしまって、すぐにヒビが入っちゃうんです。もっとも光の剣を解析した成果にて、その点はどうにかなりそうなのですけど」

 ははは、もうすぐどうにかなっちゃうんだ……。
 巨大ロボットに巨大剣、想像するとちょっとカッコイイよね。
 そんなことを考えていたら、富士丸が次の訓練へと移行。まだやるのか。
 地面より四角い壁がそそり立つ。
 モノリスみたいなのがあちこちにズラズラと。
 で、何をするのかとおもいきや、ロケットパンチを発射。
 巨大な拳がぎゅるぎゅる回転し轟々うなりながら飛んでいき、的代わりの壁を打ち砕く。
 勢いのままに戻ってきた腕を、もう一方の手で華麗にキャッチして、腰をぐりんと回して、円盤投げの要領にてふたたび投擲。まるで手斧でもぶん投げるかのようにして放ったりもする富士丸くん。
 なるほど、ひとクチにロケットパンチといっても運用方法にいろいろバリエーションがあるのか。
 どっちにしろ当たったほうは、消し飛ぶだけだから同じだけどね。
 ただでさえ強力過ぎて使いどころに悩んでいる子が、いつの間にやら、もっと使い勝手が悪くなっていたよ。
 うっかり召喚したら破壊神降臨だよ。
 どうするよ、これ? 災厄モンスターどもがちょっとヤンチャしただけで、目くじら立てる女神さま。バレたら、ぜったいに怒られる。
 困ったときのルーシーさん。
 なのにお人形さんは言いました。

「決戦兵器とはそういうモノです」と。


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