125 / 298
125 烈女学園風雲録その一
しおりを挟む廃墟の様相を呈している建物内の長い廊下を颯爽と歩くのは、紫の髪をたなびかせる背の高い女。その右腕には青いスカーフが巻かれてある。
彼女こそが秘密の花園の三巨頭がうちの一角、バイオレット・ノヴァ。
青薔薇団を率いる女偉丈夫の背後には、同じ色のスカーフを身につけた一群が黙って付き従っている。
美貌と武力、天より二物を与えられたバイオレットは、それゆえに故国を追われ、はるか遠い地にあった聖クロア教会の総本山オスミウムへと送られることになる。
生まれながらのカリスマ、圧倒的存在感。
あまりにも強すぎる光に周囲は耐えられなかった。
父母弟、家族すらもが彼女に漠然とした恐れを抱く。ゆえに自然と家族とは距離をとることになるバイオレット。
王母はそんな彼女に目をつけて、孫の王子の後事を託すことにした。許婚としたのである。
そのことに当初は王族のみなも賛成していた。だがバイオレットと接触する機会が増えるほどに、彼女という人物を深く知るほどに、不安感に苛まれるようになる。
「もしもこの女が王妃になったら、間違いなく簒奪される」
いつしか不安は妄想となり、根拠のない恐れを産み出し、心を蝕んでいく。
それでも表面上は穏やかな時間が流れていった。
そんな偽りの平穏が崩壊しはじめたのは王母が亡くなった直後から。
バイオレットの唯一の理解者にして、守護者であった王母の存在が消えたとたんに、それまでずっとビクビク震えるだけであった小者たちが動きだす。
バイオレットは自分を取り巻く環境に暗雲が垂れ込めるのには気がついていたが、あえて何もしなかった。
なぜなら尊敬できる人物がいなくなった国に、特に未練はなかったから。
それでも自分から出て行かなかったのは、故人への義理のため。もしも王母の願い通りにことが進むのであれば、たとえ愚鈍な王子であろうとも妻として支え、国をおおいに盛り立てるつもりであった。
が、結末はあまりにもしようもないものであった。
学園の卒業式の後のパーティー会場の席にて、公衆の面前での突然の婚約破棄宣言。
どこぞの令嬢の腰を抱きながら、壇上よりこれを高らかに告げたときの王子の勝ち誇った顔。
優れ過ぎた許婚を持ったせいで、ずっと劣等感に苛まれ続けて、すっかり歪んでしまった青年は、自分の性根のダメさを棚に上げてすべての責任をバイオレットへと押し付けていた。
だからこれは彼にとっては復讐にて、おおいに溜飲を下げるための儀式となるはずだった。
けれども王子は、いや、このサル芝居に加担した王族や周囲の者たちは見誤っていた。
王母という存在を失って、解き放たれていたのは何も彼らだけではなかったということを。
バイオレットの拳が踊り、蹴りが舞う。
華やかな舞踏会が一転して凄惨な武闘会へと変わり、最後に舞台に立っていたのは全身を朱に染めたバイオレットただ一人。
血の惨劇を起こしたバイオレットは震える王よりオスミウムの修道院行きを命じられると、粛々とこれに従う。ただしたっぷりと持参金をせしめることは忘れなかった。
青薔薇団が廊下を進んでいると、向こう側から違う一団が姿を見せた。
先頭を歩くのは軽く波打つピンクの髪をふはふはさせている肉付きのよい体をした乙女。その右腕には白いスカーフが巻かれてある。
彼女こそが秘密の花園の三巨頭がうちの一角、リリー・ピースクラフト。
白薔薇団を率いるドレス姿の背後には、同じ色のスカーフを身につけた一群が黙って付き従っている。
見る者を魅了してやまない愛らしい赤子は、この世に産まれ落ちるなり、まず両親をはじめ周囲をあっという間に篭絡した。
ギフトとかスキルなどではなく天然由来の魔性を秘めた女の子、それがリリーであった。
自分自身のことを自覚してからは、その魔性によりいっそうの磨きをかける。
それもまた才能の一つとして、これを武器に世を渡るだけならば罪はなかった。
だが彼女の魔性はあまりにも強すぎた。肉体的な成長をも加わると、ただそこにいるだけで男どもを誑かし狂わすような存在になっていく。
せめて自分自身を律して自重し、立場をわきまえていればまだ救いがあったのだが、彼女はちがった。
それはもう盛大に自惚れ増長した。「世界中のいい男はすべて自分のモノ」「男たちの愛はすべて自分のモノ」「己の前に女はなく、己の後にも女はなし」と豪語してはばからない。
当然のごとく女たちは鼻白んだ。
だが同性の理解者なんぞ不用と切り捨てたリリーは、ある意味無敵だった。
とっかえひっかえ喰い散らかす。
花から花へ、ひらりひらりと気まぐれに渡る美しき魔蝶。
その裏で道を踏み外した男、泣いた女は数知れず。
そしてついには彼女を巡って戦争までもが勃発。数多の将兵がしょうもない理由にて儚く散っていった。
こうして文字通りの傾国の美姫となったリリー。
が、さすがにこのままですむわけもなく、ついに天罰が下る。
巷にあふれる怨嗟の声に後押しされる形にて、リリー・ピースクラフトのオスミウム行きが決定された。
本来であれば問答無用にて首を跳ねられてもおかしくない状況にあって、そうならなかったのは、司法側にも未練タラタラな彼女のシンパがいたからである。
おそるべきは魔蝶の羽がまき散らす鱗粉、その影響力であろう。
その才能は場所と対象がかわっても、存分に発揮されることとなる。
長い廊下にてバッタリ遭遇した青薔薇団と白薔薇団の両陣営。
「よう、白ブタの君。あいかわらずビッチビチしてるか」とバイオレット。
「あら、ごきげんよう。鍛錬バカさまもついに脳みそまで体同様に筋肉でゴリゴリになったみたいで、なによりですわ」とリリー。
二つの集団は秘密の花園を舞台にして、それはもう激しく対立している。
そして御覧の通り、両当主も激しく反目し合っている。
理由は「とにかく相手が気に入らない」という、その一点に尽きる。
ここは各国から選りすぐりの問題児たちが集積された場所。いろいろあってガマンや忍耐なんて言葉は、どこぞに捨ててきたような輩ばかり。
同病相憐れむとなればもっけのさいわいであった。
だが似て非なるは、やはり別物。
むしろなまじっか似ている点があるからこそ、生まれる憎悪もある。
その結実がこの対立であった。
そしてにらみ合う両陣営のところに、更なる存在が割って入ることで、混迷の度合いはいっそう深まることとなる。
「あなたたちは、またっ! どうして顔を合わせるなり、いっつもそうなるのよ」
一触即発の雰囲気の中で、とつぜんの金切り声。
それを発したのは右腕に赤いスカーフを巻いた赤薔薇団を率いる黒髪の女だった。
3
あなたにおすすめの小説
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる