106 / 298
106 勇者ツバサと空の王
しおりを挟む飛竜やドラゴンたちの一大生息地を領有するカーボランダム。
その大国は空に浮かぶ巨大な島にあった。
空と共にあり、空と共に生きる者たちの国。
その国のことを知ったとき、失敗続きですっかり意気消沈していた僕はとても興奮した。
小さい頃は紙飛行機ばかり作っていた。
風を受けてスイスイ飛ぶ姿を見ているのが、楽しくってしかたがなかった。
やがて興味は空飛ぶ機械の飛行機へと移って、高校生になる頃には立派なオタクになっていた。
だから異世界であるノットガルドへと渡る際に求めたのも、空に関するチカラ。
でもあいにくとそんな都合のいいギフトはなかった。
だからよくよく考えた末に神さまから「シュミレーション」というチカラをもらうことにした。これは数値や設計図などのデータを頭の中で処理してシュミレートできるというもの。一人コンピューターみたいな能力。直接的な戦闘能力ではないけれども、使い方次第ではかなり有利にことが運べるはず。なにより僕の願いを叶えるのに必要だとおもったからこその選択。
世界の壁を超える際に発現するスキルは才能や願望に左右されるとの話だったけど、こちらは「風力操作」というものであった。
風を操ったり流れを読んだりする。がんばれば天候を左右することも可能。
これもまた使い方次第でいろいろ出来そうだけれども、僕の夢を叶えるのに役立つであろうからおおいに満足する。
僕はずっと空を手に入れたかった。
両親にツバサと名付けられたせいか、ずっと翼を持つ者への憧れがあった。鳥が羨ましくってしようがなかった。
その想いがいつしか飛行機へと向かい、これを操縦したいと考えるのと同等以上に、これを造りたいと渇望するようになっていく。
ノットガルドには魔法があり、僕には風力操作のスキルがある。
だからすぐに空を自在に飛べるかとおもったけれども、それは考えが甘かった。
もとから飛行魔法はあるものの、魔力量との兼ね合いや、空中での姿勢制御など課題が多く、とても僕の体力や魔力量で扱えるシロモノではないことが、早々に判明する。
レベルをあげれば強くなり魔力の総量も増えると言うから、戦闘もがんばってみたけれども、あいにくと僕のギフトとスキルはあまりそっち方面には向いていない。
ゲームのようには都合よくはいかず、寄生プレイや安直な手段は通用せず、どこまでも個人でがんばるしかない。
そもそも僕自身の性格が荒事に向いていない。
ろくすっぽ運動もしてこなかったツケがここにきて重くのしかかり、レベル上げもままならず、早々に召喚先の国からも愛想をつかされた。
そんなときにカーボランダムのことを知った。
行ってみたいと思った。
だからおずおずと「国を出たい」と申し出たら、あっさりと了承された。
たとえ戦えなくともギフトのシュミレーションは国家運営や軍事戦略において、かなり有益だ。
だがそれも信頼と実績という土台があったればこそ。
えらい学者先生が唱えるからこそ、みんなはその意見に耳を傾ける。
積み上げてきたモノがあるからこそ、鑑定師の言葉を信じてみんなは品物に価値を見出す。
どこの馬の骨ともわからない者が、路上で声高に叫んだところで、だれも気にもとめやしない。社会的地位があるはずの政治家先生たちの演説すらもが、ほとんど無視される。
いくら正確なことを演算処理にて導き出したとしても、土台がない相手が信用されるわけもなく、また強固な土台を築くには相応の労力と時間が必要。
ぽっと出の異世界渡りの勇者で、他人と接するよりも好きなモノとばかり接してきた僕に高いコミュニケーション能力があるわけもなく、上手にプレゼンテーションもできやしない。
ただの学生であったがゆえに、周囲から認知され正しく理解される重要性についてまるで気づけなかった。
とどのつまり、僕は異世界デビューを失敗したのである。
そんな僕が不慣れな長旅を経て、無事にカーボランダムへとたどり着けたのは、かなり運によるところがおおきい。実際、なんども危ない目にあった。イヤな光景もたくさん目にした。北方では魔族が暴れており、各地で戦争が起こっているということを、まざまざと見せつけられ思い知らされた。
それでも僕は空の国を目指した。
そしてようやくたどり着いてから、ハタと気がつく。
空への渇望から、心のおもむくままにやってきたまではよかったのだけれども、その先のことは何も考えていなかった。
「これからどうするかな……。飛竜乗りを目指すべきか、でもアレって操縦するのにもの凄い技術や体力がいるんだよなぁ。運動音痴な僕にはむずかしいか。飛竜船の船員ならどうかな、でも」
飛竜船の港が見下ろせる丘の上にて三角座りをしつつ、ぼんやりと飛竜やらドラゴンたちがふつうに飛び交っている光景を眺めながら、これからのことを思案していたら、不意に影が差した。
見上げた先には一頭の紅い飛竜。
緑や黒いのはよく見かけるけれども、この色は珍しい。
とてもキレイな個体だ。
おもわずそうつぶやいたら、「なんなら乗ってみるか?」と声が降って来る。
それは紅い飛竜の背にて手綱を握っていた男の声であった。
やや長めの首に、白目の部分と黒い瞳孔部分がくっきりとした瞳、カラダの端々に露出しているウロコ、ドラコロート族だ。
腕のいい飛竜乗りは必ずといっていいほどこの種族にて、空は自分たちの故郷であると公言してはばからない者たち。
男性に勧められるままに飛竜の背にまたがった僕は、大空の雄大な景色に感嘆するばかり。
「どうして僕を誘ってくれたのですか?」
ためらいながらたずねると彼はこう答えた。
「ずいぶんとシケたツラをしてやがったからな。そんなときには空を飛ぶにかぎる」
これがカーボランダムを統治する若き王スコロ・ル・カーボランダムと、僕こと勇者ツバサとの出会い。
僕たちは不思議とウマがあった。空という共通の話題にておおいに盛り上がる。
スコロ王は僕がこの地に来た理由を聞いて、豪快に笑う。
そして僕が抱く夢を知ると、「おもしれえ、気に入った! オレが援助してやるからやれるだけやってみろよ。そしていつかオレの飛竜とおまえの飛行機とでいっしょに飛ぼうぜ」と言ってくれた。
それからは王の言葉に甘えて研究開発に没頭し、ついにあの日の約束を僕たちは叶えた。
それと同時にカーボランダムは新たな空戦力をも手に入れる。
飛竜やドラゴンたちはたしかに強力かつ有力ではある。
だが育成と訓練に膨大な費用と時間がかかり、なにより性能が乗り手の才能によるところがおおきい。
それゆえに貴重なので、おいそれとは実戦投入されないのがノットガルドの常識。
でも僕が開発した飛行機はちがう。
きちんと訓練さえ積めば、たいていの者に扱える。生産も資源さえあればいくらでも可能。数が揃えられるし、個体差がほとんどないので、編隊飛行などの行軍活動では飛竜たちよりも格段に優れている。なにより機械は疲れを知らない。
新たな翼を手に入れたスコロ・ル・カーボランダムは声高に宣言する。
「時は満ちた。いまこそすべての空を我らの手に! まずはギャバナを落とす。あそこは資源の宝庫だからな。そして戦力のよりいっそうの拡充をはかり、世界中の空へとはばたくのだ」
4
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる