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136 黒い棺
しおりを挟むギャバナの主都がある広大な湖からはじまる三つの河。
そのうちの一本を半日ほど船で下ると、中規模の湖が見えてくる。
この周辺にて居をかまえているのがアマケイルたち。
彼らは鮮やかな青緑色をした鱗と尻尾がかっこいいリザードマンタイプの種族。
見た目こそは戦士の中の戦士っぽいが、性格は温厚にて主に漁や水産品加工にて生計をたてている。
アマケイルたちの作る乾物は絶品にて、それを仕入れるためにちょくちょく訪問していたおかげで、いまでは「よーきた、リンネしゃん」と入れ歯をした首長のじいさまから、ふがふが歓迎される間柄。
今日も今日とて集落におじゃまをしての歓談まじりの取引。
書面にてきちんと売買契約を交わし「今後ともよろしく」と笑顔で握手をしていたところに、あわてて駆けこんできたのは若い衆。
「た、たいへんです、首長! 川底からヘンなものが出てきましたっ!」
古くから大国ギャバナとその周辺の物流の一翼を担ってきた河川。
下流域に多大な恩恵を与える一方、多くの船舶などが行き来しているがゆえに、沈没事故やら荷をうっかり落とすなんてこともままある。
また水流との絡みにて底に土砂が堆積しやすい箇所もあり、あんまり放置しておくと水深が浅くなってしまうので、定期的にさらっている。これがけっこうな重労働。しかし国も奨励しており補助金も支給され、何よりドロの中からの拾得物の権利が得られるとあって、わりと宝探し感覚にて参加している者も多いんだとか。
本日は川さらいの日にて、たまたまわたしたちの来訪が重なったというわけ。
で、いったい何をそんなにあわてているのかというと……。
「これは……、棺桶なのかしらん?」
わたしは首をひねる。
黒く鉄っぽい素材の重そうな六角形の縦長の箱。
無骨な形状はまさしく棺っぽい。でも鎖でグルグル巻きにて、ごつい錠前つき。
なんとも異様な雰囲気にて、どう見たってヤバそう。
そりゃあこんなシロモノが出てきたら、あたふたもするか。
首長のじいさまは「なんという禍々しさじゃい」と顔をしかめる。
いざ岸に引き上げたものの、集落のみんなも遠巻きにして心配そうに見つめるのみ。
水揚げされた箱を調べていたルーシー。「やたらと入念に目張りがされていますね。溶接までしてありますよ」
これを受けて協議の結果、「ヘンなモノが出てきても困るから、とりあえず御上に届け出よう」ということになる。
とはいえ、お役所を通すと何かと時間がかかっちゃう。
その間中、こんな不気味な品を保管することになるアマケイルたちはたまったもんじゃない。そして彼らの精神衛生状態は彼らの産み出す製品にも影響を及ぼしかねない。
これすなわち当方にも大打撃! なにせ我がインスタント食品製造部門において、いまやアマケイルの乾物は欠かすことができない重要アイテムなのだから。
そこでわたしがひと肌ぬぐことにする。
いや、実際には脱がないよ。脱いだところでどうせみんなから同情の視線を向けられるだけだし。
懐からすちゃっと取り出したるはスマートフォンっぽい通信端末。
連絡相手はギャバナのライト王子。
持つべきものは伝手、素晴らしきかなコネ。ズブズブの公私混同。
迷わず特権を行使すると八コール目にて「どうした?」とライト王子の声。
「あー、実は……」かくかくしかじかと事情を説明したら、「わかった。すぐに専門家を派遣する。だからくれぐれもおまえは箱に近づくな。いいか、絶対に触るなよ」と念を押されちゃったよ。
持ちつ持たれつの関係をつづけるうちに、いまでは「おまえ」呼ばわり。すっかり仲良くなったわたしたち。「リンネ殿」と呼ばれていたあの頃がなつかしい。
待つことわずか一晩。
翌早朝、派遣されてきたのは全身防護服みたいな格好をした面々。
国の呪染専門対策チームなんだとか。
早速、水揚げされた例のブツを調べ始めるチームのメンバーたち。
それを少し離れたところから見物しつつ、わたしは隣のお人形さんにたずねる。
「ねえ、ルーシー。呪染ってなに?」
「魔法の一種ですが、ひらたくいえば呪いの類ですね。リンネさまのもとの世界にもあったかと」
丑の刻参りとか、血で書いた経文とか、不幸の手紙などのチェーンメールもこれに該当するらしい。
ようはこっそり恨みを晴らしたり願いごとを叶えようとする魔法のこと。
魔法や魔力といったナゾパワーのないもとの世界ならば、ただの嫌がらせ。おまじないや悪質なイタズラですむけれども、なにせここはナゾパワーが幅を利かせているノットガルド。
魔法魔術の一分野として確立されているのだとか。
「呪という言葉から縁起が悪そうに感じるかもしれませんが、ようはチカラの方向性のちがいなのです。いかなるチカラも使い方次第。世のため人のためになる呪もあれば、しょうもない呪もあるのですよ」とルーシー。
で、きちんと後始末をしないで適当に処理しちゃって、いろいろと周囲に悪影響を及ぶすことを呪染という。
不法投棄された産業廃棄物みたいなものだな。
「なるへそねー。そういえば重要拠点とか都を作るときに呪術的要素を取り入れたとか言う話を聞いたことがある」
ふむふむうなづきつつ、それらしいことを口にするわたし。
もっともその知識は、ほぼ百パーセント、マンガ由来だがな。
ルーシーとおしゃべりをしていたら、ふいに現場がざわつく。
防護服たちが明らかにオロオロばたばた。
もれ聞えてくる言葉の端々から、どうやらピコピコ動く針のついた金属探知機っぽい測定器を例の棺桶にかざしてみたところ、反応がちょっとシャレにならないらしい。
専門家たちがあわてるってことは、けっこうヤバい?
「いそいで本部に連絡を」「国元とすぐに協議せねば」「念のために広域避難指示を」などという物騒な言葉も飛び交っており、現場が騒然としてくる。
周囲に伝播していく不安と緊張感。
そんなタイミングで「へっくしょん」と威勢のいいクシャミをしたのは首長のじいさま。
拍子に入れ歯がスポンと抜けた。
ギザギザした牙の入れ歯が飛んだ先には、アマケイルの女の子のシッポ。
いきなりカプっと噛まれて「きゃーっ!」と悲鳴をあげる。
すると隣にいたボーイフレンドがおどろいて「わっ」とよろけてドスンと勢いよく尻もちをつく。その尻の下にはまたしてもシッポが。持ち主のおっさんは痛さで「ぎゃっ!」
はずみで手に持っていた作業用の斧を放りだしてしまう。
くるくると宙を舞う斧。
ゆるやかな放物線を描き、向かうは鉄の棺桶の方。
そしてみんなの見ている前で、斧は見事な着地を決めた。
さっくりと突き立つ斧刃。
バキンと鈍い音がして、鎖の一本が切断される。
それに呼応するかのように次々と鎖がぶちぶち切れていき、ついには錠前までもが勝手にガチャンと外れてしまう。
カタカタ揺れて、ピキリパキリと不穏な音を放つ黒い棺。
あちこちに細かいヒビまでもが走る。
「た、退避ーっ!」
呪染専門対策チームの面々が泡を喰って逃げ出す。
見物していたアマケイルたちも、あわてて蜘蛛の子を散らす。
そして棺桶からは黒い煙が噴出し始めた。
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