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104 駆け落ち
しおりを挟むメローナ・ル・ギャバナ。
大国ギャバナの第二姫にして三男二女の末っ子。
燃えるような赤髪と同様に気性が荒く情熱的な姫君にて、目立ちたがり屋で仕切り屋でみんなに注目されたがり屋の野心家。上昇志向の塊なのはけっこうだけれども、能力がいささか物足りない。あと努力も足りない。そのくせ外面はよく、自己中心的な性格にて、マジメに関わるほどにこちらが損をする人物。
元光の勇者アキラ。
異世界渡りの勇者。自己顕示欲の塊みたいな性格で、自分が一番じゃないと気がすまない男。かつてはギフトである光の剣を手に、ブイブイいわせていたがリンネに敗北してまんまと剣を奪われる。以降はただの勇者として、それなりに活動を続けていた。やはり外面がすこぶるよいので一般人気はそこそこ。
メローナとアキラは似た者同士のカップル。
姫君と勇者のラブロマンスは大衆的には好評。
が、両人の本性を知っている者たちは、とても冷めた目で見ているのが実情。
もちろん、わたしもそっち側だ。
だから二度と関わり合いになりたくないと、心の底から願っていた。
なのにリスターナに帰国したら、バカップルが待っていたよ。
だいたいの事情はライト王子よりの通信にて把握している。
その事情というのが……。
ある日、ギャバナに遠方の大国カーボランダムから一通の親書が届く。
なかにはこう書かれてあった。
『貴国の第二姫メローナ・ル・ギャバナを嫁にもらい受けたい』
国同士の結びつきを強固とするための王族同士の婚姻は、とくに珍しいことではない。
だがギャバナ側はこの申し出にたいそう困惑した。
あまりにも突然の話ということもあるが、何よりも相手が異種族であったからだ。
カーボランダムはドラゴロートという種族が治める国家。
ドラゴロートは見た目こそは人間種に似ているが、やや首が長く、カラダのところどころに鱗があり、中味はまったくの別物。
そしてノットガルドでは基本的に異種交配は、ごくごく一部をのぞいて成立しない。
なのに姫君を寄越せということは、事実上の人質として差し出せという意味になる。
とどのつまり自国の傘下に入れとの一方的な通達。
ギャバナとて近隣に並び立つ者のいない大国。
「いったいスコロ・ル・カーボランダムは何を考えておるのか!」
当然のごとくカーボランダム側からの勝手な物言いにギャバナ側は激怒し、要望を突っぱねる。
しばらくするとまたしても親書が届き、そこには『もしも要望を飲まねば相応の対抗処置をとる』との身勝手な文言。
だからギャバナは相手にせずに、無視を決め込む。
すると起こり始めたのは空路での異変。
ギャバナは広大な領土や関係国との間の物流の大半を、陸路と水路にてまかなっており、飛竜を用いた空路は全体の一割にも満たない。
他国へと使者を飛ばしたり、急な連絡があるときに活用する程度ではあったのだが、これがしばしば何者かの妨害を受けるようになっていく。
この変事を受けて、ギャバナはすぐにカーボランダムの妨害工作だと疑った。
なぜなら彼の国は飛竜やドラゴンの一大生息地を保有しており、主に飛竜乗りらで構成された空挺大隊がとみに有名であったから。
だから何とか現場を押さえて尻尾を掴もうと、オトリを飛ばし罠を張るも失敗。
かろうじて持ち帰れた情報は「みたこともない生き物にて、パラパラと雨粒が布を打つかのような音がしたとおもったら、あっという間にやられていた」というものだけ。
襲撃者が飛竜ではない。このことがギャバナをやや弱腰にする。
ろくな証拠がない以上は抗議をしたところで、とぼけられるのがオチだ。
どうしたものかと打開策を検討しているうちに、今度はギャバナと関係のある周辺国にても同様の被害が出始めた。
国によっては空輸の占める割合が高いところもあり、影響が深刻化。
ナゾの襲撃者による被害とウワサはまたたくまに各国に広がり、それにともなって一向に事態を打開できないギャバナへの不満もくすぶり始める。
日頃から貢物をして頭を下げているのは、いざというときに守ってもらうため。
それがなされないということは国家間の信用問題に直結する。
そんな中で市井にこんなウワサが流れた。
「この怪事は、どうやらメローナさまが婚姻を拒んでいるせいらしい」
このウワサに対する大衆の反応はじつに様々。「大国にケンカを売るとは生意気な」と憤る愛国心溢れる者、「姫様おかわいそう」とは勇者との関係を応援している者、「戦争になるぐらいなら王室の責務を果たせ」と唱える者、「なんでもいいから早く解決してくれ」と嘆くのは空路に携わる者、「なにを弱腰なっ!」と声を荒げる者などなど。
結果として国内はわりと紛糾して騒然となる。
実にタイミングよく流れたウワサにて、これもおそらくはカーボランダム側からの裏工作なのだろうと、ギャバナの首脳陣はわりと冷静。
首脳陣の考えでは、あえて無理難題を突きつけて、こちらの動揺を誘い暴発すれば、これを口実に戦端を開く。
もしくは騒動の果てに会談を行い、より有利な条件にて条約を締結するつもりなのだろうとの予想。
よってうかつに挑発に乗るつもりはなく、粛々といざという時の準備を整え対処するつもりであった。
だがここで一つのとてつもない大誤算が生じる。
メローナ・ル・ギャバナである。
世界は自分を中心にして回っているにちがいないのだと夢みるお姫さま。
そんな彼女が突如として大国同士の騒動の渦中へと放り込まれた。
いきなりのメインヒロインに大抜擢!
こいつに浮かれたメローナはこう考えた。
「あぁ、なんて罪つくりなワタクシ。異種族であるドラゴロートの若き王をも惑わしてしまうだなんて。きっとこの美貌がいけないのね。でもワタクシは大国の華として生まれてしまった。みんなを魅了してやまない可憐かつゴージャスな華として! でも、困ったわ。ワタクシにはすでにアキラという心に決めた人がいるもの。それにいかに大国の王とはいえ異種族の殿方との婚姻はちょっと」
そして状況にすっかり舞いあがっているメローナはムダに思い詰めた。
「このままだと大人たちのゲスな思惑にて、きっと悲劇的な結末を迎えることになるかも」と。
盛大なる勘違いである。
ギャバナのえらい人たちは、ただの誰一人とて、こんな爆弾娘を外部に放出するつもりはなかった。
だというのに勝手に出て行ってしまったから、さぁ、たいへん。
しかも準爆弾男である勇者アキラと手に手をとっての逃避行。
俗にいうところの駆け落ちであった。
「で、その駆け落ちした姫さまと勇者さまが、どうしてリスターナへ?」
こめかみをピクピクさせながら、憮然とした態度のわたしを前にして、メローナ姫は言った。
「だってワタクシたちってば有名人でしょう。大きな国とか都会だとすぐに身分がバレてさわぎになっちゃうから。その点、ド田舎だったら安心かなぁって。でもびっくりしましたわ。想像していたのよりも、ずっとキレイな国だったのですもの。さすがはワタクシの永遠のライバルであるリリアさんの生国だけのことはありますのね」
貶して、褒めて、ナゾのライバル宣言。
かつて自分が行った数々の悪行については、ぬるっと忘れてのこの言い草。
おもわずクラっときたよ……。神鋼精神の持ち主である、このわたしが。
なんというご都合主義のポジティブシンキング。
「いきなり押しかけてすまない。でもこのボクを負かしたキミのところなら、きっと匿ってくれるとおもったんだ」とはアキラ。
てめぇ、交流試合の最中に何度もこっちの首を狩ろうとしていたというのに、どっからその自信が発生する? あの戦いをふり返り、たとえ電子顕微鏡で入念に探そうとも、そんな可能性は一粒たりともなかったはずだ。
これはアレかな? 拳を交えたらオレとおまえはもうダチ公理論ってやつかな。
そんなもんが成立するのは少年マンガの世界だけの話だよ。
実際には一度モメたら、だいたい末代までモメるよ。
完全和解とか表面上だけで、ずっと心の奥底でぶすぶす燻り続けているよ。
やられた方は一生忘れないんだよ。
むちゃくちゃ根に持つんだよ。
だというのにこの男は……。
もう、ヤダ、このバカップル。
だれか助けて!
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