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098 妄想探偵リンネ
しおりを挟む王弟暗殺未遂事件の現場から採取された女の指紋。
それはかつてリスターナを窮地に陥れた、あのカーク王子の周辺をうろついていた女と同じものであった。
はたしてこのことが示す真相やいかに!
そんなワケで始まるリアル推理ゲーム。
探偵役はこのわたしことアマノリンネ。
またの名を妄想探偵リンネ。
一歩も動かずに調査はすべて部下に丸投げ。逐一あがってくる報告だけを頼りに、勝手な妄想を垂れ流す探偵を気取った、ぎゃあぎゃあ泣く子も「えー」と呆れる小娘さ。
頼れる助手は青い目をしたお人形のルーシーを筆頭に、他にも鬼メイドのアルバや伝説の種族やら、すごいのがぞろぞろいるぞ。
どれくらいすごいのかというと、街に潜む悪党あらば街ごとぽしゃって退治できるぐらいにすごいのだ。
だからわたしは動かない。
頼もしい部下たちを信じているから。
さて、先にもたらされた情報から考えられることは、二つ。
妄想その一。
じつはアーク・ル・ラグマタイトには裏の顔があって女を操り、カークをそそのかしてリスターナに災いをもたらしていた。
その理由は、ズバリ嫉妬だな。姉のメスライオンことジャニス女王がシルト王にぞっこんなのは周知の事実。このままでは姉をとられると考えた弟。シスコンを拗らせた末の凶行。
妄想その二。
女の背後にはまったく別の存在があり、彼女は各国をまたにかけて暗躍している凄腕女スパイ。ときには味方、ときには敵。それどころか恋人だったりすることもあるかもしれない。神出鬼没にて男を惑わす腰のくびれと胸の谷間の持ち主に決まってる。
ふふふ、どうだい?
妄想探偵リンネさまは妄想がたくましいだろう?
伊達にお母さんに付き合って、だらだらと二時間サスペンスドラマを見ちゃいねえぜ!
たぶん生まれてからこっち、視聴した作品数は軽く千は越えているね。
週末の午後とか再放送二連ちゃんとか、ふつうにしてたし。青春をムダに消費し、休日を棒に振ることにかけては、ちょいと鳴らしたもんよ。
だからわたしの妄想力は一級品。
ただし推理力は三級品。
でもそれはしようがない。そもそも推理力が鍛えられるような生活環境なんてイヤだもの。行く先々で事件と遭遇なんてしたくないやい。あだ名が死神とか疫病神って呼ばれるのはあまりにもかなしすぎる。
「と、わたしはこんな感じにて妄想するけど、ルーシーさんのご意見は?」
「そうですねぇ……。とりあえず妄想その一の線はないかと。なにせアーク王弟は愛妻家で有名ですし、子煩悩にて三人のお子さまたちを溺愛しています。ちなみに奥さまはほっそりした控えめな方らしく、ジャニス女王とは対極に位置する女人ですから。よってシスコン説も却下ですね」
「ならば残りは妄想その二か」
「それはなんともお答えしかねます。とりあえずはナゾの女の行方を追うことが先決かと」
「そっかー、じゃあ、その線でお願い」
「了解しました。では、またのちほど」
以上、通信終わりにて、あとは続報を待つばかり。
ルーシーとのやりとりを終えたら、なにやらみんなの視線がこちらに集中している。
ためしに手にしていたスマートフォンっぽい通信端末を右へ左へとゆらしてみたら、それに合わせてみんなの首も動く。
どうやら、こいつに興味津々のようだな。
そういえばみんな十代。ちがう次元出身とはいえ文明レベルや歴史は似たようなものを辿っているケースがほとんど。
つまりこの手のアイテムがあるのが当たり前にて、こいつがなければ朝も夕もないような環境に育ったヤツが大半と。
アイさんも「いいなぁ、いいなぁ、わたしも欲しいなぁ」
そりゃあ、さぞ欲しかろう。でもこれはまだまだリスターナを中心としたごく一部の者にしか出回っていない貴重品。だからあげられないよ。
「そのうち一般向けに売り出したら買ってね」
わたしがニコリと微笑むと、みんなは露骨にざんねんがっていた。
しかしこのことがきっかけとなって、みんなの頑なだった態度が少しばかり軟化。ぽつぽつ近くの者同士にて、ひと言ふた言と会話が起こり始める。
ふむ、善きかな善きかな。
どれ、ではここいらでリンネさんが奮発してチョコレートとカップラーメンの差し入れでもしてやろうか。宣伝がてら、場をおおいに盛り上げてやろうとも。
さぁ、若人たちよ。飢えたブタのごとく青春の味を貪り喰らうがいいさ。
汁まで一滴残らず飲み干せるのなんて、いまのうちだけだからな。大人になってからやったら痛風街道驀進しちゃうからヤメとけよ。
用意した品はもちろん大好評につき結果は上々。
ジャンクフード世代の若者たちは涙を流さんばかりによろこんだ。
むっつり顔のラグマタイトの勇者くんすらもが、しみじみとカップ焼きそばを食していたよ。あとでお土産用にもたんとわけてあげる。せいぜい国元にもどって宣伝しておくれ。リスターナの次期主力商品になる予定だから。
みんなの歓喜の裏で、しめしめと一人ほくそ笑んでいると、そのタイミングでふたたびわたしの通信端末がぷるぷる。
「もしもし」
「こちらルーシーです。例の女の居所をつきとめました」
はやい、いくらなんでも早すぎるよっ、ルーシー!
尺が短すぎるよ。うまいことやればコレだけでけっこう話が引き延ばせるというのに。だらだらワンクール追いかけっことかできたのに。
サスペンスには情緒や余韻や間ってのが必要なんだよ。せっかちにもほどがあるよ!
と、わたしは心の中だけで叫ぶ。
デキる女上司というものは、部下のがんばりを否定してはいけない。
なおスピード特定に至った理由は、以前に作成してあったモンタージュが役に立ったとのこと。それを手に都中をセレニティ忍軍がシュタタタタ。
圧倒的機動力を活かしたローラー作戦にて、瞬く間に対象の居所を特定。
ウチの助手どもが優秀すぎて、ちょっとツラい。
だがそんな心情は億尾にも出さない。
いい女とは表と裏の顔を使い分けるものなのだ。
まえに古本屋の特売コーナーにあった背表紙の色あせたビジネス書に、そのようなことが書かれてあった。えーと、たしか「悪魔の人心掌握術。周囲の男どもの泳がせ方」というタイトルだったかな。わざわざ手に取って立ち読みをした甲斐があったというもの。
あのとき学んだ知識はたしかにわたしの中で息づいている。
ありがとう、特売コーナー。
ありがとう、お母さん。
わたしはノットガルドで元気によろしくやっています。
「それで例の女はどこで見つけたの」
「教会支部です」
おっふ、ここにきて信仰が絡んできたか。
とってもイヤな予感がビンビンするよ。
まだまだ当方準備不足につき、女神さまとことを構えるつもりはない。
さて、どうしましょう……。
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