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105 認めがたい事実
しおりを挟むギャナバからの迷惑な客、駆け落ちカップルのメローナとアキラ。
ド田舎に行けば、目立たないから安心だろうとのたまったけれども、これがおおきな勘違い。
わたしはいっつも宇宙戦艦「たまさぶろう」にてギュギューンと行っちゃってるけど、そもそもノットガルドの大地は広大。星自体が地球の何倍もあるし、大陸だって大中小とデカいのがそろい踏み。
だから本来であれば移動はけっこうたいへんなのよ。
陸路だと街道とかは国によって設備に差があるし、道が途切れていることもしばしば。地域によっては紛争をしているし、賊もわらわら。
水路での船旅だとそれこそもっと限定される。その分目が届きやすいから、治安はわりとしっかりしているけれども、やっぱり水賊みたいなのが出るときは出る。
そして空路となると飛竜単体や複数仕立てによる飛竜船などを利用することになるので、個人で所有しているのでもないかぎりは、航路はある程度限定される。そして空賊なるものも存在するらしい。
飛行魔法もあるけれども、ハイボ・ロード級の魔力と体力があれば、それこそ大空にて大陸横断とかやれちゃうけれども、ふつうはまず無理。
すぐにつかれて着陸。飛んでは着地をくり返すことに。
よほど計画的に飛ばないと、途中で魔力切れでヘロヘロになっているところを、飢えたケモノや賊とかに襲われちゃう。うっかりモンスターの縄張りとかに足を踏み入れてもやっぱり襲われちゃう。どのみち末路は悲惨だ。
ジェット機みたいに飛んでいた炎の魔女王ジャニス・ル・ラグマタイトが例外中の例外。というか、あの人も立派に規格外のお仲間。たぶんメスライオンはうっかり間違えて人間種に産まれただけだと思う。
まぁ、それだけ空中で姿勢を制御するのは難しいということ。
いかに魔法や魔力といったナゾパワーが幅を利かせているノットガルドとはいえ、空気抵抗とか揚力の流れとか、いろいろと小難しい諸問題をクリアしてようやく、大空は狭き門戸をちょびっと開いてくれるのだ。
なお転移魔法は存在しない。それは完全に神の領分に入るようで、あらゆる情報がシャットアウトされている。アカシックレコードにもまるで記載がないとはルーシー調べ。
あとは移動手段として空間系のギフトやスキルもあるが、それこそ激レアにてまず市場には出回らない。国が保有していれば秘匿するし、個人もまたしかり。うっかり持ってることがバレたら、それこそ死ぬまでつけ狙われて地獄の逃亡人生を送るハメになる。
で、赤髪のお姫さまとそこそこ貴公子風の勇者さま。
愛の逃避行としゃれこんだ二人が、こっそりひと目を忍んで野を越え山を越え、泥水をすすり、雨風に打たれて、艱難辛苦の末にボロボロになりながらも、ようやくリスターナにたどり着いた。
なんてわけもなく、それはもうピカピカの状態でのご来訪。
つまり大国からド田舎の辺境の小国まで、各種公通機関やらを堂々と乗り継いでやってきたから、メローナ姫と勇者アキラがリスターナへと逃げ込んだという話は、すでに周辺諸国にモロばれ。むしろ宣伝して歩いていたようなもの。
これでバレていないと考えられる彼らのおめでたい脳内には、さぞや見事なお花畑が咲き誇っていることであろう。極楽浄土はここにあったよ!
もちろんギャバナ本国もきっちりと二人の行方を把握しているからこその、ライト王子からの連絡であったのだ。
それにしてもメローナ姫とライト王子は、よほど相性がわるい兄妹らしい。
ことごとく兄の予想の斜め上を突き抜ける妹。
ライト王子も、「まさかどの面下げてリスターナへ? さすがにそこだけはないだろう」と考えていたらしくって、逃亡先を諜報員から告げられたときには開いた口が塞がらなかったとか。しかもその諜報員から「これほどラクな追跡調査ははじめてです」といわれて頭を抱えたという。
さて、ではこんな迷惑なお客さまを急に迎えることになったリスターナ側はどうかというと、それはもう盛大に混乱したよ。
仮にも相手は大国ギャバナの姫君なんだもの。
オマケの勇者はともかくとして粗略に扱うわけにはいかない。それ相応のおもてなしが必要。
でもシルト王は五カ国会議へと出席しており留守。
元王妃と第一側妃は先の騒乱の責任をとって自主的にこもったまま。
他国の王族がお相手となるので、こちらも匹敵する身分の人材を当てるしかない。
となれば現在、リスターナで動けるのはリリアちゃんのみ。
こうして急遽、ホスト役に駆り出されたリリアちゃんは大慌て。
それでも友人知人諸先輩方みんなの助けを借りて、どうにか体裁を整える。
なおリスターナの国民たちは、わりと好意的に大国からの客人たちを歓迎した。
極めて不本意かつ、認めがたい事実なのだが、先の敗戦から現在の復興へと至る過程の中で、外国からの初の貴賓となるのが、メローナとアキラ。
そしてこの二人は外面だけはいいので、大衆には人気がある。
一国の姫君と異世界渡りの勇者との恋物語としても有名だし、何よりとっくに風のウワサで二人が愛の逃避行中らしいと知れ渡っている。
見目麗しい姫が大国からの理不尽な要求に耐えかねて、愛する勇者とともに手に手をとってとか。いかにも一般大衆がよろこびそうなゴシップネタ。
つねに娯楽に飢えている大衆はパクリとこれに飛びついた。
それだけみんなの暮らし向きにも余裕が出てきた証拠でもあるのだが、わたしとしては素直によろこべないものがある。
よほどたいへんだったのだろう。
帰国したわたしたちの姿を見たとたんに、リリアちゃんは心底ほっとした表情を浮かべてみせていたもの。
バカップルに振り回されて、かわいそうにやつれていたよ。それでも一切弱音を吐かないリリアちゃん。そんな彼女をわたしはおもわず抱きしめずにはいられなかった。
ずっと彼女のそばで手伝っていたというマロンちゃんにいたっては、「なんなのよ! あの二人は! 聞いてたのとぜんぜんちがうじゃないっ!」と憤慨。
敏いマロンちゃんは早くも二人の正体に気づいてしまったようだ。いつかは自分の姉であるキャロ・グラッセのようにステキな旦那さまをと願う乙女は、自分の知るステキカップルとはあまりにもちがう男女の姿を前にして、かなり衝撃を受けてしまったようだ。
ガッデム、うちのマイシスター二号になんてことしやがる!
なお出迎えてくれた宰相のダイクさんと将軍のゴードンさんの顔は、ちょっとこわくてまともに見れなかった。
でもね、こんなのは序の口だった。
バカップルの真の脅威を目の当たりにするのはこれからだったんだよ。
そしてわたしは自分がずっと勘違いをしていたことに遅まきながら気がつく。
ライト王子はあのとき確かにこう言ったんだ。
「先に謝っておくぞ。すまない、うちの妹が迷惑をかける」
それって「滞在中に妹が色々とわがままを言ってめんどうをかけるけど、どうかよろしく」という意味だとばかりおもってたんだ。
だけどちがった。
正しくは「妹がとてつもないめんどうを引き寄せるので、よろしく」の意であったのだ。
それはバカップル滞在五日目にして判明する。
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