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075 地底要塞
しおりを挟むリスターナ北部に位置する険しい山脈。
過酷な環境と魔素の薄さなどから、ながらくデスゾーンとして放置されてあった土地。
自然の防壁となり北方方面からの数多の災厄の侵入を阻み続けてきた。
そのはるか地下深くにて秘密裡に開発されていた地底要塞が、このたびついに完成。
そこでわたしは正式な落成式の前に、リリアちゃんたち社会見学組をひと足先にご招待。
地下ほにゃらららメートルに造られたドーム型の大空間。
三重の城郭の中央にデデンとそびえるのは、無骨な青銅色の四角い巨大建造物の集合体。
すべてがオービタルたちの手により採掘された石材をグランディアたちが魔法で強化。おもちゃのブロックのように加工し、組み上げられた。幾何学的な近代アートっぽいデザインはセレニティたちの好みであろうか。
表面はのっぺりとしており、無駄な装飾の類は一切なし。そのかわりに強度を徹底的にあげた。いちおう計算上では宇宙戦艦「たまさぶろう」の尾っぽの一撃を二回ぐらいならば、なんとか耐えられる設計らしい。
愛想のない外部とは裏腹に内部は未来的にて明るい造り。鉄鉄してメカメカして、とってもSFちっくにて、照明器具もバンバン。
自動ドアやらエレベーターにエスカレータ、動く廊下はもちろん標準装備。
指令室へと向かいがてら、ルーシーに案内させての見学会。
目にするモノすべてが初体験につき、リリアちゃんたち大興奮。
それを横目にいかにも尊大にて、どこぞの大総統みたいに、えらそうにマントを翻し、颯爽と闊歩しているわたしだが、じつは完成した地下要塞に足を踏み入れるのは、これが初めてである。
つまり立場はリリアちゃんたちと、ほぼいっしょ。
フフンと得意げにて平然としている風に見えて、内心ではめちゃくちゃドキドキしている。心の中でずっと「なんじゃこりゃーっ!」と叫びまくっている。
いやー、最初の頃はわりと小まめに顔を出してたんだよ、建築現場に。いちおう総責任者としての立場もあるから。
でも、そのたびにハイボ・ロードたちってばいちいち作業の手をとめて、ていねいにお出迎えとかするものだから、せっかくの仕事のいい流れがぷつぷつ切れちゃう。
これにルーシーさんまでキレてね。「リンネさま、じゃま。どうせ居ても居なくてもいっしょなんだから、完成したら呼ぶから、もう来ないで」
面と向かって「来たところで、どうせ所在なさげにうろうろするだけなんだから」とまで言われてはしようがあるまい。
実際、わたしってば被災地にドカドカと大勢で押しかけては「視察だ」「慰問だ」とかほざいている政治家状態だったし、現地にとってはただの迷惑。その分の金だけを送ってくれたほうがよっぽど助かるというもの。
そんなわけで、ながらく放置していたら、こんなのが出来上がっていましたというわけさ。ははは、いやー、まいったまいった。
案内されるままに要塞施設内を見学。
とある区画にさしかかったところで、ちょいと目についたモノがあったので、わたしは隣にいる青い瞳のお人形さんにたずねた。
「……ところでルーシーさんや。あのでっかいエンピツの群れは何かね?」
「あれですか? あれは大陸弾道ミサイルっぽいロケットペンシルですね。かなりの精度にて誤差十メートル以内にて、有効射程距離は十万キロぐらいですかね」
ちなみにわたしのもとの世界の似た兵器だと、射程はせいぜい一万程度だそうだ。
なお地球の赤道をぐるっと一周しても四万キロ。
なので、このロケットペンシルがいかにいかれた性能なのかは、サルにでもわかるであろう。あと実験や試射は夜空に浮かぶ七つの月相手にバンバンしていたらしい。
ルーシーさん的には「七つもあるんだし、一個ぐらいかまわないだろう。ちょっとぐらい欠けたって、どうせ誰も気づきやしないし」感覚。
うん、実際のところ、まったく気づかなかったよ。
「いろいろとたいへんだったのですよ。飛距離や命中精度はともかく、威力を抑えるのに苦心しました。せいぜい主都一つを吹き飛ばす程度にしないと、どうにも使い勝手がわるすぎるので。なにせ強力すぎると気軽に投入できませんから。とはいえ開発チームは紛糾しましたよ。『わざわざ劣化させてどうする! 我々はつねに最上を目指すべきだ!』って声が大きくて。グランディアたちをなんとかなだめるのに苦労しました」
強力すぎて気軽に運用できないのは、たぶん富士丸くんとたまさぶろうのことだな。
ルーシーの言ってることは間違っちゃいない。
正しいはずなのだが……、一番最初のボタンをかけちがえているような気がするのだけれども。わたしの気のせいかな?
でもまぁ、持ってしまった以上は、正しく管理運用するしかないわけで。
せいぜい使わずにすむように立ち回るとしよう。
おもにわたし自身の平穏のために。
要塞内部には大陸弾道ミサイルっぽいロケットペンシルの他にも、なにやら不穏な気配のする品がゴロゴロしていた。
リリアちゃんに「あれはなんですの、リンネお姉さま」と無邪気な笑顔を向けられるたびに、わたしはマントの奥で冷や汗ダラダラ。相手が何も知らないことをいいことに、適当に誤魔化し続ける。
こちらにジト目を向けてくるマロンちゃんの視線が厳しい。あれは薄々勘づいてるね。
それでもわたしは素知らぬふりを通した。ルーシーも機密事項に抵触することには、のらりくらりと答えるばかり。
そして我が地下要塞は機密事項の巣窟みたいになっていたので、奥へと進むほどに見学会は途中からやっつけ仕事感が半端なくなる。最後の方なんてもうグダグダだ。なにせいかなる質問にもノーコメント連発とあっては、参加者たちの興もさめるというもの。
なんともいえない空気のままに指令室へと到着。
このままではマズいと考えたわたしは、皆にえらそうにこうのたまった。
「諸君を今日ここに招いた意味をよくよく考えるように。リリアちゃんはいずれリスターナを背負って立つ身。その身近にいるということは、諸君らもいずれはその側に立つということだ。それはつまりこの国の秘密にも触れるということ。ここを諸君に見せたわたしの誠意を、どうか忘れないでほしい」
不意打ち気味に急に声のトーンを落として、マジメな顔でマジメなことを言われて、戸惑いつつもゴクリとノドをならした生徒たち。
わたしとしては「今後ともリリアちゃんをよろしく」の意味を込めた、やんわり恫喝。
もしも裏切ったり、彼女に不利益なことをしやがったら、たちまちペンシルが飛んでいくからな。
彼らとて伊達に上流階級のお子さまたちではない。
すぐさまわたしの言葉の裏に潜むであろう、真意を察し、「はい」と元気よくお返事。
ふぃー、あぶなかったぜ。
なんとなくそれっぽく話をまとめることが出来た。
でもちょっと失敗しちゃったこともある。
シュタッと手をあげたのはマロンちゃん。「何かね」と鷹揚に応じるわたし。
するとくるくるカールなマロンちゃんは言った。
「お話はよくわかりましたけど、今日のことをどうやってレポートにまとめろと」
見たこともない乗り物の数々に、密かに建造されていた地下の怪しげな巨大施設。
超優良種たるハイボ・ロードぞろぞろ。
ルーシーの分体であるビスクドールもぞろぞろ。
ヤバそうな品がごろごろ。
しかもなにやら国の暗部にどっぷり触れるような内容の数々。
うさん臭さ二百パーセントオーバー。あまりの盛りだくさんぶりにて、きっと都市伝説マニアですらもが鼻で笑うことであろう。
「とても社会見学のレポートに書いて提出なんてできやしないよ」とのマロンちゃんの嘆き。
これにはわたしとルーシーも「「あっ!」」
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