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074 社会見学の日
しおりを挟むリスターナ王城内のとある一室の壁。
ピッ、ポッ、パッ、とテンキ―にてパスワードを入力。
壁に内蔵された小さなレンズから赤い光線が出て、瞬時に入力者の網膜パターンを確認。
認証が済むなり姿をあらわすのは一枚の扉。
自動で開くその扉の内部は直径二メートルほどの筒状の小部屋になっている。
足を踏み入れるなり照明がともり明るくなる。
乗り込むと扉が勝手に閉まり、そして部屋そのものが動き出す。
下へと音もなく滑るように落ちていくこと、ほんの三十秒ほど。
停止して再び扉が開けば、そこには真っ直ぐに奥へとのびた暗い通路。
筒状の室内より外へと一歩踏み出すなり、足下がゆっくりと動き出す。
その動きに合わせるようにして天井の昼白色の明かりが次々とともり、廊下の全貌があきらかに。
しばし光の回廊を進むと、開けた空間へと到達。
「ここは? それにさっきの落ちる部屋とか動く廊下はいったい?」
「あれはエレベーターっていう上下に動く小部屋。動く廊下は、そのまんまだね。そしてここは駅のホームだよ」
「えき? ホーム?」
「まぁ、ラホースの乗合馬車や飛竜船の待合所みたいなものかな。論より証拠、じきにわかるから」
待つこと一分弱。
轟っと風を鳴らし駅へと到着したのは、まるで銀色のめんたいこを二つくっつけたかのような、二両編成のリニアモーターカーっぽい乗り物。
運転席に座るのはルーシーさんの分体である制服姿のビスクドール。
これはリスターナの王城とわたしことリンネの北の領地を地下で結ぶ直通路線。
なおこの存在は、まだシルト王も知らない。
本日、初お披露目。
リンネ組以外では、外部の者に見せるのも乗せるのも初めて。
そして記念すべき最初のお客さまは、リリアちゃんとマロンちゃん他三名の学園の生徒たち。
さっきから熱心に質問をしていたのはリリアちゃん。
それにお答えしていたのは、このわたし。
「なんでそんなに平然と受け答えしてんのよ!」
「いろいろおかしいでしょ!」
「あんた、城の地下に秘密通路とか、勝手になにしてんの!」
「なんかへんなの走ってきたーっ!」
などというマロンちゃん渾身のツッコミには、にへらと笑みで答えておく。
じつはこの度、学園の授業の一環にて社会見学が行われることになったのだが、こいつが班ごとにて自前で見学先を用意するところからはじまる本格派。
だがたいていのボンボンや嬢ちゃんたちは、親のコネやらスネをかじって、そちらの伝手で見学先を適当に見繕ってお茶を濁す。
おかげで生徒たちの自主性が育まれることを願う先生方の期待とは裏腹に、すっかり形骸化していた学園イベント。
しかし新進気鋭のリリアちゃんは、それを良しとはしなかった。
というか、兄の不始末の尻拭いにて、散々に王である父親の仕事やら宰相さんや将軍さんのお手伝いをしてきた彼女にとって、城内のお仕事見学なんていまさら。
ぶっちゃけ、当分は見るのもイヤ! かといって外部に伝手はない。なんだかんだで箱入り娘なのだ。それに昨今の人気ぶりもあって、うかつに城下に降りようものならば、たちまち大混乱は必至。
そこでお姫さまが目をつけたのが、わたしこと客分の女勇者。
はた目にはフラフラしているようにしか見えないものの、その正体は救国の英雄にて、ピンチのプリンセスを救い出したスーパーヒロイン。
なのにそれは秘密にしているがゆえに、事情を知る一部の者をのぞいて、やはりフラフラしているヘンな女にしか見られてない。
そして当人もそんな周囲の目をまるで気にしない神鋼精神の持ち主にて、いっつもヘラヘラ笑ってる。
この状況にリリアちゃんは一人悶々とし、忸怩たる想いをずっと抱えていた。
なにせ彼女にとっては、リンネはヒーロー。
ピンチに颯爽とあらわれて、立ちふさがる敵を瞬く間に叩き伏せ、その後も親身になって自分を支えてくれる頼れる姉御。
本当はすごいのに、本当はすごくカッコいいのに、本当はすごく頼りになる出来る女だというのに。(※一部過剰にリンネの願望が盛られています。せいぜい話半分以下、四割程度でご理解下さい)
とくに仲良しのマロンちゃんには、自慢のお姉ちゃんの真の姿を知ってもらいたい。
そんな想いが込められている……ような気がしたわたしは、社会見学の打診をリリアちゃんより受けて、ちょいと気合を入れたわけだ。
やっぱりお姉ちゃんとしては、ここは一発、バシッと決めておかないとね。
リニアモーターカーっぽい乗り物にみんなで乗り込む。
そして出発進行!
したとおもったら、ほんの五分ほどで目的地に到着。
なにせとんでもない速度で地下の直線をビューンとだから、速い速い。
完全に車体が止まってから安全を告げるランプが赤から青へ。それを確認してから席を立つ。
外にでるなり、一行を出迎えたのは赤い絨毯とその脇をずらりと固めるハイボ・ロードたちの整列。
つつつと近寄ってきたのは鬼メイドのアルバ。
その手からわたしは一枚の漆黒のマントを受け取ると、これをバサリと広げつつ華麗に羽織る。
「お待ちしておりました。リンネさま」
アルバが恭しく斜め四十五度のお辞儀をするなり、ハイボ・ロードたちがみなそれに倣う。
さながら偉大なる帝王の帰還を出迎えるかのような光景。
リリアちゃんやマロンちゃん、他三名はお口をあんぐり。
ふふふ、決まった。これはもう決まりまくってしまった。掴みは完璧であろう。
マントをカッコウよく羽織るのって、アレでけっこうムズかしいんだよね。へにゃんとなって、なかなかうまくいかない。夜なべして鏡の前で粘ったかいがあったというもの。
だが本番はこれからである。
ガハハハハ、良い子たちよ、真の驚愕を味わうのはコレからだ。
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